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ザ 語源 第28回 サブスクリプション

2023.11.06 (月)

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

ザ 語源 第28回 サブスクリプション

サブスクリプション

「サブスクリプション」とは商品を「所有」、「買取り」するのではなく、月額払いや年払いによって一定期間商品やサービスを「利用」するビジネス形態です。身近なところでは「アマゾンプライム」や「ネットフリックス」等の映像コンテンツ、「アップルミュージック」や「スポティファイ」等の音楽コンテンツ配信が代表的な「サブスクリプション」です。

今回は「サブスクリプション」の語源を明らかにした後、このビジネス形態が生まれた背景と事例を解説します。さらに「サブスクリプション」は「月額制・定額制」と何が違うのかを説明して参ります。

「サブスクリプション:subscription」の直訳は「署名」です。「サブ:sub」は「の下に」、または「下から」という意味を持つ接頭語です。「スクリプション:scription」は「スクライヴ:scribe:書く・刻む」という動詞の名詞形です。「スクリプト:script」は「台本」や「筋書き」という意味です。「sub(下に)」+「scribe(書く)」+「tion(こと)」で「署名」となります。「サブスクリプション」という言葉が雑誌などの定期購読という意味で最初に使われ始めたのは18世紀初頭頃と見られています。定期購読の契約時に契約書の下の方に「署名」するので「下に書くこと」が語源となったと考えられています。

sub(下に)+scribe(書く)+tion(こと)⇒subscription(サブスクリプション:下に署名すること)

ちなみに接頭語「sub」を持つ英単語は数多くあります。外来語としても通常使われる英単語とそれぞれの語源を掲載しましたのでご覧ください。

「サブスクリプション:subscription」と同じ、接頭語「sub」を有する英単語 ①submarine、②subway、③success、④suspense、⑤sustainable、⑥supporter、⑦supplement

「サブスクリプション」という言葉が最初に使われ始めたのは18世紀初頭頃と説明しましたが、ビジネス形態(ビジネスモデル)として「サブスクリプション」が認知され始めたのは比較的最近です。年末恒例の「流行語大賞」で「サブスク(サブスクリプションの略)」がノミネートされたのは2019年と比較的最近のことです。

「サブスクリプション」が勃興した背景として二つ要因が考えられます。
一点目は人々の価値観がモノを「所有」することから「利用」する間、お金を払えばいいと変化してきたことです。二点目はインターネットの普及により商品・サービス提供者である企業が顧客の商品・サービスの利用データをリアルタイムで収集し、分析・再提案できるようになったことです。

「サブスクリプション」という新たなビジネス形態を確立した代表的なアメリカ企業の事例を二つ取り上げたいと思います。

一社目は顧客管理システム(CRM)のサービス提供企業である「セールスフォース・ドットコム」です。「セールスフォース」は顧客管理システムとソリューション(問題解決)を「クラウドコンピューティング(ネット経由によるコンピュータ機能の提供)」で顧客(企業)に提供しています。「クラウド」上でのアプリケーション(応用ソフト)提供により顧客に対し常に最適かつ生産性の高い営業成果やより強固な顧客関係性を実現させることで、顧客の企業は同社のサービスを利用し続ける訳です。顧客管理システムのビジネス領域において後発の同業は容易に「セールスフォース」を追い抜くことは出来ません。「セールスフォース」は全世界の有力企業を顧客にしていることに加え、あらゆる顧客データを常に最新のものにアップデート(更新)・分析し、さらに顧客のマーケティングまで支援し、顧客の販売促進の好循環を生み出しているので後発の追随は考えにくいのです。「セールスフォース」は直訳すれば「押し売り」ですが、この仕組みは決して「力まかせの販売(セールスフォース)」ではないのです。

二社目は映像コンテンツ配信の「ネットフリックス」です。映像コンテンツ企業は他にも「Hulu」や「アマゾンプライム」などがありますが、同社が卓越しているのは映像コンテンツの自社制作の分野です。通常、映像コンテンツを消費者に提供している会社が自社でコンテンツを制作するとは想像できません。映画館が映画を制作するようなものです。同社の祖業は「レンタルビデオチェーン」です。創業者は自分が利用者としてDVDをレンタルした際、多大な延滞料金を取られ苦渋していたようです。物理的かつ面倒なDVDの貸し借りから解放されたいという一念から映像コンテンツのインターネット配信という事業を創出したということです。「ネットフリックス」は顧客の映像コンテンツの閲覧データを収集・分析しています。どういう分野のどの筋書きやシーンの視聴率が高いか調査・解析した上で最も顧客が好みそうな映像コンテンツを自社制作するのです。例えば連載ドラマであれば、ドラマの終盤に向け複数の筋書き(スクリプト)と映像コンテンツを用意しておき、中盤までの視聴者データの分析結果から最もウケそうな映像コンテンツを採用し、視聴率をさらにアップさせるという仕組みです。顧客は知らぬ間に「ネットフリックス」の虜となるワケです。

以上がアメリカ企業の「サブスクリプション」の実例ですが、最後に「サブスクリプション」と「月額制・定額制」の違いを整理したいと思います。例えば新聞購読も「サブスクリプション」と同じように月額・定額の支払いです。

明確な違いは「月額支払い」のビジネスが商品購入を顧客の到達点・ゴールに置いているのに対し「サブスクリプション」は顧客の成功(カスタマーサクセス)や顧客の価値向上(カスタマーバリュー)を到達点・ゴールとしているところです。「月額支払い」のビジネスにおいても一応カスタマーセンターやコールセンターなどで顧客のフォローアップや要望に対応し、顧客満足度(カスタマーサティスファクション)を高めようしますが、その対応は受動的なものになります。一方で「サブスクリプション」を確立した企業は商品・サービスの販売(顧客は購入)がゴールではありません。月額料金の支払いを続けている間、収集したデータ分析や再提案を継続、顧客との関係性を密にし、法人企業が顧客であれば事業計画の達成(カスタマーサクセス)を、また一般消費者であれば生活における利用価値(カスタマーバリュー)を高めることをゴールにします。

月額制とサブスクリプションの違い、月額(定額)制は顧客の到達点(ゴール)が商品購入と顧客満足、サブスクリプションは顧客の到達点(ゴール)が顧客成功と顧客価値創造である。

例えば自社サービスを「サブスクリプション」と称しながら顧客がそのサービスを解約する際に一定の「縛り(解約金の徴収等)」を設けるビジネスは「サブスクリプション」とは言えないのです。本物の「サブスクリプション」であれば常に顧客価値を積上げているので解約を恐れ「縛り」を設けることなどはしないからです。

顧客の成功や顧客価値の向上というドラマ・筋書き(スクリプト)は商品購入後も顧客と対話することで作り上げていくものなのです。

※本記事で解説する内容について、実際の言葉の成り立ちや、一般的とされる説と異なる場合がございます。

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ライター

飯田 裕康

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

1991年アイザワ証券入社。2002年まで支店のリテール営業を務め、2003年からは支店長として関西方面中心に4つの新店舗を開設。2012年の投資リサーチセンター(現市場情報部)センター長、2018年のインターネット取引部門長、2021年の投資顧問本部長等を経て、現在は西日本ファイナンシャルアドバイザリーを担当。

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