China Market Eye 教育に伴う失業率の現状
2023.06.23 (金)
「高考」と若年層の失業率
中国では6月7日より、大学入試の統一テスト「高考」が全国で始まりました。今年の出願者数は昨年より98万人増の1,291万人と過去最高を更新しました。毎年の“一大行事“として、朝から試験会場周辺で秩序維持や交通規制、騒音対策に多くの警察が動員される風景があちこちで見られます。
保護者らが我が子を会場構内まで見送る中、チャイナドレス姿で受験生を励ます姿が目立っています。チャイナドレスの漢字表記には「旗」という文字が入っていて「旗開得勝」(旗を揚げて勝利する)という意味を込めたゲン担ぎだといいます。
中国における熾烈な「受験戦争」
十数年にわたる過酷な学習期間を経て、自分の将来を大きく左右する一発勝負なのです。それだけに「高考」は受験生にとってまさに人生の初舞台といっても過言ではありません。「一人っ子」の影響もあり、激しい受験競争を支えるために金銭面や生活面で大きい犠牲を強いられてきた保護者たちにとっても、緊張の瞬間であることは想像に難くありません。
中国政府の教育支出(2004年~2023年)
中国の高度成長と財源力の増大に伴って、中国政府の教育支出は20年前の3,300億元から今年は4.2兆元(約83兆円)と約13倍にまで膨らんでいます。
中国の大学新入生と高校の進学率(1991年~2022年)
政府による教育支出の増大につれて、中国の高校の進学率は30%以下から90%強と飛躍的に上昇し、大学の入学人数も1990年代初めの60万人程度から16倍の1,000万人強と爆発的に拡大しました。
大学の進学率も大幅に上昇し、高嶺の花だった大学教育は誰にでも受けられるようになりました。一方、せっかく大学を出たとしても今の中国の超競争社会を勝ち抜けるとは限らないため、「内巻:ネイチュアン(不条理な内部消耗)」という言葉が最近の流行語となっています。
若年層失業率の高まり
中国の調査失業率(月次:2018年1月~2023年5月)
特に過去3年間では「卒業は失業と等しい」という言葉が流行するほど厳しい現状です。統計局によると、16~24歳の若年層失業率は20%超えとパンデミック前より大幅に上昇しており、海外でも中国経済のバロメーターとして注目されています。
この失業率の高まりについては、以下の要因が考えられます。
1つ目として、経済再開後の回復にばらつきがあり、地域・業種間で波及する経済の完全な再循環までには至っておらず、中国経済は依然として“景気復調の初期段階に差し掛かったところ“であることです。また、スタグフレーションに直面する米欧の景気動向を鑑み、民間を中心に企業サイドでは投資・採用拡大への慎重姿勢がみられています。
2つ目は、中国の大学新入生と高校の進学率のグラフを見る通り、米中貿易戦が勃発した2018年から中国の大学の入学枠が急拡大していることです。4年間の累計は700万人にも上ります。
当局は景気不安への危惧から大学枠の拡充に動いた可能性があると推測されますが、コロナ禍がそれに続いたため、その後に期待された景気好転が訪れませんでした。その結果、大卒に対する需給バランスが一気に崩れることとなりました。
3つ目は、多くの大卒生が、せっかく大学まで出たという意識から、社会的な地位(ステータス)をより重視する傾向があり、専門職や管理職などホワイトカラーの仕事に人気が集中していることです。求人が多いブルーカラーや熟練労働者の仕事に対する就職意識は低く、労働市場では大きなミスマッチが生じています。
一方、コロナ禍を経て少子高齢化はいっそう進行し、労働力不足は時間が経つにつれてますます顕在化すると予想されます。先の中国の調査失業率推移のグラフをご参考いただくと、中国経済の再循環の進みに伴って、主力の25~59歳の失業率は既に順調に低下しており、コロナ前の労働市場がタイトであった状態に戻るのも時間の問題であると考えられます。
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