ザ 語源 第18回 投資でいう「リスク」はなぜ「振れ幅」なのか
2023.03.02 (木)
投資でいう「リスク」はなぜ「振れ幅」なのか
「リスク」という言葉は多くの人にとって禁忌・回避すべきものというマイナスのイメージが定着していると思います。「リスク」の日本語訳は「危険」、「危機」です。「リスク」の語源の前に「危険」の「危」という漢字の由来が興味深いのでまずこちらから説明します。
「危」は災いを意味する「厄」の上にカタカナの「ク」が乗っかった形で構成されています。「厄」は切り立った崖の下でうずくまる、または跪く(ひざまづく)人の姿を表しています。カタカナの「ク」は崖の上から危険を感じ跪いて見下ろしている様を表しています。そういえば跪く(ひざまづく)という字にも「危」の字が入っています。「危」という漢字には警戒感や危険という意味が満載ですね。
本題の「リスク」に話を戻します。「リスク(risk)」は古代イタリアの言葉(ラテン語)で「勇気を振り絞って航海に繰り出す」という意味の「リズカーレ(riscare)」が語源です。航海はそれによってもたらされる「利益」とは反対に悪天候による危険性や座礁による「損失」を承知の上で行われます。従って「リスク」には「利益」と「損失」、「良い事、プラスの事象」と「悪い事、マイナスの事象」という両極の意味があるということになります。「リスク」は投資や資産運用の世界においても利益と損失の「振れ幅」を表すために用いられています
「危険」や「危機」の英訳は「リスク」以外にもあります。「デンジャー:danger」や「ハザード:hazard」も同じ「危険」です。「デンジャー:danger」は「デンジャラスゾーン:危険地帯」、「ハザード:hazard」は「ハザードマップ:災害予想地図」、「ハザードランプ:乗り物の非常時点滅灯」、「バイオハザード:生物災害」などカタカナ英語として馴染みがあります。「リスク」が「良い事⇔悪い事」の両極や振れ幅を表すのに対し、「デンジャー」は「危険」「警戒すべき」などマイナス面のみを表しています。「ハザード」は突発的、偶発的事象や、回避し難い「危険」という意味合いの違いがあります。「危険」を承知の上で取りに行く、つまり能動的、主体的な使われ方が「リスク」です。「デンジャー」は「ハザード」は受動的な使われ方で「リスク」とは区別できます。
「リスク」のように言わば「能動的な危険」に該当する言葉は日本では見受けられませんが、日本のリスクテイクの実例として「紀伊国屋文左衛門ミカン伝説」を紹介したいと思います。時は17世紀末の江戸時代元禄期のある年、現在の和歌山県にあたる紀州ではミカンが大豊作でした。一方その年の幕府お膝元、江戸では天候が悪く、ミカンの価格が高騰していました。紀州の商人「紀伊国屋文左衛門」は「リスク」を取って荒波を乗り越え紀州で安く仕入れたミカンを高値で江戸に供給し大儲けしたという話です。同じ商品と同じ時間における価格差を利用した「裁定取引」の日本史版のような伝説です。
「リスク」と共通した意味をもつ言葉で「虎穴(こけつ)に入らずんば虎子(こじ)を得ず」という故事成語があります。これは危険を冒しても虎の親子が住む穴に入らなければ貴重な虎の子を得ることは出来ないということ、つまりこの故事は「リスク」を取ることによってしか大きなリターンが期待できないことを示しています。
日本人は長年続いた経済停滞、所得低下、デフレによって積極的に取る「リスク」の意味を見失っていると思います。しかし、デフレ脱却、給与所得アップの傾向とともに失われた「アニマルスピリット」を取り戻していくと期待します。
※本記事で解説する内容について、実際の言葉の成り立ちや、一般的とされる説と異なる場合がございます。
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