Aizawa Market Report「確トラ」機運の高まりとベトナムへの影響
2024.07.25 (木)
Aizawa Market Report「確トラ」機運の高まりとベトナムへの影響
今年7月、米トランプ前大統領の暗殺未遂とバイデン大統領の選挙撤退、越グエン・フー・チョン書記長の死去といった政治面のビッグニュースが相次ぎ、ベトナム経済と株式市場を取り巻く環境に不透明感が漂った。特に米国ではトランプ氏の大統領再選(確トラ)の機運が高まっており、貿易保護主義で知られる同氏が大統領になれば、バイデン政権下で対米貿易黒字を拡大させてきたベトナムに対して関税等の圧力をかけることが予想される。ベトナムの対外貿易の現状を踏まえて、「確トラ」が同国に与える影響を考えてみたい。
ベトナム税務総局の統計データによると、同国の2023年の輸出総額は3547億米ドル、輸入総額は3264億米ドルとなっており、その中で輸出は米国、輸入は中国が最大の貿易相手国となっている(下図参照)。
前回のトランプ政権時(2017年~2021年)は米中貿易戦争が勃発し、米中両国は相互に関税を大幅引き上げたことで、関税を回避する目的で中国・外資系企業によるベトナム経由の「迂回輸出」が急速に拡大した。実際、2018年頃からベトナムの中国からの輸入総額と米国への輸出総額は連動するように増加し続けており、米中が貿易問題でしのぎを削る中でベトナムが「漁夫の利」を得る形となった(下図参照)。
その後、故グエン・フー・チョン書記長の「竹外交」(竹のようにしなやかに立場の異なる大国と渡り合う外交)に体現されるように、ベトナムは従来の友好国である中国とロシア、インドに加えて、韓国と米国、日本とも包括的戦略的パートナーシップを締結し、独自の外交路線を堅持しつつ様々な国から投資を呼び込むことでサプライチェーンの構築と産業の高度化を進めてきた。
仮にトランプ氏が米大統領に再選された場合、ベトナム経由の「迂回輸出」に対して追加関税をかける可能性や為替操作国に認定する可能性が想定される。しかし、米国の貿易赤字体質が続く限り、ベトナムの対米貿易黒字(昨年は832億米ドル)を糾弾しても迂回輸出国が変わるだけで、政治的なパフォーマンス以外特段メリットがないように思える。また足元米国のインフレ率はようやく沈静化しつつあり、「インフレを終わらせる」と標榜するトランプ氏がインフレ再燃や支持率低下のリスクを冒してまで脅威度の低いベトナムに対して関税を大幅に引き上げるとは考えにくい。「確トラ」シナリオは確かに市場の波乱要因になろうが、全方位外交を展開するベトナムの発展を妨げることはないと考える。
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