China Market Eye 住宅在庫の買い取りで中国の不動産市場が新局面へ
2024.06.03 (月)
住宅在庫の買い取りで中国の不動産市場が新局面へ
2024年5月17日、中国政府は住宅ローンの最低頭金比率(一軒目は15%)や公的住宅積立金ローン金利を引下げるほか、中国人民銀行の再貸出を利用して売れ残りの住宅在庫を地方政府に買い取らせ、保障性住宅に活用するという新たな施策を打ち出しました。
中国の個人向け中長期ローンと住宅価格
これは今年4月に政治局会議で決めた「不動産在庫の削減」に沿ったものと見られます。4月以来の不動産市場では、家計部門のバランスシート調整に伴って住宅価格の下落が一段と加速しました(上図参照)。
これによって消費者マインドおよび幅広い不動産関連需要は低迷し、一連の金融緩和の効果を削ぐ事態となっています。深刻化した不動産不況に歯止めが掛からなければ、持ち直しつつある景気の先行きが懸念されるだけでなく、金融システムの安定も連鎖的に損なわれかねないからです。
保障性住宅とは、都市部の低所得者層や新卒などに向けて販売・賃貸されるもので、第14次五ヵ年計画により地方政府が確保に動いたものの、賃貸向け保障性住宅はいまだに約300万戸不足しているとされています。
従って今回の施策により、
①市場でだぶついた新築住宅の在庫を削減し、需給バランスを改善して住宅価格を安定化させる
②保障性住宅の供給を加速し、低所得者層の潜在需要を喚起する
③デベロッパーの資金回収や「保交楼」(未完成住宅の完工確保)を促進し、デフォルト(債務不履行)など潜在的な金融リスクを解消する
という一石三鳥が狙えると観測されます。
その第一弾は、試験的な意味を持つ3,000億元程度(再貸出し制度を利用した銀行ローンと合わせると5,000億元)ですが、中国の不動産対策は「保交楼」などこれまでの供給サイドから需要サイドに移っているといえます。この政策転換は、住宅需給のアンバランスへの是正やデベロッパーの債務危機解消を通じて住宅の価格下落と販売低迷に歯止めをかけ、供給過剰やマインド低下に起因した不動産不況の悪循環を断ち切るきっかけになる可能性を秘めています。
ただし、バブル醸成の教訓から今回の住宅在庫解消に向けた取り組みは2015~2016年時の規模には遥かに及ばないと推測されます(下図参照)。
中国の新築住宅販売・新着工・在庫
足元では、中国の新築住宅販売戸数は年率で約700万戸程度とピーク時からほぼ半減し、販売価格も収入を加味した2016年の水準にまで調整しています。このタイミングで長期的な公的資金を思い切って投入してもリスクは高くないとの当局判断があったと思われます。金融機関の予測では、計画・建設中の物件を含めた広義的な住宅在庫を合理的な水準に減らすには、200万~700万戸を買い取る1.5~4兆元(約30~80兆円)の資金が必要と試算されます。
当局の政策転換により不動産不安は後退し、本土不動産企業の株価・社債指数は一時的に年初安値から30%以上急騰しました。ただ、今のところ住宅在庫の買取原資は小規模に止まるほか、その価格決定メカニズムが透明性を欠きモラルハザードを誘発するリスクも孕みます。
また保障性住宅に対する市場需要が高まらなければ、その運営効率が落ち、新たな市場圧力を生む恐れもあります。当面は当局が買取りの進捗と住宅価格の推移を見定めながら、追加的な支援および買取規模を徐々に広げていくものと考えられます。
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