China Market Eye 脱炭素に向けて大きく動き出す中国
2021.08.02 (月)
6月20日、中国エネルギー局は、政府機関や学校、病院、工場、農村家屋などの屋根に、20~50%の比率で太陽光パネルを設置する実験プログラムを開始すると発表しました。太陽光パネルが同様の比率で全国的に導入されれば、開発可能な設置容量は5000GW(ギガワット)、年間導入量は30GWに上る見通しです。
また、6月29日に世界第2位の水力発電能力(1600万kW(キロワット))を誇る白鶴灘(Bai he tan)水力発電所が稼働を開始しました。そのほか、中国は金融面でも大規模なグリーンファイナンスを推進するとともに、7月16日には全国統一炭素排出権取引市場を立ち上げました。取引規模で世界最大の排出権市場となる見通しです。
これら一連の措置は、中国が昨年9月に宣言した「3060目標」(2030年までに二酸化炭素排出のピークアウト、2060年までにカーボンニュートラルを達成する)に向けた取り組みであると思われます。
中国は世界の「グリーン成長」を牽引
昨年、コロナ禍の煽りを受けて世界の電源開発投資が低迷する中、中国の再生可能エネルギーの新設容量は136GWと2019年の2.2倍に急増し、そのうち太陽光と風力が約9割を占めました(下図参照)。
中国の再生可能エネルギーの設備容量は世界全体の約32%を占め、新エネルギー車の販売台数が同47%を占めるなど、中国は世界の「グリーン成長」を牽引する存在といっても過言ではありません。
中国は再生可能エネルギーの需要だけでなく、供給面においても存在感を高めています。中国企業の太陽電池や風力タービン、EVバッテリーの供給能力は、世界全体の75%、50%、45%以上を占め、自国で完結するサプライチェーンを確立しています。
また、世界の大手会計事務所のPwCは、中国の再生可能エネルギーの投資額は2060年までに風力と太陽光を中心に、直接投資額が122兆元(2100兆円)、関連投資額が410兆元(7000兆円)に達し、向こう40年間にわたってGDPを年平均2%押し上げると予想しています。
政策支援とイノベーションの成長戦略に注力
近年、中国は再生エネルギー分野において積極的な政策支援を行うとともに、より優れた技術を求めて企業同士を競わせる成長戦略も練ってきました。その結果、技術進歩によってコストが低下し、風力と太陽光の発電価格は火力発電価格と同等かそれ以下となるグリッドパリティの局面に突入しています。これにより、長年補助金頼みであった「固定価格買取制度(FIT)」は段階的に撤廃される方向へと転換しました。
中国の太陽電池メーカーは、すでに世界に先駆けて、PERC型太陽電池に置き換わる次世代のHIT(ヘテロ接合型)太陽電池や大型化パネルの産業化に成功しており、一段の技術優位とコストダウンを図ることが期待されます。
また、EVバッテリー大手のBYD(香港:1211)とCATL(当社取扱外)はそれぞれ独自の「Cell To Pack」技術を開発し、リン酸鉄リチウム(LFP)電池の大容量と低コストを実現したことで、EVマーケットの急拡大に弾みをつけました。
中国の新車販売における新エネルギー車の比率は、今年6月に16%とコロナ前の4%から急拡大しました。通年の販売台数は前年比100万台増の240万台に達すると見込まれるなど、EVのテイクオフがますます鮮明化しています(下図参照)。
また、EVバッテリーや太陽電池、風力タービン、変電設備等を含めた中国の再生可能エネルギー関連の輸出額は、今年800億米ドルに迫ると見られ、再生可能エネルギー産業は中国産業構造転換の起爆剤として大きな投資促進効果や雇用拡大をもたらす基幹産業になりつつあります(下図参照)。
政策主導からイノベーション主導の段階へ
株式市場では、EV・EVバッテリー関連や太陽光関連の時価総額は、3年前の4~5倍にあたる約1.5兆米ドルに達するなど、脱炭素関連株はパンデミック後の中国経済を牽引する新たな原動力として注目を浴びています。
このように、中国は今や世界最大の再生可能エネルギー市場であるとともに、技術革新が最も活発的に行われる世界のイノベーションセンターにもなっています。これらのことを踏まえると、中国の再生可能エネルギー産業は補助金に頼る「政策主導」から技術革新が需要を生み出す「イノベーション主導」の段階に移りつつあり、成長加速期に入ったといえるでしょう。
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