株式市場の視点 IMF世界経済予測について
2022.04.28 (木)
IMF世界経済予測について
当面の注目点
先週の日本電産から始まった決算発表が今週から本格化します。また米国の今後の金融政策を決定する米国連邦公開市場委員会(注1)が日本のGW中(5月3、4日)に開催されます。株式市場は今期の業績(企業はどの程度慎重なのか)と米国の金融政策(金融引き締めが景気をどの程度抑制するのか)を読み切れず、27,000円を中心としたレンジ相場に入っています。(注2)
3月のFOMCでコロナ後初めての利上げが決定した後は、イベントを無事通過したことで株価は上昇しました。今回は企業による弱気な業績見通し。FOMCにおける景気抑制的な50bp利上げと量的引き締め(注3)。2つのイベントを通過した後、不安材料は織り込み済みとして上昇するか、もしくは景気や業績への懸念が続くことでボックス相場が継続されるのかを見極める局面です。
4月21日に米国連邦準備理事会(注4)のパウエル議長は、「50bp利上げが5月FOMCで検討され、QTの開始も決定される見通し」また「議長自身はもう少し早いスピードでの対応が適切」と発言。利上げの前倒しにも前向きの姿勢を示しました。この発言により、米国の金利は上昇し、22日の米国株式市場は急激な金融引き締めが景気を後退させると懸念が強まったことよって大幅安となりました。ただ、FOMC前のFRB幹部による発言はパウエル議長が最後となり、今週からFOMC高官による発言が公になることは無くなります。金融政策の引き締めによって経済がハードランディングしてしまうのか、FRBの思惑通りにソフトランディングできるのか、見方が分かれています。
(注1)日本における日銀金融政策決定会合と同じ、金融政策を決める会合です。一般的にFOMCと呼ばれ、以下「FOMC」と記載します。
(注2)ここでの「今期」が示す期間は、3月決算企業の2022年4月から始まり2023年3月に終了する決算期のことを指します。日本の企業の多くを占める3月決算の会社が、4月25日より本格化する決算発表において開示する2023年3月期の業績予想が注目されています。
(注3)FRBが債券などの資産を売却して市場の資金を回収することです。金融引き締め政策の一つで景気抑制効果があります。他にも、「QT(Quantitative Tightening)」「バランスシート縮小」「FRBの資産圧縮」などと呼ばれることがあります。以下「QT」と記載します。
(注4)日本における日本銀行と同じ、中央銀行のようなものです。一般的にはFRBと呼ばれ、以下「FRB」と記載します。パウエル議長はそのトップで日本銀行における黒田総裁のようなものです。
IMF世界経済予測
先週、世界通貨基金(注5)の4月の世界経済予測が発表されました。世界経済の成長率は、2022年も2023年も下方修正され、2022年:4.4→3.6%、2023年:3.8→3.6%と下方に修正されました。ポイントを以下に示します。
- ウクライナでの戦争による経済損失
2022年に世界の経済成長が大幅に減速する一因となるほか、物価上昇が加速すると予測しています。燃料と食料の価格が急上昇しており、低所得国の脆弱層が一番大きな影響を受けていると見ています。 - 物価上昇
戦争が主な要因で一次産品が値上がりし、2022年の物価上昇率予測は先進国が7%、新興国と発展途上国が8.7%で、1月時点の予測より、それぞれ1.8%ポイントと2.8%ポイント上方改定されました。 - 下方修正幅の大きい欧州・日本経済
①世界的なエネルギー価格上昇の影響、②サプライチェーンの混乱による自動車産業を中心した生産調整、③強いインフレ圧力などにより、成長率(2022年9→2.8%)が大幅下方修正されました。特に製造業部門の影響が大きく、ロシア産エネルギーへの依存度が高いドイツ(2022年3.8→2.1%)やイタリア(2022年3.8→2.3%)で修正幅が大きくなりました。また、日本(2022年3.3→2.4%)も一次産品の純輸入国であることから、下方修正幅は大きくなりました。 - 比較的堅調な米国やカナダ
米国(2022年0→3.7%)やカナダ(2022年4.1→3.9%)は、ロシアとの関連が小さいため、見通しの下方修正幅も小幅でした。今回の下方修正は、米国は金融引き締めの積極化や戦争による貿易相手国の成長鈍化が影響しています。カナダは財政支援策の縮小や、米国向け外需の落ち込みが影響します。 - 中国
2022年は8→4.4%と落ち込みました。感染力の高いオミクロン株に対してゼロコロナ戦略を講じており、移動制限や地域的な都市封鎖を実行していることや、都市部の雇用回復が緩慢で民間消費を下押ししています。不動産関連投資の低迷と価格下落、戦争による外需の落ち込みが下方修正の要因となっています。
IMF世界経済予測によっても米国経済の強さが確認されています。この米国景気の強さが、FRBによる金融引き締めによっても持続するのかをマーケットは見極めようとしているところです。
(注5)国際金融システムの安定化を目的とした国際連合の専門機関であり、IMFと呼ばれることが多いです。以下「IMF」と記載します。
図表で見るマーケット
今回は機関投資家の動きを観察してみます。商品によって異なりますが、大きな資金を預かる機関投資家の運用は、パフォーマンスの比較対象とされるTOPIXを意識した運用を行うことが多いです。そのため、業種ごとの配分比率もTOPIXの構成を意識したものになります。例えば、TOPIXにおける輸送用機器の業種比率が8%の時に、その運用商品の輸送用機器の業種比率が6%であれば、その運用方針は輸送用機器の業種に弱気の判断をしていると考えることが出来ます。
以下に投資信託協会のホームページ(https://www.toushin.or.jp/statistics/statistics/index.html)に掲載されているデータを利用して、いくつかの業種の動向を紹介します。
現在開示されているのは3月末までになるため、グラフの終点も3月末です。グラフの値が2.0であれば、投資信託全体の業種配分がその業種においてはTOPIXの業種比率よりも2%多めに保有していることを示します。
ハイテクセクターは機関投資家が好む業種の一つです。一時は、減少傾向にあったのですが、足元は再び増加傾向にあります。今年に入ってからのパフォーマンスは冴えない業種なのですが、押し目買いを行っているようです。
徐々に比率を低下させてきた業種だったのですが、昨年の業績回復を評価したようで、2021年は組入れを引き上げてきました。2022年は原燃料価格の上昇を転嫁することが困難なため、業績の踊り場となるとの推測も強い状況下、このまま組入れを引き上げてゆくのでしょうか。興味深いところです。
小売業も機関投資家が好むセクターでしたが、組入比率が減少し続けています。「コロナ禍の影響」「内需環境の低迷」「消費行動の変化」「インバウンドの消滅」「インフレ傾向の中での値上げの困難さ」など弱気材料には困りません。コロナ禍からのリバウンドや円安によるインバウンド期待などを評価する投資家は少数派のようです。
小型株堅調相場の流れに合わせるように組入れ比率が上昇したサービス業ですが、小型株が軟調に転じると組入れ比率を低下させる動きとなりました。
機関投資家の資金は大きいことや業績のトレンドを重視することから、一度方向性が出ると継続されることがよくあります。ただ、純粋なアクティブファンドが減少する中、インデックスファンドや特定業種に集中投資するテーマファンドの資金増減による影響を受けることには注意が必要です。
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