ザ 語源 第31回 雇用(エンプロイメント)
2024.02.09 (金)
雇用(エンプロイメント)
各国の中央省庁等より発表される経済の統計やデータのことを経済指標といいます。代表的な経済指標は「雇用統計」、「金融政策会合の結果と内容」、「金利」、「物価」、「国内総生産(GDP)」です。その中で国内外の投資家やマーケット関係者に最も重要視されている経済指標が「米国雇用統計」です。
「米国雇用統計」が注目される理由は2つあります。1つは世界経済が米国経済を中心として回っていると投資家やマーケット関係者に捉えられているからです。2つ目は米国の「雇用」が日本に比べ流動的かつ柔軟性に富む形態なので「雇用統計」の内容、とりわけ「雇用者の増減」が世界のマーケットや経済に与える影響が大きいと見られているからです。
今回は、「雇用:(英語)employment:エンプロイメント」の語源を取り上げてみたいと思います。
まず英語の「employment:エンプロイメント」から説明します。「employment」は「雇う:employ」の名詞形、つまり「雇うこと」という意味です。さらに「employ」の「em:エン」の部分は「~の中に:in」、「ploy:プロイ」には「折る(おる)」という意味があります。2つ合せ「中に折り込む」が語源となります。雇用主が従業員を巻き込んで使うイメージです。
「ploy:折る」はラテン語の「plico:プリーコ」から来ています。同じ語源を有する英単語として、「simple:シンプル」(語源は1つにまとめる)、「display:ディスプレイ」(語源は「折る」の反対で「広げる」)、「application:アプリケーション」(語源は適用)などがあります。
次は「雇う」という漢字の由来です。「雇」は「戸(とびら)」と「隹(尾が短い小鳥)」から形成されている漢字です。「とり」を意味する部首としては「鳥」(例:鳩、鶏、鳴など)が主流ですが、「隹」は「尾が短い小鳥」を意味する部首として使われ「ふるとり:古鳥」といって「鳥」と区別されています。
「雇」はとびら(戸)がある部屋の中に「隹(とり)」を入れる、つまり従業員を家に住まわせ丸抱えする状態がこの漢字の由来であると考えられています。「雇」という漢字の由来も、「employ:エンプロイ」の語源も従業員を半ば強引に働かせるイメージが感じられます。被雇用者の権利が法律等によって守られる現代とは違い、昔は雇用主の立場が強かったのでこのような語源になったのではないかと想像します。
冒頭で最も重要視される経済指標は「雇用」であると申しました。FRB(米国連邦準備銀行)は「物価の安定」と「雇用の最大化」を目標としています。なぜ「雇用」が最も重要なのか?それは「雇用」が経済成長や人々の豊かなくらしの出発点だからです。
次のグラフは米国雇用統計の内、米国雇用者数(非農業部門)を表したものです。1973年以降50年分の雇用者数の推移です。グラフを見ると2008年の金融危機や2019年のコロナショックなど一時的な雇用者減少を経るものの、長期的にみると雇用者数が右肩上がりに増加しています。
米国 雇用者数(非農業部門)
もう一つのグラフをご覧ください。
こちらは日本の就業者数(雇用者+自営等含む)50年分の推移を米国と同じようにグラフ化したものです。概ね右肩上がりに増加している米国雇用者数に比べ、1990年代中ごろから2010年代の中盤まで約20年間雇用者数が低迷しています。特に1997年から2012年までの15年間は2006年前後に就業者数が一時的に増加するもののほぼ右肩下がりで雇用者が減少しています。これはわが国がデフレで苦しんだ時期とぴったり一致しています。
また株価の低迷や国内総生産(GDP)の伸び悩みとも一致しています。有効求人倍率が1倍を切り新卒の就職難が続いた1993年から2005年までを「就職氷河期」といいますが、雇用の低迷によって日本経済全体が凍結していたのではないかと思います。
日本 就業者数
「雇用」は人間にとって「生きる糧(かて)を得るための術(すべ)」であると考えます。働き口がなければ給料を貰えません。お金がなければ消費をすることができず、生きる意欲も失われます。まして余剰資金を「投資」に回すことなど出来ません。全て「雇用」があって成り立つものなのです。
朝起きて一番大事なこと、それは元気で働ける場所があるということなのです。
※本記事で解説する内容について、実際の言葉の成り立ちや、一般的とされる説と異なる場合がございます。
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