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中国

China Market Eye 経済再開後の中国消費動向

2023.11.30 (木)

アイザワ証券 上海駐在員事務所

柳 林

China Market Eye 経済再開後の中国消費動向

サービス消費は好調、雇用不安が消費復調を妨げる

中国統計局が発表した2023年19月のGDP成長率は5.2%増でした。中でも消費とサービス部門の貢献度がそれぞれ62%、83%に達するなど、景気回復の原動力となりました。ただ、110月の小売売上高は前年同期比6.9%増であったものの、昨年の反動を考慮すれば物足りない低水準であると言わざるを得ません。

一方で旅客数がコロナ前を大きく上回るなど、家計消費の52%を占めるサービス消費は前年同期比19%増(うち飲食サービスは18.5%増)と堅調に推移し、消費のうち、モノとサービスでは明暗が分かれる展開となっています

中国個人向けの銀行預金・住宅ローンの前年同期比増減額

経済再開後の中国では労働市場が悪化し、それを反映して消費者心理の弱さが景気復調を妨げていることが様々な市場調査で裏付けられています。その背景には、約3年間のコロナ禍により、数百万社とも言われる中小・零細企業が倒産か閉鎖に追い込まれたことで雇用不安が高まる中、不動産市場の変調が加わり、家計が借金減らしへと転換して予防的な貯蓄を増やすというバランスシートの調整に突入していることが考えられます。

また、パンデミックによる心理的な傷跡は大きく、消費メンタルを再び整えるのに時間を要していると観測されます。

2023年の中国の個人消費が弱含んでいるなか、中身を見てみると様々な構造変化が起こっています。全体としては、レジャー・旅行などサービス消費や必需品が総じて堅調さを維持しているのに対し、建材や内装、家具など不動産関連消費は不振に陥っています。自動車や家電など耐久財消費については、元々不動産との相関度が高かったものの、一連の政策支援奏功もあって修復傾向が続き強靭さを見せています。

「独身の日」が示唆する消費意識の構造変化

消費者コンフィデンスの回復が遅れるなか、今年の年末ダブルイレブン「独身の日」商戦もGM(流通総額)が小幅増にとどまって終了しました。EC市場はどんどん伸びていくという量的拡大のフェーズが終わったように思われます。今年の「独身の日」セールでは、以下のように様々な購買意識変化が見られ、今後の中国消費動向を占う上で重要なポイントになりそうです。

まず1つ目に、見栄消費や衝動消費を減らし、コスパをより重視し、不必要なものを節約する傾向が強くなり、消費者は収入の伸びに見合う合理的な消費行動に回帰しつつあります。

2つ目に、コロナ禍の中で人々は日常生活を充実させ、その中から精神的な満足や悦びを得ることの重要性を再認識するようになり、Z世代を中心に趣味やコト消費、健康ニーズ、ペット用品、キャラクター、フラワー、自己啓発カリキュラム、儀式用品、個性的な飾品など自分自身を喜ばせる「悦己消費」が大きなトレンドとなっています。

3つ目に、中国経済が質的成長にシフトするなか、製造技術の向上やコスパの高さ、種類豊富な商品(SKUの豊富さ)、レスポンスの速さ、中国人の美意識に見合ったデザイン性の向上などにより、自動車やスマホ、家電からスポーツウェアや化粧品などまで中国国産ブランドを重視するという「国潮」ブームが一層強まっています。

最後4つ目に、技術進歩により消費シーンが増加し、新商品の開発が加速しており、AIを搭載したフィットネスミラーやスマートホーム製品、音楽や文学などの多様なサブスクサービスなどデジタル消費や、合成バイオ技術を駆使した化粧品や食品なども新たな消費の方向性を示しています。

上海・南京西路 SKUの豊富さ等で好業績を続ける中国大手雑貨チェーン

名創優品(香港・米国上場)、ブラインドボックスやアロマ、キャラクターなどが売れ筋

コロナ後の中国消費の構造変化で海外ブランドに明暗

また、コロナ後の中国消費構造の変化は、中国で活躍する海外ブランドにも大きな波及効果をもたらし、その対応の違いによって明暗が分かれる展開となっています。

消費者の節約志向に不動産調整による逆資産効果が加わったため、コロナ禍でも好調だった高級ブランド・腕時計などの中国売上は軒並み減速し、海外ブランドメーカーの株価を押し下げる要因ともなっています。また、テスラを除けば、EV化の流れに乗り遅れたフォルクスワーゲン(VW)や日産などの自動車メーカーも中国市場シェアの喪失を余儀なくされています。

その一方、消費者の嗜好およびライフスタイルの変化を軸に商品力とブランド力を調整・強化したため、スターバックスや会員制倉庫型スーパーのコストコ、ユニクロ、ニトリ、ケンタッキーなどは中国事業が好調に推移し、今後一層のビジネス拡大を見込んで新規出店や投資拡大を続けています。

例えば、コロナ後の健康ブームに乗じて、カナダのスポーツウェア大手ルルレモンの中国売上は2023年第2四半期(57月)に前年同期比61%増の2.8億米ドルに達し、2023年の新規出店数では中国(126店舗)が初めて世界最大となりました。ルルレモンのアジア最大の旗艦店は南京西路で今年1012日に新規オープンしました。

ルルレモンの上海・南京西路旗艦店

コロナ後の中国では、不動産バブル剥落が続く一方で経済のサービス化や産業の高度化が加速するという構造調整局面を迎えたといえます。景気が安定化に向かうにつれて消費者コンフィデンスが本格的に上向くにはまだまだ時間を要すると見られます。

こうした中で企業にとって、ますます高度化・細分化・多様化していく消費者ニーズを素早く捉え、新技術を駆使した商品そしてブランド戦略を強化できるかどうかが、中国市場を勝ち抜く鍵となりそうです。

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ライター

柳 林

アイザワ証券 上海駐在員事務所

柳 林

中国遼寧省瀋陽出身。日本の証券会社で中国株の調査に従事したのち、2003年にアイザワ証券に入社。投資リサーチセンター(現市場情報部)で中国株の調査、分析を担当する。2005年にアイザワ証券子会社の上海藍澤投資諮詢有限公司の社長に就任、2008年よりアイザワ証券上海駐在員事務所の首席代表を務める。日本からは分かりづらい中国の「リアル」な姿を現地から伝える。

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