China Market Eye 中国の少子化に歯止めがかからず
2021.05.21 (金)
5月11日、中国国家統計局は第7回国勢調査(10年に一度)の結果を発表しました。
数年以内に人口は頭打ちか
国勢調査によると、中国の人口が昨年で14.12億人と10年前より5.38%増え、年平均増加率は0.53%と過去最低の伸びとなりました。
2020年は新型コロナの影響もあって出生意欲は減退し、中国の出生数は1200万人と3年連続で減少しました。2016年から「二人っ子政策」を実施しているものの、出生数の減少に歯止めがかかっていません。
また、65歳以上の人口が占める比率では13.5%と、先進国の18.3%を大きく下回っているものの、10年前に比べて5.4ポイント上昇し、高齢化社会に突入しようとしています(図1参照)。
さらに図2が示すように、中国の生産年齢人口は2010年をピークに減少に転じ、人口ボーナスから人口オーナスへの転換を鮮明にしています。
今回の国勢調査では、「中国の総人口は2030年に14.5億人となりピークに達する」という、当局の従来予想よりもピークが早まる可能性が示唆されています。中国に成長戦略全般を人口動態の変化に合わせる取り組みの強化を迫られているといえそうです。
人口シフトと人的資本の向上
そのほかにも様々な構造変化が見られます。
まず第1に、中国の都市人口は10年前に比べて2.55億人増と、初めて9億人を突破したのに対し、農村人口は5億人を切りました。つまり生産性が低い第1次産業から、生産性が高い第2次・第3次産業への人口シフトはなお続いています。
近年、中国の都市化比率は64%と急上昇したとはいえ、先進国の80%以上に比べて低水準にとどまっているのが現状です。産業間の人口のシフトは、引続き産業全体の生産性を引き上げ、経済成長に寄与する見通しです(図3参照)。
第2に、大学レベルの教育水準人口が2.18億人と10年前と比べて1.55億人増加し、生産年齢人口が受けた平均教育年数は1.08年増の10.75年となりました。2020年の大学新入生は968万人と、ほぼ10年前の5倍に跳ね上がっています(図4参照)。
中国は人口ボーナスが失われつつある一方で、教育水準の飛躍により労働者の質が高まり、産業の高度化を通して生産性と所得を後押しする「エンジニアボーナス」を享受しています。
第3に、人口の流動化や居住環境の改善などにより、中国の平均世帯人数は10年前の3.1人から2.62人に減少しました。これは引き続き住宅の実需を支え、消費市場にも影響を及ぼしていくと思われます。
第4に、労働市場の自由化や戸籍制度の緩和などを反映して、戸籍登録地から離れている人口は4.93億人と10年前から約90%増加しました。
また、人口はより良い就業機会を求めて、中西部や東北部から沿岸部にシフトする動きが加速しました。その結果、若年層の転出が止まらない東北部の65歳以上の人口比率は軒並み15%を超えた一方で、経済発展が著しく転入超過が続く広東省はその半分程度にとどまるなど、激しい人口シフトは地域間の格差をもたらしています。
「未豊先老」の懸念が高まる
中国では先進国になる前に高齢化が進んでしまう「未豊先老」の懸念が高まっています。
そのような中、当局は、中国の平均年齢は38.8歳と米国とほぼ同じであり、依然として世界最大規模の労働力を抱えているほか、産業の高度化に加えて人的資本の向上や都市化により、引き続き中国の優位性を発揮できるとの見方を示しました。
高齢化社会の到来に備えて、中国は定年の引き上げ(現在は男性60歳、女性50歳)や、より一層、農村部の住民を都市部に移住させる措置によって、都市部の労働力の減少ペースを抑える方針を固めています。
また、生産性の向上に向けて、職業教育の改善や科学研究の強化に加えて、社会保障システムの再構築、デジタル化やAI技術の活用、省力化・自動化への投資強化も新5ヵ年計画(2021~25年)の中核として盛り込まれました。さらに、出生制限措置の全面解禁や、出産奨励なども視野に入れている可能性がありそうです。
こうした措置によって労働生産性を持続的に向上できれば、中国の1人当たりGDPは2030年に中等先進国水準の約3万ドルに達し、「中所得国の罠」を回避することができるとみられます。
資本市場では、中国の人口構造の変化に伴う有力な投資テーマとして、消費の個性化や薬品、ヘルスケア、養老・介護、保険、教育、人材サービス、オートメーション、デジタル化などが注目を集める可能性があります。
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