ザ 語源 第39回 米の収穫量と稲妻の関係
2024.10.10 (木)
米の収穫量と稲妻の関係
秋は収穫の季節です。今年の夏はスーパーなどの店頭から日本人の主食である米(コメ)が消えてなくなる現象がおきました。「令和の米騒動」です。9月の半ば頃より今年に収穫した新米が出回り始め、米不足は緩和されましたが、米価は去年より大きく値上がりしており待望の米が店頭に並んでも値札を見てがっかりしているという声も聞きます。
ここで米不足の原因を振り返ってみます。グラフは米の作況指数の推移です。作況指数とは広さ10アール当たりの平年収穫量を100として、その年の作物の出来具合(収量)を示す指数です。
米の作況指数
米不足の原因となった収穫年は2023年ですが、データをみると2023年の作況指数は平年並みでした。米の出来具合は問題がなかったわけです。例えば1993年の作況指数は大不作となる74を記録しており、政府は外国から米を緊急輸入する事態になりました。「タイ米は口に合わない」と感じた記憶をお持ちの方もいらっしゃると思います。
米の出来具合に問題がないとすると米不足の原因は他にあると推測されます。現在各種メディアで報道されている要因としては以下があります。
- コロナ禍の反動で外食需要が急増
- インバウンド需要が急増
- 小麦価格の急騰に対して相対的に米価が安かったのでその反動で値上がり
- 米の値上がりや災害に備え一部買い溜めが起こった
米の需要が急増する前にもともと米の消費量や供給量が縮小の一途だったということも見逃せません。次のグラフは日本人1人当たりの米の消費量(年間)です。1960年代では年間100キロだった消費量が近年は年間50キロ程度まで落ち込んでいます(米の消費量について詳しくは「ザ 語源 第7回 不動産の面積:坪とは?」をご参考ください)。
日本人1人当たりコメ消費量
日本人の米離れに合わせるように水田に稲を植えた面積を表す作付面積も減少の一途を辿っています。このように米の供給量と消費量が減少していたところに需要が急増したことが今回の米不足につながったと思われます。
水稲の作付面積の推移
さて今回も前置きが長すぎましたが本題に入ろうと思います。今回の語源は米を生む植物である「稲(いね)」という漢字の由来と「稲妻(いなづま)」はなぜ「稲の妻」なのかという謎について取り上げます。
「稲」という漢字は左側の偏「禾(のぎへん)」と右側の旁(つくり)で成り立っています。「禾」は穀物が実った姿を表しています。右側の旁は収穫した米を石臼(いしうす)で引いてこれを掴み取る姿を象形にしたものと考えられています。
今年の夏は例年に比べ雷が多かったと観測されています。落雷の影響による鉄道など公共機関の運休などは記憶に新しいことと思います。日本には古来より「雷が多い年は豊作になる」という言い伝えがあります。「稲妻」が「稲」の「妻」というのはこの言い伝えが語源と考えられています。
この言い伝えには化学的な根拠があります。
植物の成長には窒素(ちっそ)の摂取が欠かせません。窒素はアミノ酸の素となるタンパク質の生成や光合成、DNAの要素として重要です。空気は酸素が約2割、窒素が約8割で構成されていますが、植物は窒素を空気から取り込むことが出来ず、地中にある窒素を根から取り込んでいます。
地中の窒素は微生物の活動によっても生成されますが、雷とそれに伴う雨は植物が取り込めない空気中の窒素を土壌に運ぶ役割を担っています。稲妻の放電によって空気中の酸素と窒素が化学反応を起こし結合、さらに雨によって土の中に運ばれ、窒素酸化物となることで植物はこれを根から吸収することが出来るのです。つまり稲妻と雨は天然の肥料をもたらしているということです。
雷が多いと稲がよく育つから「稲妻」。昔の日本人の観察眼と粋な名前の付け方に感心せざるを得ません。
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