China Market Eye 影響が広がるウイグル問題
2021.04.09 (金)
中国新疆ウイグル自治区の人権問題を巡って、中国と欧米諸国の対立が先鋭化しています。
今年3月下旬、欧米が人権侵害を理由に中国に対して制裁を発動し、中国は直ちに報復制裁で対抗しました。欧米の制裁に反発して、中国メディアは新疆綿の不使用を表明したスウェーデンのファストファッション大手のH&M製品へのボイコットを呼び掛けたのです。
それを発端に、中国の消費者の不買運動は、新疆綿の使用について曖昧なスポーツ用品大手の米ナイキや独アディダス、衣料品大手の英バーバリーや日本のユニクロなど、他の海外ブランドメーカーにも飛び火し、広告塔となってきた中国の芸能人による契約解除が相次いでいます。
H&Mは、店舗情報が中国の地図アプリから削除されたり、大手ECサイト上の店舗が存続不能となったほか、3月末時点で中国国内の約500店舗のうち約20店舗が閉鎖に追い込まれました。当局の報道官も、「中国の消費者は行動で反応を示した」と不買運動に理解を示したことから、新疆綿を巡る海外ブランドへの逆風は当面続きそうです。
政治的かつ経済的な意味をもつ「新彊綿」制裁
この背景には、このところ中国が政治面で人権などを巡り欧米の激しい攻撃に晒されており、中国国内で西側諸国への反発と怒りが蓄積していることが挙げられます。当局は国民感情に配慮して国民感情のガス抜きさせる必要があり、その中でH&Mは格好の標的となっている可能性があります。
一方、経済的な観点からすれば、中国はコロナ封じの成功により早期回復を遂げ、輸出シェアを大幅に広げるなどプレゼンスを一段と高めています。これを危惧した欧米は、新疆綿を口実に中国のサプライチェーンの競争優位性を崩そうとする意図も見え隠れします。
新疆綿は中国の綿花生産量の8割以上(消費量は約6割)を占めており、主力の輸出部門であるアパレル産業を支えていることから、中国は産業チェーンを守るためにも外国企業に代償を払わせるなど、反撃カードをちらつかせていると思われます。
各方面で予想される影響
第一に、中国経済の早期回復や持続的な市場拡大により、ナイキやアディダスにとって中国の売上は全体の2割強を占めるまでになっています。このように多くの海外ブランドにとって中国市場は稼ぎ頭となっているだけに、 今回の騒動から痛手を受け、当面は防戦を強いられそうです。
一方、「新疆綿」制裁は中国の国産化ブームや国産ブランドの台頭を加速させる契機となり、アンタスポーツやリーニン、ボシデンなどのローカル勢がシェアを奪還するために攻勢を強めていくと考えられます。
第二に、H&Mなどの海外勢は在庫積み上がりで値引きセールを余儀なくされる可能性があります。これは国内の消費喚起に寄与すると同時に、アパレル業界全体の利益率を押下げてしまう恐れもあります。
第三に、次の制裁ターゲットとして、世界に供給される太陽光パネルの7割強を占め、圧倒的な国際競争力をもつ中国の太陽光業界が取り沙汰されています。中国は巨大市場をテコに対抗制裁を外資自動車メーカーなどに拡大させる可能性があります。
「新疆綿」制裁は、半導体に続いてデカップリング(中国との切り離し)の一環として、パンデミック後のサプライチェーン巡る争奪戦の幕開けを示唆する出来事なのかもしれません。
世界経済がコロナ禍から脱しつつある中、サプライチェーンを巡る争奪戦はますます激しくなり、新たなリスクとして浮上しています。米中対立を軸に、グローバル企業はその板挟みで従来以上に増大する経営コストとリスクに直面しそうです。
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