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ザ 語源 第24回 お金や経済に関する漢字の成り立ち「負債」

2023.07.24 (月)

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

ザ 語源 第24回 お金や経済に関する漢字の成り立ち「負債」

お金や経済に関する漢字の成り立ち「負債」

今回はお金に関する用語「負債」を構成する漢字、「負」と「債」の成り立ちと「負」のイメージが強いこの字の真意についてお話します。

始めに「負」を解説します。「負」の下の部分は「貝」です。お金に関する漢字の多くに「貝」という字が含まれるのは中国古代において「子安貝(タカラガイ)」という珍しい「貝」が通貨として流通していたためです。「負債」を構成する二つの漢字にはどちらも「貝」が含まれています。

子安貝(タカラガイ)、古代象形文字

「負」の上部にあたるカタカナの「ク」に見える部分は人間が債務などなにかしらの責め苦を負っている姿です。

古代中国の戦争では勝利した側が負けた側に賠償金や隷属、様々な労役を課します。「負」という漢字は戦争で負けた側が財貨を背負うという構図になっています。戦争に「負け」たら責務を「負う」ことになるので「負」という漢字には「負け」と「負う」の二通りの意味があります。

「債」も「負」と同じように人間が債務に負われている姿を表しています。「債」は左側の人偏(にんべん)と右側の「責」で構成されます。「責」という漢字を含む熟語は「責任」「責務」「叱責」「呵責」「自責」などどれもマイナスの印象が大きい言葉で占められています。「責」は上部の「主?」のような部分と下部の「貝」に分かれ、「主」は債務を負っている人に対し棘(とげ)を刺す様子を表しています。左側の人偏(にんべん)は責め苦を敬遠し背を向けている姿です。「負」よりもっと大きな責め苦を負っているようです。

前述で「負」という漢字は「負け(まけ)」という意味と「負債」や「負担」など義務として「負う(おう)」という二通りの意味があると説明しましたが、前者の「負け」という意味を含む熟語は「勝負」くらいしか見当たりません。一方で後者の「負う」という意味を含む熟語は「負荷」、「負担」、「負債」、「負傷」などたくさんあります。さらに「負う」というネガティブでマイナスイメージを持つ漢字を含んでいながら「抱負」や「自負」などのようにポジティブでプラスの言葉もあります。「抱負」は自身が抱いている計画や目標にしっかり向き合う決意を持つという意味です。「自負」は自身が持つ強みに誇りを持つことです。どちらも自ら前向きに「負っている」ので「負」という字が含まれているのです。

戦国時代の三大英傑の一人であり、264年に及ぶ天下泰平の世を築いた徳川家康の遺訓で「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」というものがあります。この遺訓には続きがあります。ざっくりまとめると「負け」を知っている、「負の部分」を忍耐強く背負い続ける者が最終的に人生の「勝者」たり得る、ということが記されています。

徳川家康は19才まで駿河(静岡県)の有力戦国大名である今川家の人質として過ごしました。人質は常時「死」と向き合う立場です。今川氏が織田信長に滅ぼされた後も同盟国の相手である信長にまるで家臣のように翻弄され続け、加えて甲斐武田氏に代表される周辺国の圧力に耐え忍ぶ日々が続きました。武田氏には戦(いくさ)で惨敗する経験もしました。信長が滅んだ後も、次の天下人である秀吉の意向で関東に移封されそれに従わざるを得ませんでした。天下分け目の関ヶ原の合戦を経た15年後、大阪夏の陣でようやく戦国の世を平定しました。家康はその後1年もたたず75才で没するわけですが、当時の75才といえば医療の発達した現代から換算すると100才くらいに相当されると思います。つまり家康は人生の100%を苦難と向き合ってきたということになります。「勝って兜の緒を締める」暇すら無い一生であったと想像します。

及ばざるは過ぎたるより勝れり (足りない方がやり過ぎるより勝っているのだ)

家康の遺訓は「及ばざるは過ぎたるより勝れり」という言葉で締め括られています。この一節は論語の「過ぎたるは猶及ばざるが如し」を参考にしたものと伝えられています。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」とは「何事もやり過ぎは良いとは言えず、足りないことと同じ」という意味です。しかし家康はもう一歩踏み込み、「やり過ぎ(勝ちすぎ)より足りていない(負けの経験の)方が勝っている」という考えでした。家康の周りにいた百戦錬磨の「強者」は全て滅んでいきました。「弱者」としてプレッシャーに向き合い続けた家康が最終的に天下を治めました。家康は負けを知らない勝ちより負けを知って耐え続ける方が最後は生き残るということを伝えたかったのではないかと思います。

「負い目」や「負債」は誰もが負担したくないもの、抱えたくないものです。しかしながらマイナスなもの、足りていないものに辛抱強く向き合ったものが最終的な勝者となるのです。「負」という字の奥底にはポジティブな意味が存在していたのです。

本記事で解説する内容について、実際の言葉の成り立ちや、一般的とされる説と異なる場合がございます。

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ライター

飯田 裕康

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

1991年アイザワ証券入社。2002年まで支店のリテール営業を務め、2003年からは支店長として関西方面中心に4つの新店舗を開設。2012年の投資リサーチセンター(現市場情報部)センター長、2018年のインターネット取引部門長、2021年の投資顧問本部長等を経て、現在は西日本ファイナンシャルアドバイザリーを担当。

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