
コリアインサイト 韓国製鉄企業の米国投資戦略:保護貿易主義への対応
2025.02.28 (金)




日本製鉄のUSスチール買収トラブル
2023年12月、日本製鉄はUSスチール(米国:X)を負債含む総額149億ドルで買収すると発表しました。当時、既存株価の約40%を上回る価格で買収するということで、USスチールのCEOと株主は肯定的な反応を示しましたが、全米鉄鋼労働組合と米国の政治家は反対の立場を示しました。
2025年1月、新たに就任したドナルド・トランプ米大統領も、USスチールの売却は不可能だという意を示し、「関税を課せばUSスチールの企業価値が上がる見込みであるが、なぜ売却するのか」と言及しています。
日本製鉄の苦戦は、韓国にとって反面教師です。保護貿易主義に転換している状況の中で、米国が「重要」だと考えている産業を買収することは難易度が非常に高いということです。
ブラウンフィールド投資とグリーンフィールド投資
企業が海外投資を行う方法として、「ブラウンフィールド投資」と「グリーンフィールド投資」の2つがあります。
「ブラウンフィールド投資」は、既存の稼働生産工場の購入やインフラを活用して事業を進出させます。初期投資費用が比較的低く、迅速な稼働が可能というメリットがありますが、M&Aの過程において、規制や文化の違いがあれば進行が難しいというデメリットもあります。
一方で「グリーンフィールド投資」は、企業が自ら敷地を確保して工場事業場を設置する形態です。投資費と時間がかかりますが、投資を受ける側は雇用創出効果が大きく、企業が流動的に投資を調整できるというメリットがあります。
日本製鉄のUSスチールへの投資は、典型的な「ブラウンフィールド投資」と言えます。一般的な状況であれば、成功に終始することができたと思いますが、経済安全保障という概念が強調される最近のビジネス環境では難しいでしょう。
現代製鉄の米国投資
現代製鉄(韓国:004020)はグリーンフィールド投資を計画しています。現代自動車グループの系列会社である現代製鉄は、米国に自動車用鋼板を生産する製鉄所設立を積極的に検討すると2025年1月22日に明らかにしました。2022年に55億ドルを投資して米国ジョージア州に現代自動車EV工場を設立したことの続きです。現代自動車グループのこのような大規模な投資は、トランプ政権の関税政策に対応するためのものといえます。韓国の鉄鋼輸出は関税免除の代わりに過去3年平均の70%を上限とするクォーター制に縛られている状況でしたが、トランプ政権が発表したクォーター制を廃止し25%の関税が適用されると競争力が低下するため、このような決定をしたのでしょう。
具体的な場所、投資額はまだ決まっていませんが、高炉生産方式は炭素排出による負担が大きいため電気炉生産方式を活用する案が有力となっています。
現代製鉄以外にも、韓国1位の製鉄会社であるPOSCOも米国進出についての議論を続けています。具体的な戦略はまだ発表されていませんが、トランプ政権の圧力に対抗し、さまざまな方法を検討していると述べています。
※アイザワ証券ではPOSCOの取扱いはありません。
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