China Market Eye 618商戦が映すゼロ・コロナ下の中国の消費動向
2022.07.01 (金)
「史上最も寂しい618商戦」
上海ロックダウン解除後の初めてのビックイベントとして、「独身の日(11月11日)」と並ぶ恒例のインターネット通販セール「618商戦」に注目が集まりました(なお、6月18日はインターネット通販大手のJDドットコムの創業日)。統計によると、6月1~18日の主要プラットフォーマーの取引総額は前年同期比13.5%増の6,959億元(約14兆円)にとどまった模様です。プラットフォーマー別では、JDドットコムが同10%増、天猫(Tモール)と淘宝を傘下に持つアリババグループはゼロ成長かやや前年割れと推定され、「史上最も寂しい618商戦」とも揶揄されています。
その背景には次のようなことが挙げられます。第1に、上海など大都市からの発注が制限されるなど、上海ロックダウン解除後も物流網やサプライチェーンは完全には回復しておらず、供給力不足が大きな制約要因となっています。第2に、中国全国の小売売上高は4月から2か月連続のマイナス成長を記録するなど、ゼロ・コロナによる大規模なロックダウンと景気悪化が、収入の減少や雇用不安などを通じて消費マインドに影響を与えたとみられます。
ライブコマースが急拡大
「618商戦」が全体として冴えない中、ライブコマースの取引額は前年同期比124%増の1,445億元(約3兆円)となりました。これにより、ライブコマースが従来型プラットフォーマーから市場シェアを奪い、勝ち組として浮上しました。
例えば、ショート動画アプリ大手のTikTokは「618商戦」中のライブ時間数が4,045万時間、ショートビデオ放送数が1,151億となりました。なお、出店数は同159%増加したと発表しています。また、中国の大手オンライン教育企業の新東方在線(香港:1797) の講師が、英語を教えながら商品を売る動画が注目されるなど、文化産業とライブコマースを融合させるという新たなビジネスモデルを生み出しました。1日当たりの視聴者数が5,000万人を突破したことで、新東方在線の株価は一時10倍に跳ね上がりました。
高級・健康志向が鮮明に
製品別では、外出制限を受けて自宅で過ごす時間が増えたことから、スマートフォンと化粧品が不振でした。半面、アップルが独り勝ちとなったほか、化粧品についても海外・国産大手ブランドへのシフトが鮮明となりました。
その一方で、キッチン用品・家電は巣ごもり需要を取り込み好調でした。例えば、ロボット掃除機、ノンフライヤー、プロジェクター、コーヒーマシン、食洗機の取引額は、順に前年同期比500%増、300%増、166%増、129%増、115%増となりました。
また、ウォシュレット一体型便器の販売額は従来型便器の4倍に拡大するなど、消費水準の向上もうかがえました。大手家電メーカーの美的電器は販売単価が前年同期比22%上昇し、傘下の高級家電ブランド「COLMO」の販売額が同159%増加したと発表するなど、電化製品全体の高級化が進んでいます。さらに、健康意識の高まりを受けて、AIフィットネスミラー、ヨガマット、室内ジョギングマシン、キャンプ用品、ダンベル、トレーニング機器、釣り用品の取引額も、順に前年同期比300%増、211%増、200%増、200%増、140%増、100%増、50%増となりました。
個人消費はU字型回復か
このたびの「618商戦」ではリベンジ消費が見られなかったものの、拡大傾向を維持したことから、上海ロックダウン解除後に消費者センチメントは上向き傾向であることがわかりました。90年代生まれとZ世代が中国の消費の主役となりつつある中、多様化・高品質を追い求める流れは一層強まることが予想されます。
上海ロックダウンを受け、中国経済は大きな打撃を受けました。しかし5月の輸出が前年同月比17%増加するなど、成長の基盤である製造業は強靭さと力強さを見せました。今後、政策支援効果が見込まれることから、他に先駆けて製造業がV字型回復していき、それを追って個人消費がU字型回復していく公算が大きいと考えます。ゼロ・コロナ政策については、当局は今秋の共産党大会後に緩和・撤廃する可能性が高く、当面はPCRローラー作戦の強化によってロックダウンを回避していく見通しです。
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