Aizawa Market Report ASEANで広がるAI強化、データセンター構築の動き
2024.05.24 (金)
ASEANで広がるAI強化・データセンター構築の動き
2022年11月にオープンAI社の「ChatGPT」が公開されてから、マイクロソフトやアルファベットなど世界中の大手IT企業は挙って生成AIの開発に注力し、次世代イノベーションの命脈を握るこの新技術の経済効果はソフトウェアのみならず半導体や電子部品、電力、建設、不動産など幅広い分野にも波及している。また人工知能(AI)の開発と利用を巡って米国と中国の間で熾烈な競争が繰り広げられ、米国は中国に対して半導体の禁輸を強化するなど米中分断の動きが一層加速した。そうした中、昨年末から今年にかけて欧米IT大手のトップは相次いでASEAN諸国を訪問、現地企業との提携や投資の意向を示しており、今まで人工知能分野で比較的存在感が低かったベトナムやインドネシア、タイ、マレーシアに対する注目度が高まっている。欧米企業がASEAN各国でAI投資を拡大する狙いは何か、各国の近況と合わせて見ていきたい。
ベトナムでは、昨年12月に米エヌビディアのジェンスン・ファンCEOが同国を訪れた際に半導体開発の拠点を設立すると表明した後、今年4月にIT大手のFPT(ベトナム:FPT)と包括的・戦略的協力に関する覚書を締結した。覚書には①人工知能を研究開発するための「AIファクトリー」を建設する、②FPTをエヌビディアのITサービス提供パートナーとする、③人材育成面で協力するなどの内容が含まれており、5月にFPTが高機能AIサーバーである「NVIDIA DGX H100」の輸入を発表するなど計画が着々と進んでいる。エヌビディアはFPT以外にもIT大手のCMC技術グループ(ベトナム:CMG)との提携を発表しており、ベトナムでの事業展開を活発化させている。
エヌビディアと時期を同じくして、米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOも今年4~5月にかけてインドネシアとタイ、マレーシアの3カ国を歴訪し、クラウド・コンピューティングやAIのインフラ構築に向けて現地での投資計画を発表した。このうちインドネシアでは今後4年間に17億ドル、マレーシアでは同22億ドルを投じる計画で、タイでは同社のクラウドサービスである「アジュール」に使用する初のデータセンターを建設する予定だ。また人材育成の面においても、同社は東南アジアの250万人を対象にAIの技能訓練を支援し、現地産業の育成やサイバーセキュリティを強化する意向を示した。
欧米のIT大手がASEAN市場に注目している主な要因として、①スケールメリットを活かしたAI開発ができる、②高等教育を受けた人材が低コストで確保できる、③政策面で優遇を受けられる可能性があるなどが考えられる。近年米中両国がAI開発でしのぎを削る中、その元となるデータは最も重要な資源の一つとして注目されており、欧米のIT大手はASEAN(域内人口は約6.8億人)と接近して開発のスケールメリットを高めることで、世界有数の人口とデータ生成量を誇る中国に対して優位に立つ狙いがあるのではないか。またASEANでは高度教育を受けた人材の給与水準が欧米に比べて格段と安く、技能訓練を実施すればAIの開発やデータセンターの運営・保守に必要な人材を安価かつ大量に確保することが可能だ。そして欧米のIT大手の投資によって自国の経済発展や雇用拡大が促進されるため、ASEAN各国政府は外資に対して土地や電力、税制面の優遇措置を講じて更なる投資誘致を図る可能性もあろう。今のところ、ASEANの株式市場ではAI投資の恩恵がベトナムのFPTやCMC技術グループなど一部の企業にとどまるものの、今後も投資拡大が続くならば電子部品や不動産、電力などの業種にも経済効果が期待できそうだ。
ご留意事項
免責事項
本資料は証券投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終決定は、お客様ご自身による判断でお決めください。本資料は企業取材等に基づき作成していますが、その正確性・完全性を全面的に保証するものではありません。結論は作成時点での執筆者による予測・判断の集約であり、その後の状況変化に応じて予告なく変更することがあります。このレポートの権利は弊社に帰属しており、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようにお願いいたします。