投資のコンシェルジュ 第18回 日米株価&ドル円市場の行方《2023年6月》
2023.06.12 (月)
日米株価&ドル円市場の行方《2023年6月》
〔日本時間:2023年6月1日作成〕
日本時間6月1日午前、5月相場の重石、米国「債務上限問題」について、バイデン大統領と共和党マッカーシー下院議長との間で成立した合意案(財政責任法案、5月28日)を下院が可決(5月31日)。2025年1月1日まで債務上限の適用を停止する一方で、今後2年間の連邦歳出に上限を設ける。同法案は上院へ送られ、米国の同日にも審議が開始される見通し。6月5日とみられる債務不履行までの可決は十分に可能(本稿は前述の状況下からスタートする)。
6月末へ向けた焦点(地政学的な要素を除く)は、6月14日、「金融政策決定会合(FOMC)」に収斂される。勿論、前述「財政責任法案」が速やかに可決され米国デフォルトが回避されることが前提。
6月末へ向けては、日米株価とドル円は
と、本誌・第15回(1月)の図表1「2023年予想 レンジ・高値」とするが、債務上限問題の解決、利上げ打ち止め、インフレ率低下が揃えば上振れが自然。①は2022年3月高値、②は2022年8月高値を意識。③④は2023年を7カ月残し、年初より年内高値の目処としてきた水準へ現値が到達。想定した金融政策と想定以上の企業業績の回復〔第1Q決算の利益はS&P500利益ベースで前年同期比(YOY)-0.1%と発表前の市場予想-3.2%から上方修正〕があり、2023年の高値目処を、③は2022年3月高値14,600p水準へ、④は2024年3月期の予想一株利益2,200円(概算)のPER16倍となる35,200円へ、それぞれ修正、新たなターゲットとしたい。
《6月FOMCでは10会合連続の利上げをスキップする見通し》
「利上げスキップ」は、政策金利を一旦は据え置いて、その後のデータ次第で再び引き上げることを意味。5月31日、FRBのジェファーソン理事は「1回見送ることは可能」と、かなり具体的な表現で利上げ打ち止めを示唆。「インフレ率の水準は高すぎる」とする一方で、4月消費者物価指数(CPI)では、インフレ粘着性が高い住宅などサービス消費が低下傾向をみせ、さらに、SVBショックが引き起こした銀行貸し出し厳格化に「利上げ」的効果があること、等を指摘し、「より多くのデータをみてから」利上げを検討したいと語った。
これは、パウエル議長の5月19日にFRB主催のイベントでの発言「データをみる余裕がある」とその理由に一致。依然、利上げ必至、とする連銀理事等の発言はあるが、6月3日以降のブラックアウト(FOMC終了まで政策関連発言の禁止)期間に入る直前に、同理事に議長が語らせた、と推察。「インフレ率<銀行ショック及び債務上限問題(迷走した場合への配慮)」との判断で、ブラックアウト期間中の市場安定化へ配慮した、とみる。
《経済指標にはインフレ再加速の目はあるが、様子見》
5月26日発表、4月個人消費支出(PCE)価格指数(YOY)は+4.4%と、3月+4.2%から3か月ぶり上昇。一方で、4月米求人件数が1,010万件と3月の974万人から再び大台乗せ。雇用タイト化は当局に賃金インフレを連想させやすく、両指標は「利上げ打ち止め」逆行。
ただ、興味深い調査結果がある。今回の利上げ局面で、パウエル議長が毎会合で指摘する「賃金上昇(→消費拡大→物価上昇)」について、最近のサンフランシスコ(SF)、カンザスシティ(KS)、両連銀の調査で「寄与度はわずか」との結果。SF連銀は「PCEコア価格指数(4月4.7%)への寄与度は約0.1%」、KS連銀は「インフレの主因はコスト高を先取りした企業の値上げによる(コスト高以上の防衛的な)利幅拡大」とする。後者について、実際に、米上場企業の利幅は、2019年までの10年平均で0.4%、対する2021年は3.4%へ急上昇し、PCE価格指数への寄与度は6割相当。米経済政策研究所でも、直近のインフレ要因を、賃金上昇:1割弱、原材料高など:4割弱、企業の利益増が5割超、と報告。
すると、歴史的な低失業率(4月3.4%)、上記の求人件数(求職者の1.79倍)、による堅調な賃金上昇(3月YOY+4.8%)を維持しつつ、生産者(企業)物価上昇率(PPI、コアは4月YOY+3.2%)が低下すれば、失業率を4%以上へ上げなくてもインフレ鎮静化は可能=ノーランディング論が増勢。利上げ打ち止めは正当化されるし、株価には追い風。
議長は過去の発言に対し、仕切り直したい心理が働くことも。いずれにしても、10会合連続利上げ、の打ち止めは明確な政策転換であり、金融市場の明確な転機と心得る。
《 日米当局はドル高容認?の政策的な色彩を強める、ドル円相場 》
ドル円の見通しは、前述⑤の通り、6月末では140円水準、方向性はドル高とみる。先行き、一度は2022年10月21日前後の政府・日銀の円買い介入水準の150円を試し、介入直前のドル買いポジションの損失解消の機会を与えると予想する。
米国4月のCPI(YOY・総合3月+5.0%→4月+4.9%)やPCE価格指数の再上昇(前述)、等のインフレ高止まりをみて、米10年債は5月初旬3.3%から3.8%水準へ、債務上限問題が顕在化した場合のドル需給逼迫懸念もあり、5月26日、ドル円は一時141円台へ上昇。
そこへ、5月30日、財務省、金融庁、日銀は「国際金融資本市場に関する情報交換会」を開催、終了後に神田財務官は「急速な円安は正当化できない」と警戒感を表明。昨年9月、2024年ぶりの円買い介入時と同様の初動(2022年9月8日)に、市場は再介入を警戒しドル高を押し戻す。
ドル円は、2022年10月20日頃の介入以来、再び(日米協調の)政策誘導の色彩を強めた。
【為替市場に関する世界的な政策協調の歴史】
☆1949年ドッジライン:戦後の日本経済安定へ、1$=360円の固定相場が始まる。
☆1971年スミソニアン協定:8月ニクソンショック後の12月、1$=308円へ固定(G10)。
☆1973年ドル円、変動相場制へ移行。
☆1987年(2月)ルーブル合意:上記に続く米ドル切り下げへ、1$=120円水準へ(G7)。
☆1987年(12月)クリスマス合意:ドル円安定化へ協調、1$=120円台で安定推移へ(G7)。
上記の通り、米ドルを基軸とする各国為替レ―トは、歴史的に政策協調の中で推移。変動相場制移行後の1990年代の円高は、対日貿易黒字の是正の思惑。また、米ドルへ自国通貨を一定割合とする「ドルペッグ制」採用国は多い。
勿論、現在のドル円は変動相場制、金融市場で自由な相場が成り立つ。ただ、「口先」「実弾」の介入が現存するのも事実。本稿でもドル円の変動要因の一つにその意図を探る。
今回は、米債務上限問題の最中の急変動抑制の含意。次回の「神田発言」はタイミングに注目したい。日銀の言うドル円の「急速な」の回避へ、さすがに、200MAに沿う動きなら許容範囲と推定。
4月28日、植田新総裁による初会合の「緩和継続」は「ドル高容認」。一方、米国は6月利上げ「スキップ」、7月利上げが予想され、日米金利差拡大=ドル高、が市場の読み筋。200MAに沿う、緩やかなドル高なら容認か。現在、200MAは5月5日以来、1日数銭のペースで上昇、6月1日現在、137.27円で、6月末へ、途中、上振れても140円前後と200MAから若干の上方乖離水準を想定。
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