China Market Eye 短期的な痛み覚悟で経済再開を急ぐ中国
2023.01.16 (月)
中国防疫体制の大転換の背景
WHO(世界保健機関)によると、新型コロナウイルスの大規模な感染再拡大は、中国政府が新型コロナウイルスに対する規制を緩和した11月11日以前から既に進行していたことが分かりました。また、最大の政治イベントである共産党大会を終えてから防疫体制を見直していくことは、当局の既定政策方針であったと推測されます。
中国の11月の主な景気指標は、インフラ投資を除けば10月よりもさらに悪化しました。経済失速は政策当局がゼロコロナ規制の撤廃を決断した主因となり、過剰な防疫体制に喘いだ市民の不満拡大も政策転換を早めた可能性があると考えられます。
今やゼロコロナ規制については、出入国規制を含めてほぼ全面的に撤廃されました。防疫方針の転換を決断した以上、対策や制限に時間をかければかけるほど経済的ダメージが大きいため、当局は経済再開を前倒しする短期決戦を選択したのです。
国民に対する当局の説明
中国のゼロコロナ規制は、デルタ株が流行した頃までは効果的でしたが、感染力や免疫突破力が非常に強いオミクロン株には効果の大部分が失われていることが次第に認識されてきました。また、デルタ株やオミクロン株に変異した初期の頃に比べると、新型コロナウイルスの毒性が弱まり、致死率がインフルエンザと変わらないほどまでに下がってきたことは、中国や世界各国の調査でも明らかとなっています。
政策の急転換については唐突さや拙速感は否めないものの、ウィズコロナが世界の潮流となる中、国民は、「これまでの3年間、政府はウイルスの毒性が十分に弱まるまで莫大な財源を費やし守ってきた。これ以上はもう無理だ。これからは、自ら健康に気を付けながら正常な生活に戻ろう」という当局の説明を、時間の経過とともに徐々に受け入れていくでしょう。
感染率は既に70%を超え、集団免疫は一気形成へ
12月7日にゼロコロナ規制を実質上撤廃した「新10条」が発表されてから、新型コロナウイルスの感染拡大は医薬品や病床不足などの混乱を伴い全国的に急拡大しています。
ある調査によると、昨年12月末時点で中国31省・市のほとんどで感染率が70%を超えた模様で、中国都市部での感染拡大は既に最悪期を過ぎたように思われます。春節(旧正月)を経て、人口が密集する都市部から農村過疎地へとウイルスが拡散していく局面を迎えそうです。
また、中国はイブプロフェンなどの解熱剤や抗原検査キットの原料から最終製品までの生産大国であるため、迅速な生産体制の強化により、薬品不足は解消されつつあります。医療逼迫の状況は続いているものの、「居住委」といった強力な政府末端組織や医療機関(公立病院がほとんど)が繁忙なPCR検査から解放され、重症患者の治療に再配置・動員されることで状況は沈静化していくのではないかと思われます。
専門家によると、感染拡大は全国的に1月下旬の春節頃にピークを迎え、集団免疫の獲得に伴い春頃にかけてほぼ日常を取り戻すと予測しています。
株式市場は政策との蜜月期を迎え、「経済再開ラリー」が続く
2023年の経済政策の運営方針を決める中央経済工作会議では、内需拡大を最重要の政策目標として挙げており、共産党大会の後から経済成長を重視する現実路線への回帰が鮮明となっています。ゼロコロナ規制はこれまで成長を抑える重石だっただけに、その解除は最大の経済政策といっても過言ではありません。
経済の正常化まで紆余曲折が予想されるものの、パンデミックが3年を経過した今、ゼロコロナ規制に多くの国民は精神面でも金銭面でも限界に達しつつあります。迅速な政策転換は、1日も早く日常を取り戻したいという中国国民の総意を反映したものであり、後戻りすることはないでしょう。
中国の政策転換を受け、10月末から香港ハンセン指数が約4割急反発し、中国本土株への外国人投資家の買い越し額が800億元を超えて過去最高を更新するなど、中国株もついに経済正常化の動きを見越した「経済再開ラリー」に突入したように思われます。
香港の地下鉄乗客数を見ると、新型コロナウイルス対策の規制緩和から3か月足らずでほぼ元の水準に戻りました。
中国では、他の地域に先駆けて感染拡大に突入した北京市では、1日当たりの地下鉄乗客数が12月初めにゼロコロナ規制強化前の10分の1程度にまで落ち込んでいたものの、12月末の時点でほぼ元の水準を回復しつつあります。足元、他の地域も北京市に追随し同様の展開になろうとしています。
そのほか、中国の国内航空路線はゼロコロナ規制が撤廃された途端に急増し、株式市場では旅行サイト大手のCトリップや免税店大手の中免の株価が年初高値を更新するなど、富裕層が主導する消費回復の第1波が強く示唆されています。
中国の政策転換により、政策と株式市場との蜜月期が始まり、息の長い「経済再開ラリー」が続きそうです。
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