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China Market Eye 自給自足を目指す中国の半導体産業

2024.06.27 (木)

アイザワ証券 上海駐在員事務所

柳 林

China Market Eye 自給自足を目指す中国の半導体産業

自給自足を目指す中国の半導体産業

2024年1月5月、中国のIC(集積回路生産量は前年同期比33%増とコロナ禍前の2019年の2倍以上に達し、工業部門の産業高度化をけん引しました。その輸出金額も前年同期比23%増の4,447億元(およそ9.8兆円)と過去最高を更新しました。国内の生産拡大に伴って、ICの海外輸入量に対する国内生産量の比率は、10年前の30%程度から80%以上にまで急速に高められています。

中国のIC(集積回路)の生産量と輸入量

また米制裁による駆け込み輸入増の後押しもあり、世界の半導体装置売上高に占める中国のシェアは、昨年後半から50%近くにまで急上昇しており、中国のIC国産能力が一段と拡大することが強く示唆されます。

中国の半導体装置売上高とその世界シェア

生産規模の拡大を背景に中国の半導体企業は急成長を遂げ、世界的なプレゼンスを高めつつあります。

例えば、中国の半導体ファウンドリ最大手・中芯国際集成電路製造(香港・上海:SMIC)の世界シェアは約6%と、上位2社との差が依然大きいものの世界3位に浮上しています。また、長江メモリー(未上場:YMTC)と長鑫存儲技術(未上場:CXMT)DRAMNAND型フラッシュメモリーの生産能力を現在世界の56%から1520%に広げていく計画を進めています。国産製造装置の調達比率向上も著しく、中国半導体装置製造最大手・北方華創(深セン:002371)は2024年13月の売上高が8億ドル超と、初めて世界トップ10入り(世界8位)を果たしました。

今年6月にSEMI(国際半導体製造装置材料協会)は、世界の半導体製造能力を2024年に6%、2025年に7%とそれぞれ拡大し、そのうち中国の製造能力はそれぞれ15%増の月産885万枚、14%増の月産1,010万枚と世界全体の約3分の1を占めると予測しました。また、WSTS(世界半導体市場統計)は、2024年および2025年の世界半導体市場規模がそれぞれ前年比16%と15.2%増と上方修正しました。

その背景として、以下のことが挙げられます。

まず、シリコンサイクルは在庫調整を経て上向き、データセンターや生成AIなど旺盛なAI関連投資が世界的にけん引すると予想されます。生成AI機能を搭載したスマホ、サーバー、PCの販売が盛り返し、半導体需要を押し上げる公算が大きいです。

次に、中国の独自要因としては、EV(電気自動車)の販売は世界全体の6割を占めるだけに、搭載量の多い新エネルギー車載向け半導体の需要は大きく膨らみます。また、太陽光やスマートグリッドなど環境関連需要も持続的な成長が見込めます。さらに中国政府は自動化やデジタル化など、大規模な設備更新による成長下支えと産業の高度化を目指しており、産業機械向けの需要も好調に推移する見通しです。

3に、半導体産業は中国の技術自立および産業の高度化の中核として位置づけられており、米中対立が深まる中でその国産化は中国にとって死活問題になっています。こうした背景下により、5月末に中国政府は3,440億元(およそ7.6兆円)に上る過去最大の国家半導体ファンド(3期目)を立ち上げ、先端チップ製造や製造装置・材料の国産化など技術ブレイクスルーを目指すなど外国製チップへの依存を解消しようとする決意を改めて示しました。

中国国家半導体基金1期と2期の投資先内訳

「国家集積回路産業発展推進綱要」によると、中国半導体産業サプライチェーンの各主要分野において、2030年までに国際的な先進レベルに追いつくことを目標として掲げられています。足元では、ファンドリー中国2位の華虹半導体(香港:01347)の設備稼働率が13月期に92%に上昇し、パワー半導体やメモリー市況が底打ちして値上げに転じ、半導体装置メーカーの受注も好調に推移するなど、中国の半導体産業は世界シリコンサイクルに吊られて循環的に上向く兆しが多く見られます。

また、中国が総力を結集した様々な技術ブレイクスルーによって中国IT大手・ファーウェイ(未上場)が発表したスマホ新製品に7ナノメートルレベルの製造技術が使用されていたことが既に判明し、世界を驚かせました。5ナノメートル以下の最先端チップの量産化について、米国の制裁措置によって当分追い付くことが難しいものの、28ナノメートル以上のレガシー半導体の領域では中国の製造能力は、45年で倍増する勢いで業界でのプレゼンスが大きく高まる見通しです。

本土半導体指数(189社、含太陽光)の売上高は2年後に2兆元(およそ44兆円)の大台を突破すると予測されていますが、今後市況好転に伴って前倒し実現する可能性が濃厚です。シリコンサイクルの上向きに国産化ブームも加わり、製造や材料、装置、パッケージング、パワー系など各分野の中国主要半導体上場企業は、引き続き注目に値するものと考えられます。

本土半導体指数(189社)の売上高

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ライター

柳 林

アイザワ証券 上海駐在員事務所

柳 林

中国遼寧省瀋陽出身。日本の証券会社で中国株の調査に従事したのち、2003年にアイザワ証券に入社。投資リサーチセンター(現市場情報部)で中国株の調査、分析を担当する。2005年にアイザワ証券子会社の上海藍澤投資諮詢有限公司の社長に就任、2008年よりアイザワ証券上海駐在員事務所の首席代表を務める。日本からは分かりづらい中国の「リアル」な姿を現地から伝える。

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