ザ 語源 第21回 「けち」はなぜ不景気を呼び込むのか?
2023.05.18 (木)
「けち」はなぜ不景気を呼び込むのか?
今回は「けち」の語源です。「けち」はなぜ不景気につながるのか、語源を元に探って参ります。
「けち」は漢字で「吝嗇」と書き、これは「りんしょく」とも読みます。「吝」と「嗇」どちらも「惜しむ」という意味です。「吝」は「吝か(やぶさか)」と読み、同じく「惜しむ」ことを表します。よく物事を協力することに「吝かではない」と表現されることがありますが、渋々協力するという意味ではなく、協力を惜しまない、喜んでするという意味です。
「けち」の類義語として「せこい」「しみったれ」「みみっちい」などがあります。それぞれ語源を説明します。
「せこい」の語源は二つあります。「世故(い)」または「狭い」です。「世故(い)」とは簡単にいうと世渡り上手ということです。「狭い」は「せせこましい」から「せこい」になったという説があります。
「しみったれ」は着物の隙間から、つまり懐(ふところ)から気前よく「お金」を出すのでなく、「シミ」しか出さないということが語源です。
「みみっちい」は「ミミズ」のように細切れでチマチマしている様子がお金を出し惜しみすることにつながったようです。
「けち」は英語で「stingy:スティンジー」といいます。「sting:スティング→チクチク刺す」が語源です。1970年代にポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード主演による「スティング」という映画がありましたが、お金持ちのギャングをチクチク刺すように翻弄し、最後は悪党の頭目から大金を巻き上げエンドという内容です。チマチマとチクチクで共通点があります。
「節約」や「倹約家」と「けち」は似たようなイメージですが、明確な違いがあります。どちらも出費を抑える行為ですが、お金を使う目的をもって日常生活を清貧に暮らすことまたはそのような人は「節約」または「倹約家」といいます。
一方で目的もなく、ただひたすらお金を貯める、言い換えればお金を貯めることが目的化していること、またはそのような人が「けち」です。さらに度を超えた「けち」は「守銭奴(しゅせんど)」といいます。
「けち」を国語辞典で調べてみると次のように解説されています。
- むやみにお金を払うことを惜しむこと、またそのような人
- 粗末なことやそのような様(さま)
- 了見が狭いこと
- 縁起が悪いこと、不吉なこと、難癖(なんくせ)
- 不景気
4の「難癖」がなぜ「けち」になるかいうと、「難癖をつける」ことを「けちをつける」というからです。「けちをつける」というのは「縁起が悪い」や「不吉」だと言いがかりをつけることです。なにか物事を始める際に不吉なことに遭遇することを「けちがつく」といいます。不吉なことや不可解な事象は昔「怪事(けじ)」といいました。「怪事」が「けち」になったのです。
妖怪のことを「物の怪(もののけ)」というように「怪」は「かい」ではなく「け」と読みます。疫病や天候不順、領主同士の戦(いくさ)などにより領民が不幸に見舞われた際も「怪事」です。「怪事」によって領民はみすぼらしくなります。現代において経済政策が上手くいかなかった場合や景気循環サイクルなどなんらかの要因で世の中が「不景気」になることも「怪事」なのです。
このように「けち」の語源を探ると「不吉」なことや「不景気」なことが「みすぼらしさ」につながり「けち」になったと整理することができます。しかしこの解釈は逆ではないかと推察します。
個人個人の財布の紐が固い場合はそれが直接「不景気」につながることは考えづらいと思いますが、これが経済政策となると話は別です。ケチケチした経済政策が「不景気」を招いていると思います。現在の日本のように供給より需要が少ない場合は経済政策による大胆な財政支出が必要なのではないでしょうか。現在の物価高は資源と物流コスト上昇、それに円安によるものが原因(※)と見ています。大胆な経済政策と財政支出が日本に蔓延する需給ギャップという「物の怪」を退治できるのだと思います。政府は「けち」ではいけないのです。
※詳しくは「ザ 語源 第8回 インフレーション」をご参照ください。
※本記事で解説する内容について、実際の言葉の成り立ちや、一般的とされる説と異なる場合がございます。
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