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ザ 語源 第23回 真説!ブル・ベアの由来

2023.07.03 (月)

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

ザ 語源 第23回 真説!ブル・ベアの由来

真説!ブル・ベアの由来

株価や商品等、相場の長期的上昇を「強気相場」といいます。「強気相場」の逆は「弱気相場」です。「強気相場」は英語で「ブル・マーケット」、「弱気相場」は「ベア・マーケット」です。「ブル」と「ベア」はそれぞれ「雄牛」と「熊」です。世界最大にして最強の株式市場を有するニューヨーク・マンハッタンの金融街近くには、マーケットの力強さを象徴するモニュメントとして「チャージング・ブル(突撃する雄牛)」が設置されています。

角を下から上に振り上げる雄牛(ブル)の攻撃の姿が相場の上昇と重なることから「強気相場」のシンボルが「ブル」になったとされています。一方「熊(ベア)」は爪を上段から振り下げ攻撃をすることから相場が下向きになる「弱気相場」が「ベア」になったと考えられています。

ブル、ベアのイラスト

ここまでは様々なメディアやネット、文献等で説明されている「ブル・ベア」の由来ですが、なんとなくこの由来は後付けのように感じましたので、さらに「ブル・ベア」に行き着いた歴史的経緯を調べてみました。すると以下の3つの説が浮かび上がりました。

  1. 場立ちの手サイン説
  2. 英国発祥のブラッドスポーツ説
  3. 海外版・捕らぬ狸(タヌキ)の皮算用説

まず1つ目の「場立ちの手サイン説」です。日本の証券取引所には、手サインを使って売買注文を伝達する「場立ち(ばたち)」と呼ばれる職員(※1)が働いていました。「場立ち」が使う手サインは「買い」の場合は手の甲を外側に向け自分の方へ引き寄せ、「売り」の場合は手のひらを外側に向けて押し出して注文を出します。この手サインの動きを「雄牛」と「熊」の攻撃になぞらえたというのが「場立ち手サイン説」です。

買い、売りの手サイン

2つ目は「英国発祥のブラッドスポーツ説」です。「ブラッドスポーツ」とは「血の競技」です。英国では12世紀から19世紀まで「ベア・ベイティング(※2)」という催し物がありました。これは一匹の鎖に繋がれた「熊」に対し、数匹の鍛えられた闘犬を闘わせ、熊もしくは闘犬のどちらが勝者になるかを賭け事の対象とするという現代の動物愛護的観点ではとても考えられない競技です。闘犬が闘う相手は「雄牛」という場合もありました。この場合は「ブル・ベイティング」となります。約700年続いたこの競技が「ブル・ベア」に繋がったという説です。因みにこの競技で闘った闘犬の末裔とされるのがその名の通りの「ブルドッグ」です。また「雄牛」と闘う相手は人間が行うこともありました。スペインやラテンアメリカの「闘牛」はこの流れを引き継いだものと考えられています。

3つ目は「海外版・捕らぬ狸の皮算用説」です。このことわざは「狸を捕らえる前にその皮を売って得られるお金の勘定は無意味である」という意味です。欧州にはこれと同じ意味の「皮を売る前にまず熊を捕らえよ」ということわざがあります。このことわざが生まれた経緯にこそ「ブル・ベア」の真の由来があると見ていますので、かいつまんで説明します。

欧州には昔から「熊」の皮を取り扱うブローカーがいました。彼らはしばしば「熊」の取引相場が今後下落することを見込んで、現物(熊)が手元に無い状態で買い手に熊の皮を売る契約をしていました。予想通り熊の価格が下がったところで猟師から「熊」を仕入れて納品し、差額が手に入るという一種の先物取引(現物を伴わない取引)です。思惑(おもわく)と反対に「熊」の価格が上がったら損失となるのでこのことわざはこのような取引を戒めるものと想像できます。

一方、「牛」のブローカーは牛の価格が将来値上がりすると予想した上で、銀行借り入れ等によりクレジットで牛を購入し、その後牛の価格が値上がりしたところで買い手に売却し、返済額との差額を懐に入れるという、「熊」とは逆の相場観で取引を行っていました。これは先物の「買い」に相当します。

このように「熊」は「弱気:売り」から入り、「牛」は「強気:買い」の取引を行うというところから「ブル・ベア」に繋がったと考えられます。

ベア、ブルの説明

以上が歴史的観点からみた「ブル・ベア」の由来のまとめとなりますが、足元、日本の株式市場に本格的な「強気相場」が到来していると思われます。「熊」は英語で「ベア」ですが、日本で「ベア」というと賃金上昇を意味する「ベースアップ」と捉えるほうが多いと思います。また「弱気相場」は「熊」の手を振り下げるイメージと説明しましたが、日本において「熊の手」は商売繁盛の縁起物(※3)とされています。「弱気」の「熊」さえも「強気」に変えられる上昇相場を期待したいと思います。

1  日本の証券取引所では1999年に場立ちによる立会場を廃止しました。
2 「ベア・ベイティング」は直訳すると「熊」の餌付け
   闘犬と闘わせる前に餌で闘いの舞台に誘導するところから名付けられました。
3 「熊の手」は「ザ 語源 第15回 かきいれどき」をご参考ください。

本記事で解説する内容について、実際の言葉の成り立ちや、一般的とされる説と異なる場合がございます。

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ライター

飯田 裕康

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

1991年アイザワ証券入社。2002年まで支店のリテール営業を務め、2003年からは支店長として関西方面中心に4つの新店舗を開設。2012年の投資リサーチセンター(現市場情報部)センター長、2018年のインターネット取引部門長、2021年の投資顧問本部長等を経て、現在は西日本ファイナンシャルアドバイザリーを担当。

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