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ザ 語源 第7回 不動産の面積「坪」とは?

2022.04.01 (金)

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

ザ 語源 第7回 不動産の面積「坪」とは?

不動産の面積「坪」とは?

新年度は引っ越しのシーズンです。新しい住居を探す際、日本には古来より物件や部屋の広さを表す単位として「坪(つぼ)」があります。1坪は約3.3平方メートル(㎡)、2畳分の広さです。土地取引を行う場合、メートル法による表記(㎡)と並列して住宅であれば「坪」が、農耕地であれば「町」や「反(たん)」が、今でも単位として使われています。

今回は「坪」の語源やその由来について深掘りしたいと思います。

「坪」の起源は奈良時代にまで遡ります。紀元757年に制定された養老律令(ようほうりつりょう)の中の租税徴収の元となる田畑の面積などを取り決めした法律に、「長さ30歩、広さ12歩を1段とすること」という記載があります。1段は30歩×12歩で360歩という計算になります。1歩は「いちぶ」ではなく「ひとつほ」と読み、「ひとつぼ=1坪」の語源に、また1段は1反「いったん」に変遷したのではないかと考えられています。

時は安土桃山時代まで進み、豊臣政権によって行われた「太閤検地」によりコメ1石(いっこく)が収穫できる水田の面積:1反は、360歩から300歩(坪)に変更されました。改定の要因として、1反あたりのコメの収穫量が増えた(※)という説と、事実上の増税という2つの説があります。

太閤検地では大人1人が1日に消費するコメの量を3合(1合=150g3合で450g、熱量換算で約1,600キロカロリー)とされました。また、コメ3合が収穫できる水田の面積を1坪、同じく大人1人が年間に消費するコメの量を1石とされました。さらに1石(1,000合=約150kg、1,000÷3=333日分、約1年分)、米俵(こめだわら)にして2俵半が収穫できる水田の面積が1反と決められました。

例えば加賀100万石は100万人を養える田畑を有していたということになります。コメ3合はコンビニのおにぎりで換算すると9個分に相当します(大手コンビニおにぎりの平均重量は1110g、コメは炊くと水分を含み2.2倍になる)。現代の日本人が消費するコメは年間1人あたり約51kg(※)なので、「13合は多いのではないか!」と感じると思いますが、現代の日本人はコメ以外にパンや麺類も食し、国内含め世界中から多種多量の食材を取り寄せることができます。加えてデスクワークが多い現代とは違い、安土桃山時代の当時は仕事のほとんどが肉体労働であり、主食はコメが中心で副食(おかず)は少しであったであろうことを考えれば、13合は納得がいく分量と言えましょう。実際、戦国時代に多大な熱量が消費される戦(いくさ)において一般兵士に支給されたコメは1日あたり5合と記録されています。(5合はコンビニおにぎり15個分に相当)

国民が主食とする穀物などの収穫量が由来となって、その国の長さや面積、質量の単位が根付いた事例はわが国だけではありません。英米などで使われている質量の単位「ポンド:Pound」も古代欧州や中東地域の主食であった「大麦」が由来です。1ポンドは約454gです。「ポンド」はプロレスやボクシングなど格闘技選手の体重を示す際、「パウンド」と表現されます。バターケーキの一種である「パウンドケーキ」は、小麦、卵、バター、砂糖をそれぞれ1ポンドずつ使用して作るため「パウンド」という名前になりました。

「ポンド」はメソポタミア文明の時代に、大人1人が食べるパンの原料となる大麦の分量を元に決められたと伝わっています。時は進み、イギリスのエリザベス1世によって1584年に1ポンドは454gと確定されました。日本では豊臣政権、イギリスはエリザベス1世の治世という同時期に、両国で1日に必要な穀物の量が約450gと決められたことはたいへん興味深いものがあります。

質量の単位である「ポンド」は天秤で同じ重さの銀貨に換算し、そのまま通貨の単位として使用されるようになりました。現在でもイギリスの通貨として使われている「ポンド」です。イギリスではこのような過程を経て、重さの単位と通貨の単位が同じ「ポンド(Pound)」になったのです。重さが由来となった通貨は「ポンド」の他、フィリピン、アルゼンチン、メキシコなどスペインの影響を受けた通貨「ペソ」や、タイの「バーツ」などがあります。日本でも江戸時代まで流通していた「両」や「分」は重さを元に決められた通貨です。

「起きて半畳、寝て1畳、天下とっても2合半」ということわざがあります。人間は立っている時に半畳、寝ている時に1畳分の広さがあれば充分、たとえ富と名誉を手にいれても1食で食べられる限界はせいぜい2合半(おにぎりでいうと7個半)、分を超えて欲張り過ぎると足元がすくわれるという意味がこのことわざには込められております。このように、「畳の大きさ」自体にもコメの収穫量が関係しているという深い経緯があったのです。

1反あたりのコメの収穫量(これを反収という)は近代以前では150㎏でしたが、現在では農業技術の進歩により反収は530㎏と3倍強まで生産性が向上しました。現代の日本人1人が消費するコメは年間51㎏なので、日本の水田1反が養えるコメの収穫量は日本人1人分から10人分に飛躍したと計算できます。(出所:農林水産省令和3年データ)

本記事で解説する内容について、実際の言葉の成り立ちや、一般的とされる説と異なる場合がございます。

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ライター

飯田 裕康

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

1991年アイザワ証券入社。2002年まで支店のリテール営業を務め、2003年からは支店長として関西方面中心に4つの新店舗を開設。2012年の投資リサーチセンター(現市場情報部)センター長、2018年のインターネット取引部門長、2021年の投資顧問本部長等を経て、現在は西日本ファイナンシャルアドバイザリーを担当。

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