投資のコンシェルジュ 第11回 世界の分断が、宇宙開発を加速させているのか(前編)
2022.09.21 (水)
既に始まっている、無限に広がる宇宙ビジネスへの投資
「地政学・インフレ」リスク常態化で、「逆・竹取物語」へ急ぐ
今、地政学的な世界の対立軸、米国と中国は「月」着陸を目指し、各々で友好国を巻き込みプロジェクトを急ぎます。これはさながら、結末で「月へ帰る」のが竹取物語なら、結末で地球へ帰る「逆・竹取物語」。既に、無限に広がる「宇宙開発」の覇権へ向けた動きは始まり、それが技術の進化を早めることで周辺ビジネスの成長を加速させるならば、大きな投資機会になりそうです。
2022年2月24日、ロシア進軍で顕在化した世界の地政学的「分断」と金融市場への影響・投資戦略について、第8回「協調デフレと分断インフレ」(2022年6月)、続いて、「分断」が生み出す投資機会、第9回「成長が加速するサイバーセキュリティ」(同7月)、第10回「脱炭素ビジネスを検証」(同8月)、にてご報告して参りました。そして、第11回では「無限に広がる宇宙ビジネス」についてご報告します。
2つの大国が競う、「逆・竹取物語」とは?
米国主導の「逆・竹取物語」:アルテミス計画
2019年、米国を中心に始動した「アルテミス計画」。「アルテミス」は「月の女神」です。2024年に有人で月を周回(その後、地球へ帰還)、早ければ2025年、アポロ11号(1969年)から半世紀ぶりに人類が月面に降り立ちます。
月への着陸が目的であった「アポロ計画」とは異なり、月周辺に宇宙基地(ゲートウェイ)、月面には基地を建設して、持続的に探査活動を行います。そして、月に存在する「氷」から、水およびエネルギーや燃料となる水素、酸素を取り出し、宇宙飛行士の長期滞在、さらには、月を中継拠点として2030年から2040年に火星への有人探査に乗り出し、2050年頃には、人類を火星へ送りたい、と目論見は壮大です。
また、2011年に廃止を決定した「スペースシャトル」計画までの米単独とせず、日・欧・加・豪など8か国で役割を分担します。さらに、国だけでなく民間との共同プロジェクト体制でもアポロ当時とは異なります。各国企業は、蓄積した技術、システムが「アルテミス」のステージで試され、実績はビジネスへ直結できる点でモチベーションは高いはずです。
米国は計画遂行へ新型ロケット「SLS」を開発(ボーイングとNASA)。第1段階「アルテミス1」として2022年夏の打ち上げを予定しています(8月29日、9月3日は延期、9月19日以降に再チャレンジ予定)。搭載する無人の宇宙船「オリオン」(ロッキード・マーチンとNASA)は、月を周回後に地球へ帰還し太平洋へ着水する予定です。2024年「アルテミス2」では、それを有人で実施し、最短2025年「アルテミス3」で有人での月面着陸を目指します。
次に、持続的な月面探査へ、2024年頃から月周回有人拠点(ゲートウェイ)建設に着手、2027年頃に完成させ、2028年からは月面有人活動拠点(ベースキャンプ)建設に着手、本格的な月資源の探査・開発に挑む計画です。それを燃料補給基地とし、最終目的、火星への人類到達を目指すことになります。
月面資源の探査・開発は経済的な魅力が無限大です。氷からは人類の滞在に必要な水、酸素、火星への燃料となる水素の生成が可能です。月への物資輸送は1㎏当たり1億円の費用がかかるとされ、氷採取は大幅な輸送費の削減となります。
一方で、地球にわずかにしか存在しない「ヘリウム3」は、太陽の核融合で発生し月へ届きますが、月の砂の成分「イルメナイト」に10%含まれ、核融合反応により膨大なエネルギーを発し、放射線が少ない、という特徴から、未来のエネルギーとして大変期待されています。月面を覆う粉塵「レゴリス」は、水と混ぜることで強度の高いセメントの様に使えて建設材料として有望視されています。
日、米などでは宇宙の資源の所有権を採取した民間企業に与える法律が整備され、参画企業のメリットは大きく、それだけに、地政学的な対抗軸、「覇権国家」中国は熱い視線を注いでいます。その他、月面への通信基地、データセンター設置などが想定されます。
中国の「逆・竹取物語」:嫦娥(じょうが)計画と露の参画
中国は習氏の体制下、2016年「宇宙白書」において、「地球の資源は全て米国が抑える。宇宙では中国が抑える」とし、2030年の「宇宙強国」入りを打ち出し、技術的に米国を凌駕すべく急ピッチで宇宙関連の技術開発を進め、やはり、関連する民間企業も著しく成長しています。
中国は月探査計画「嫦娥計画」を国家プロジェクトとして2003年から推進。「嫦娥」は中国でいう「月の女神」。軌道周回、着陸、サンプル採取を探査機で行う「探査」、宇宙飛行士を月面へ送る「着陸」、建設する月面基地へ宇宙飛行士が長期間滞在する「滞在」、3つの計画で構成されています。
2007年「嫦娥1号」打ち上げと月観測に成功、2010年「2号」月及び小惑星を観測、2013年「3号」月着陸に成功(世界3か国目)し地形、地質、資源を探査、2014年「5号T1(試験機)」月の裏側を経由し地球へ帰還、2018年「4号」世界初となる月の裏側への着陸に成功(2019年1月3日)、2020年「5号」月面の砂のサンプル採取・持ち帰りに成功、とされます。
ご覧の通り、事実なら、遂行スピードは驚異的です。無人の「探査」は完了し、現在は有人の「着陸」「滞在」を目指しています。2021年3月には、ロシア国営宇宙開発企業ロスコスモス社と共同で月面基地建設を行う政府間合意に署名しました。「アルテミス計画」への対抗を先鋭化しています。
一方で、中国は独自の宇宙ステーション「天宮」を2022年中に完成させる計画です。2021年4月、上空約400㎞の宇宙に基幹施設「天和」を打ち上げ、6月に有人宇宙船「神舟12号」、5月と9月には無人宇宙貨物船「天舟2号」「天舟3号」と、それぞれドッキングに成功しました。2022年8月、船外活動や化学実験をサポートする実験モジュール「問天」を加え、「天和」にある「天宮」全体の管理機能のバックアップを可能にして、2023年の本格稼働に目処が立ちました。
2022年10月に打ち上げ予定の物理などの実験棟「夢天」を「天和」へドッキング、滞在中の宇宙飛行士(空軍パイロットの出身者とみられる)の作業により最終的に完成させる計画です。同月「共産党大会」に花を添え、「宇宙強国」の名乗りを上げるのでしょうか。
2000年に運用開始した西側諸国にロシアを加えた「国際宇宙ステーション」は、2024年の退役予定を米国は2030年へ延長させたい意向です。しかし、既にロシアは2024年で運用から離脱を表明しています。独自の宇宙ステーション建設を目指すということですが、ウクライナへの進軍等で資金難は否めない状況下、「天宮」との連携模索は当然に考えられます。
中国の宇宙開発は、「天宮」やロケットを国有の軍系企業が製作、宇宙飛行士は空軍パイロットと、人民解放軍が先導するだけに、ロシア参画は今後の軍事同盟の方向性、さらなる「分断」を示すことになり得ります。
後編では、宇宙開発の関連ビジネスについて詳しく説明していきます。
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