China Market Eye 中国の景気停滞で都市部と農村部の格差は縮小へ
2024.08.29 (木)
中国の景気停滞で都市部と農村部の格差は縮小へ
景気が停滞するなかで中国経済に様々な異変が生じています。例えば、北京や上海、深セン、広州といった4大都市の小売売上高では今年6~7月に軒並みマイナス成長に転落し、中国全国(+2.4%)を大きく下回りました。その一方、中国農村部の小売売上高は6~7月に前年同期比4.2%増と都市部の伸びの2倍に達し、多くの地方都市では消費活動は底堅く推移しています。
そのうちミシュランレストランなど高級飲食店が相次いで倒産に追い込まれたと報道されるなど、大都市では飲食業の不振はとりわけ際立っています。ゼロコロナ解除による昨年急回復のベース効果を除いたコロナ禍前の2019年に比べても、北京と上海の飲食業収入は6~7月に11%増の445億元と伸び率では中国最低で全国(+22%)の半分にとどまりました。
北京上海の飲食業収入
大都市消費不振の背景について様々な要因が重なっていると考えられますが、収入の伸びが著しく鈍化し消費者の財布の紐が固くなったのが最大の理由です。例えば実質的な賃金水準をベースにした上海市の社会保障納付基数(基準ライン)は過去22年間で年平均10.8%増でしたが、今年は12,307元(約27万円)/月と1%増に激減しました。公務員や学校・病院など公共サービス部門、国有寡占企業では賃上げペースが維持されていることを考えると、幅広い民間企業や零細企業、外資系企業などでは、景気悪化や米中対立などを背景に実質的な賃下げが行われていると推定されます。
上海市の社会保障納付基数(基準ライン)
また、大都市の不動産価格が高いため、多くの家計では多額な住宅ローンを抱えており、その消費行動は収入見通しだけでなく財産所得及び資産効果に影響される傾向も見受けられます。ところが2021年をピークに不動産・株式の下落に歯止めがかからず、利下げに伴って都市部家計の財産所得は大幅に減少したほか、バランスシート調整(債務減らし)を強いられる中間層も少なくなく、高額消費に慎重になってきています。
中国の都市部財産所得の前年比
一方の中国の農村部や地方中小都市では、消費者はそれほど財産所得及び資産価格に依存しない上、電子商取引やマイカーの普及率、サービス業の浸透など所得水準及び経済発展も大きく出遅れたため、コロナ禍前から今日に至って所得の伸びが勝って消費意欲も相対的に強いのです。
中国の都市・農村部可処分所得の前年比
中国では長らく、大都市と地方都市、都市と農村といった2重経済構造が存在すると言われます。不動産高につられてここ数年膨張してきた大都市の高額消費は不動産バブルの剥落に伴って曲がり角を迎えており、消費者がこれまで以上に品質と価値のバランスを取るようになっています。その一方、広大な農村・地方都市では景気不振の影響も免れないものの、依然として消費水準が上向く段階にあり、緩慢な消費回復をけん引する主役となっています。
当面、大都市を中心に不動産調整が長引き、所得・雇用見通しも不透明な中、消費者が節約志向を辞めかつての自信を取り戻すには時間がかかりそうです。また、消費の伸びでは大都市が地方・農村に逆転されることは、中国経済に長らく潜む2極化構造(富の集中)や不動産依存の成長パターンからの反動であり、中国の経済構造調整による必然的な結果でもあると言えます。だが長い目で見るとそれは、地域間の格差が縮小に向かい、質的成長が進むという中国経済の新局面を迎える契機になる可能性も秘めています。
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