China Market Eye 「3大プロジェクト」は低迷する不動産市場を活性化できるか
2023.12.26 (火)
「3大プロジェクト」は低迷する不動産市場を活性化できるか
2023年7月末の共産党中央政治局会議で、保障性住宅(低中所得者向け)や「城中村再開発」「平時・災害時両用」の公共インフラ建設といった「3大プロジェクト」を積極的に推進する方針が初めて示されました。2024年の政策方針を決定する年末の中央経済会議では、それを加速させることが再確認されました。とくに「城中村再開発」について、低迷する中国の不動産市場を活性化する起爆剤として期待されています。
「城中村」とは、大都市に散在する老朽化住宅地(貧困バラック地区)や、急速な都市拡大に伴って市街地に取り囲まれた農村集落などのことを指します。「城中村再開発」は、様々な補償プランを提供した上で土地の収用と住民の立ち退きをスタートさせるが、各地政府傘下の投融資プラットフォームが再開発からその後の管理までを請け負うのが一般的です。
上海市 土地収用・立ち退き家屋戸数
上海静安区にある再開発中の「城中村」跡地
例えば上海市の場合、1995年~2021年の間に「城中村」の土地を収用して解体・立ち退きを終えた家屋は142万戸にも上りました。「城中村」の再開発は住民の居住改善や土地の集約化利用、都市・農村の融合など様々な方面において不動産市場の活性化に大きく貢献したといえます。
ただ、年間の新着工が600万戸以上に達した2015~2018年の「棚戸区〔バラック地区〕改造」ブームに比べると、今回の「3大プロジェクト」は収益性や効率性を考慮して、人口流入がなお続く300~500万人以上の大都市に限定されています。
調査機関の予測によると5~7年のスパンで考えると、「城中村」再開発における潜在的投資額は年平均でおよそ5,000億元(約10兆円)で、新築住宅市場への押上げ効果はトータルで5兆元(約100兆円)以上になると試算されます。また、それを合わせた「3大プロジェクト」の潜在的投資額は年平均で約1兆元前後(約20兆円)になると推定されます。これは今年の中国の不動産投資額(約12兆元)の8%程度に過ぎず、2015~2018年の再開発ブームには程遠いです。つまり、「3大プロジェクト」は不動産市場を下支えするプラス効果をもたらすものの、中国不動産市況全体の方向性を覆すまでには至らないと思われます。
また、「3大プロジェクト」は2024年から本格化し、その実施進捗や景気の改善に伴ってその実施都市の不動産市況の安定化に寄与することは十分に考えられます。しかし「城中村」再開発には、住民立ち退きを始め投入コストは多く、収益サイクルも⾧いうえ、再開発事業者の資金繰りなどの課題を勘案すると、その進捗は予想より遅れ、規模も縮まる可能性があり得ます。
その取り組みとして、中国金融当局は担保付き補完貸し出し(PSL)や特別融資などの政策融資を通じて段階的に「3大プロジェクト」に資金を注入し、最終的に住宅購入のための資金が家計に行き渡ると見込まれます。
また、「城中村」の住民立ち退きに対する補償プランとして、現金補償と合わせて「房票」(住宅購入券のこと、それを発行して立ち退き者に移転先住居を補償する)も開発・活用されています。「房票」を使えば、苦境に陥った新築住宅市場の在庫解消に効果を発揮させることができるし、再開発のコストを引き下げることもできます。
果たして「城中村」再開発を含めた「3大プロジェクト」は低迷する中国不動産を活性化する起爆剤になるか、その動向からますます目を離せません。
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