China Market Eye 中国で若年層の失業率が上昇している背景とは?
2022.09.05 (月)
若年層失業率が最悪の水準に
8月15日、中国統計局は7月の全国都市部失業率が5.4%となり、2か月連続で低下したことを発表しました。その一方で、若年層失業率(16~24歳)は19.9%と、2018年の統計開始以来、最悪の水準となったことに注目が集まっています。
世界的に見て、若年層の失業率が平均失業率の2倍ほどあるのは一般的です。とはいえ、全体の失業率と逆行した動きを見せた中国の若年層失業率は、短期要因のみならず、社会と経済の変遷を反映した構造問題にも起因していると考えられます。
ゼロ・コロナ政策下での雇用の縮小が影響
短期要因としては、まず、ゼロ・コロナ政策の下で、労働力人口の半分強を占めるサービス部門が大打撃を被っていることが挙げられます。3月下旬に始まった上海ロックダウンは解除されたものの、経営者信頼感指数がリーマンショック以来の低水準にまで落ち込むなど、中小・零細企業を中心に経済活動の回復にはまだ至っていません。
次に、「共同富裕」を目指す政策変更を受け、これまで比較的賃金が高く、人気のある新規雇用の受け皿となってきたアリババやテンセント、美団点評などのデジタル時代の風雲児たちが昨年から急失速し始めていることも要因の一つです。また、学習塾規制で急拡大した民間教育部門も大規模なリストラを余儀なくされています。
そのほか、経済波及効果が大きく、デレバレッジを迫られてきた不動産部門では、上海ロックダウンなどの影響で底入れ局面は予想より後ずれとなっていることも影響しています。
労働市場のミスマッチも深刻化
上述した雇用機会の縮小といった需要サイドに起因したサイクル要因以外の構造要因も無視できません。
日本や韓国、台湾を後追いする形で、高度成長に伴い中国の高校・大学の進学率は飛躍的に伸びています。昨年の大学新入生数はついに1,000万人の大台を突破し、なんと20年前の約10倍に跳ね上がりました。
中国政府は大学教育を重視・優先するあまり、深刻な雇用のミスマッチも引き起こしています。というのは、大卒者は賃金や職種などに対する希望が高い一方で、構造調整期に差し掛かる中国経済は付加価値の高いハイエンド製造業・サービス業の職場を十分に提供できていないからです。
また、大学側には求人側のニーズにマッチした職業訓練がなされていないほか、学科の設置にも課題があります。例えば、中国では空前の半導体投資ブームが巻き起きているにもかかわらず、集積回路(IC)学科は2年前に設置されたばかりです。これは、中国IC産業に数百万人に上る人材不足につながっていると言われています。
大卒者がホワイトカラーの職場を探し求めて「就職氷河期」に突入した一方で、好調な輸出と産業の高度化を背景に熟練した工場職人の人手不足が深刻化しています。さらに、それほど専門知識を必要としない配達員や販売員といった、いわゆるブルーカラー職種も求人倍率が低迷しています。
中国の労働市場ではこうした職種間のミスマッチが、大卒者の増加とコロナ不況によっていっそう増幅されているのです。
進学や公務員・国有企業を目指す学生が増加も
失業率が悪化する中、修士・博士などへの進学希望者は300万人超と記録的な水準となっています。
進学や就職を巡る競争がますます苛烈化し、「寝そべり主義」(無理に頑張らない生き方)や「内巻」(競争が激しくなるだけで誰も勝者になれないという意味、英語はInvolution)という言葉が流行するようになり、若者の辛い気持ちと失望感を漂わせています。
こうした状況下で、当局は公的部門の求人拡充を強化しており、公務員や国有企業への就職を目指す大卒者も増えています。ただ、効率性の低い公的部門志向の強まりはイノベーションに挑む若者が減ることを意味し、長期的に見れば経済の潜在競争力が損なわれることから、中国にとってデメリットのほうが大きいと思われます。
労働市場のミスマッチを解消するには
雇用は各国政府にとっても優先的に取り組む課題です。
中国経済は4~6月期を底に弱含んでいるものの、最悪期を脱し、雇用は全体として改善傾向にあるといえます。景気の一段押し上げに向けた財政・金融政策動員の余地がまだ残っているほか、今後、起業促進や技能訓練、内陸部就職促進などの雇用対策を強化することも想定されます。
ただ、企業の投資マインドや消費者信頼感を向上させるには、過剰な防疫対策が敷かれるゼロ・コロナ政策の緩和・撤廃や、民間企業に対する規制緩和で再活性化させることが不可欠でしょう。
中国社会では少子高齢化が進行していることから、絶対的な雇用不足局面は長期にわたって続かないと思われます。
長らく存在する中国労働市場のミスマッチを解消するには、大卒者はエリートで高賃金職種に就くものといった意識変化を起こす必要があると同時に、ブルーカラー職種の待遇改善及び社会的地位向上を促すことも不可欠です。
加えて、産業の高度化や経済サービス化を加速し、付加価値の高い資本・知識集約型の職種を大量に創出し、社会のニーズに見合った雇用機会を提供する職業教育・訓練を拡充する必要もあるでしょう。
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