投資のコンシェルジュ 第11回 世界の分断が、宇宙開発を加速させているのか(後編)
2022.09.21 (水)
前編はこちらから、ご覧ください。
「分断」が宇宙開発を加速させ、関連ビジネスを牽引する
世界の「分断」という潮流が、宇宙開発においては、米中両陣営の大きな研究開発投資を誘引、宇宙関連市場の拡大加速は予想し易く、「スペース革命」は始まっています。
月とその先の火星をめぐり両陣営が展開する争奪戦は、当然に、関連する技術的な進歩を早め、関連ビジネスの市場規模拡大を加速させています。2022年現在、世界の宇宙関連ビジネスの市場規模はおよそ0.4兆ドル(約60兆円)ですが、2030年には0.9兆ドル(約130兆円)と倍増、さらに2045年には2.7兆ドル(約380兆円)と、さらに3倍の拡大が試算されています。「逆・竹取物語」合戦の進展次第ではありますが、それぞれの陣営へ加勢する国は増えることこそあれ、減ることはないはずで、現時点の試算は下限ではないでしょうか。
「アルテミス計画」では各国に役割分担があります。米国はSLSなどロケット開発中心に予算は76億ドル(約1兆円)です。NASAに加え、ボーイング、ロッキード・マーチンなどが技術を持ち寄ります。
日本の同予算規模は400億円と小さいものの、宇宙関連予算全体は5200億円規模まで拡大しています。担当する月面着陸、月面走行ローバー、宇宙貨物輸送などには、JAXAの他、三菱電機、トヨタなど多数の民間企業が参画しています。さらに、「アルテミス」の先、宇宙インフラの活用を見据えた「月面産業ビジョン協議会」では、月の氷を循環活用する電気分解装置(高砂熱学)、月着陸船用のチタン素材開発(シチズン)、月面ビジネス向けの保険(三井住友海上)など30の企業・団体が名乗りを上げ、「2045年に世界400兆円規模」の成長市場の獲得へ、各国は一様に動き始めているとみていいでしょう。
無重力、超低温及び超高温、真空地帯で使用される技術、製品は地球上のスペックは当然に通じず、その欠損は人命にも関わることから参入障壁は高く、「アルテミス」等での採用は地球上でも強い競争力が得られることも、このチャレンジの魅力です。
既に身の回りで、展開されている宇宙ビジネス
「逆・竹取物語」計画には各国予算が投じられ、技術を確立させるステージにはなりますが、ヘリウム3やレゴリスといった資源を地球上で活用するなどのビジネスが成立するのは10年単位の時間がかかる話です。一方で、米国がスペースシャトル廃止を決定した2011年以降、民間の宇宙開発への本格参入により、例えば、ロケット打ち上げコストが劇的に低下し、人工衛星で地球のデータを収集・分析し販売するビジネスが急成長しています。2021年、ロケット打上数が「アポロ計画」当時の140機を超える146機と過去最高。同じく搭載・打ち上げられた人工衛星は1,809機と2020年約1,300機から大幅増となりました。10年前の2011年129機の14倍と急拡大しています。世界累計1.3万台のうち、米国が6,198機と約半分で2位ロシア3,620機を引き離しています。
衛星打ち上げビジネスは、「テスラ」創業者のイーロン・マスク氏が率いるスペースXが先行しています。ブースターなど機体の一部が再使用できる主力ロケット「ファルコン9」は2022年既に30回近く飛んでいます。1回の打ち上げ費用は約60億円、従来の2~3分の1、日本のH2A・100億円対比でも各段に安く、シェアを奪われています。「アマゾン」創業者ジェフ・ベゾス氏のブルーオリジンが続き、結果、米国勢の衛星打ち上げシェアは2021年に76%と圧倒的です。ビジネスとして確立しています。一方で、仏・エアバスのグループ会社・アリアンスペースは打ち上げ成功率100%の実績で高い評価を受けています(同シェア17%)。ロケットの製造で必須となる設計ソフトでは、加・コンステレーションソフトウェアが有力です。機体の空気抵抗等をシミュレーションにより可視化して設計をサポートします。
衛星など宇宙インフラを活用したビジネスは、我々の生活にも密着を始めています。日本が運営する日本版GPS「みちびき」はカーナビではおなじみです。三菱電機は、この位置情報のズレを従来の数メートルから数センチへ抑えるシステムを開発しています。今後の「完全自動運転」実現などへの貢献が期待されます。
世界最大の民間気象情報会社ウェザーニュースは、スマホのアプリでは定番です。全世界の様々な気象情報を顧客ニーズによりカスタマイズして、付加価値の高い情報を配信しています。同社の衛星ネットワークは貨物船の自動運転にも活用の見通しです。
衛星通信では、やはり、スペースXが1万機以上の小型衛星でネットワークを展開する「スターリンク」の技術的な完成度が高まっている模様です。島国が多く、地上基地局によるネット通信速度が他国に劣後する東南アジアでは、フィリピンが同サービスを2022年5月に認可しました。これを皮切りに、多数の島で構成されるインドネシア、マレーシアなど各国で2023年以降に事業を開始する模様です。東シナ海での地政学的リスクの高まりが後押しとなり、有事に備えてベトナムなどでの導入も見込まれます。
一方で、マイクロソフトはスペースXと衛星通信ネットワークを活用したクラウド事業で提携しています。同社は宇宙通信端末の提供でも名乗り出ています。前出の「アマゾン」ベゾス氏をはじめ、IT革命を起こしたGAFAMは、やはり、次世代への成長を宇宙に見出しているようです。
ご報告させて頂きました「分断」が今後の金融市場を変貌させる可能性は高いと考えます。それは先行きのリスクを高めるデメリットとなりますが、メリット=投資の好機も多いとみています。
サイバーセキュリティ、脱炭素、そして、宇宙は、「分断」の進展を背景に市場拡大が見込める分野として魅力的な投資テーマ。一方で、次世代に優位な技術・サービスを持つ企業の見極めは一般的に難しい面はあります。当社では、それら投資機会に着目、関連情報を豊富に取り揃え、「分断」時代の投資戦略へ備えます。次世代の投資について、お近くのアイザワ証券のお店へ、ご相談頂ければ幸いです。
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