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ザ 語源 第38回 語源から考える投資判断

2024.09.05 (木)

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

ザ 語源 第38回 語源から考える投資判断

語源から考える投資判断

気象庁のデータによると日本近海で発生する台風は8月が最多ですが、日本列島への上陸数は9月が最も多いとのことです。台風がもたらす豪雨によって河川が増水し、堤防の一部が切れて破壊されることを「決壊」といいます。

「決」という漢字を見ると左の部首がさんずいへん(三水偏)です。「決」の字の右側は「夬(ケツ)」といい古代中国では刃物で抉る(えぐる)、切るという意味を表しています。「決」になぜ水が関係するのか不思議ですが、これは「決」という漢字の成り立ちを見るとわかります。

他の文明も同様、古代中国では「治水」が政治と経済の最大の課題でした。領域を治める君主は河川が氾濫しないよう堤防を築いてこれに備えるわけですが、豪雨による増水を堤防が防ぎきれず水が溢れ出す局面を迎えた時、君主は領域の農地が全滅するという最悪の事態を回避するためにある決断をしました。堤防の一部分を壊し、水を放出させるという決断です。堤防を破壊した領域は壊滅するのですがそれによって他の大部分の領域が救われるという苦渋の選択がされました。「決壊」という言葉も壊す場所を決めるという意味を含んでいました。

このように「決」という漢字の由来には「治水」を司る中国古代の君主の苦悩が刻まれていました。

堤防の決壊により、B村に水害が生じるが、A村とC村の被害は抑えることができる

前置きが長くなりましたが今回は「投資判断」の語源を説明したいと思います。

「投資判断」は英語で「investment decision:インベストメント・ディシジョン」です。「decision」は「決断」という意味です。しかし「判断」は英語で「judgment:ジャッジメント」ですので「investment decision:インベストメント・ディシジョン」は「投資判断」ではなく「投資決断」が日本語訳として正解のようです。

「決断する」は英語で「decide:ディサイド」です。「decide」の語源は「de」が「~から離れて」、「cide」が「切る」を意味しています。従って「decision:ディシジョン」の語源は「切り離す」ということになります。日本語の「決断」も英語の「decision:ディシジョン」も苦悩や葛藤を自分の意志で断ち切るという意味を含んでいます。なお、「切る」を同じ語源とする英単語としては「scissors:シザーズ:はさみ」があります。

decitionは「de:離す cide:切る」で「決断」となる。

「判断」と「決断」は似ているようですが違いがあります。

「判断」は過去の事象や現在の情報からある程度精度を高められる決め事です。「決断」は「判断」より難易度が高く、いくら過去や現在の情報を集めても正解の確率を高めることができない決め事であると考えます。一方を生かすことにより他の一方を犠牲にすることがわかっていても決定する必要に迫られる、つまり葛藤を断ち切る、これが「決断」であると思います。

判断と決断の違い 判断は英語で「judgment(ジャッジメント」で意味は過去の事象や現在の情報から決められる事である。一方「決断」は英語で「decision(ディシジョン)」で	意味はいくら情報を集めても先が見通せない決め事、葛藤(相反や対立)が発生する決め事である。

心の中で相反する欲求に対しどちらかを選択することに悩むことや互いに相反する立場や考えを持つもの同士が対立することを「葛藤(かっとう)」といいます。「葛藤」は英語で「conflict:コンフリクト」です。「conflict」の語源は「con(互いに)」「flict(叩く)」で正に「対立する」という意味です。

英語の「conflict」に対し日本語の「葛藤」の語源はたいへん奥深いので詳しく説明します。

「葛(くず)」も「藤(ふじ)」も他の樹木に巻き付いて茎や葉を成長させるつる性植物の名称であり「相反」や「対立」とは無縁です。「葛」は日本古来の植物であり、その根にあるデンプンから葛粉を精製し葛もち、葛切りなどの和菓子や葛根湯(かっこんとう)などの薬などに利用されてきました。「藤」は藤棚など観賞用として有名で訪日外国人観光客にも人気の植物です。

「葛藤」はこれら2つのつる性植物に絡めとられ苦悶する様が語源となったと考えられています。「葛」は左巻きで樹木に巻き付くのに対し、「藤」は右巻きに巻き付くという両者の相反する習性をみて「葛藤」としたという興味深い説もあります。

葛藤はなぜ葛と藤か?藤と葛に絡めとられる男性のイラスト

最後になりますが、投資信託や投資一任(ラップ)の運用を行う投資判断者を「ファンドマネージャー」といいます。「葛藤」を断ち切り日々「決断」を繰り返し、運用成果を求められるわけですから非常に難易度が高い仕事を担っていると思います。

※本記事で解説する内容について、実際の言葉の成り立ちや、一般的とされる説と異なる場合がございます。

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ライター

飯田 裕康

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

1991年アイザワ証券入社。2002年まで支店のリテール営業を務め、2003年からは支店長として関西方面中心に4つの新店舗を開設。2012年の投資リサーチセンター(現市場情報部)センター長、2018年のインターネット取引部門長、2021年の投資顧問本部長等を経て、現在は西日本ファイナンシャルアドバイザリーを担当。

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