コリアインサイト 電気自動車、需要停滞に火災事件まで
2024.09.04 (水)
今年の8月1日、韓国西部に位置する仁川(インチョン)で電気自動車(EV)の火災事件が起きました。火災が起きたマンション地下駐車場内の車体72台が全焼、70台余りが被害を受け、10億円以上の被害が発生しました。幸いにも人的被害はありませんでしたが、マンション5棟(480戸)などの多数の世帯が被害を受ける結果となっています。有毒ガスや粉塵を吸った住民23人が病院に運ばれ、停電も相まって多数の人々が避難所生活を余儀なくされました。
通常、EVの火災が発生するのは充電中という場合が多いですが、今回の事件で発火した車体は外部からの衝撃もなく、2日以上駐車したままの状態でした。まだ正式な原因発表はありませんが、防犯カメラで確認されたところ、火元となったメルセデス・ベンツのEV(EQE)に搭載された孚能科技(ファラシス・エナジー)社製のリチウム電池から発火した可能性が高いと見られています。ファラシス・エナジー社とは中国の会社で、2023年の売上高が世界10位のEV電池メーカーです。
現代自動車(韓国:005380)、起亜自動車(韓国:000270)など韓国の自動車メーカーは、すぐに自社のEV電池は韓国製であることを公表しました。韓国政府もこれまで明示されていなかったEVの電池メーカーを自主的に公開するように指示しました。
社会的にも、韓国での論争は激化しています。EVオーナーに対する差別やいじめ、中古EVの価格暴落、地下駐車場のEV充電器を地上に移転する費用などが問題視されています。
EVのキャズム(一時的な需要停滞)
テスラ(米国:TSLA)が初めてリチウム電池内蔵のEVを発売して以来、コロナ禍の時期から経済危機と産業の転換が進み、EVの販売台数は急増しました。2019年は250万台、2020年は320万台、2023年には1,380万台までのぼりました。
しかし急激な成長を成し遂げたEV市場は、2023年末から需要の停滞が始まったと見られています。EV充電インフラ不足や、ガソリン車よりも高い価格が主要な原因です。そのため、主要な自動車メーカーや電池メーカーは投資計画の延期や撤回を相次いで発表しました。
長期的にはEVの普及が一般化すると見られていますが、急速に増加したEVの需要は現在一時的に落ち込んでおり、溝ができている状態です。この現象を「キャズム(Chasm)」と称します。EVに限らず、新技術を活用した商品はほとんど同じ過程を辿ります。電子書籍や仮想通貨なども同様でした。
ここで問題となるのは第2次電池業界です。韓国の電池企業は2023年世界の市場占有率順にLGエネルギーソリューション(韓国:373220)、サムスンSDI(韓国:006400)、SKオンがあげられます。
LGエネルギーソリューションは名目上の赤字は免れましたが、アメリカのIRA(インフレ抑制法)で提供されるAMPC(先端製造生産税額控除)を除けば赤字状態です。サムスンSDIは他社に比べて良好な状態で、スマホ電池やプレミアム車両用電池の販売で損失を挽回しました。SKオンは3年連続で赤字を記録しており、今年第1四半期には300億円の赤字を出しました。SKグループはSKオンの赤字に対応して、系列会社の売却や投資案件の調整などリバランシングと呼ばれる全面的な改革を進めています。
韓国電池業界はしばらくは曇り
韓国電池業界には今後も多くの難関が存在します。アメリカのトランプ前大統領は、EVを金銭的に支援するIRAの廃止を主張しており、高い支持率を得ています。中国も問題です。中国では不動産市場の不況を乗り越えるために、AI、半導体、EV電池など先端産業を育成していますが、これが供給過剰を招いています。
元々EVキャズムで懸念されて来た第2次電池業界に、今回の火災事件までも重なってしまい、しばらく苦しい時期を送ることになるでしょう。
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