かぶかはふしぎでうごいてる??? 第10回 高成長銘柄への投資と物色動向
2022.08.16 (火)
高成長が見込まれる企業への投資は株式投資の王道です。成功した時のリターンは大きいですが、しかしながらリスクも応分にあるものです。「かふしぎ」では、書店に並んでいる書籍のキャッチコピーのような「これだけやれば10倍株が見つけられる!」、「誰でもできる高成長銘柄の見つけ方」のような喉から手が出てくるようなことは申しません(申せません)。
高成長企業への投資を行うときに、このような点にも配慮すれば「少しは勝率が高まると思います」的なことを書いたものです。この程度の話ですが、お付き合いいただければ幸いです。
まず、株式市場には物色動向というものがあることを確認します。
少し前の株式市場で話題となったのが「高成長IT銘柄の軟調展開(注)」です。日本株ではエムスリー(製薬会社の営業をオンラインで行う企業)の軟調展開、米国株ではネットフリックス(動画配信プラットフォームの企業)の軟調展開などが代表的事例ですが、その他にも多数の銘柄が存在します。読者の皆様も思いつく銘柄があるのではないでしょうか。
ここで、この事例を先ほどの辞書風解説に当てはめると、
「何らかの切口」→コロナ禍が加速させた世の中のオンライン化
「分類」→オンラインを利用した事業により高成長が期待される企業群
「銘柄群の動き」→軟調展開
と説明できます。
(注)軟調展開:銘柄の動きが悪く、下落している状況のことです。逆に動きが良く、上昇している状況は堅調展開といいます。今回の事例では相場全体も下落していたのですが、それ以上に下落していたので軟調展開と書かせてもらいました。相場関係者は上昇しているときは「棒上げ!」とか「青天井!」などと景気の良いことをいうのですが、下げているときは「軟調展開」とか「調整局面」などと少し印象の弱い言い回しをすることがあります。
長期的に有望な産業なのに
オンライン化は今後も続く世の中のトレンドなのに、なぜ軟調展開になったのかを考えてみます。一般的に言われているのが「コロナ過が加速させた世の中のオンライン化の動きがコロナ禍の影響が鎮静化するにつれて平常の動きに回帰したため、高成長の持続を織り込んで形成された高株価が維持できなくなった」とされています。加えて、業績の勢いが弱まってきた企業が出てきたことが、この動きに輪をかけました。解説としては、まったくその通りなのですが、「かふしぎ」では別の視点から掘り下げてみます。
「コロナ禍による高成長期待が織り込まれてしまった」とは、どのような現象なのかを株式需給の面から考えてみます。「コロナ禍によるオンライン化の進展」は非常に納得感がある話で、実際の企業の中でも高成長を遂げる会社が現れてきたため、株式市場のトレンドとなりました。読者の方が巨大機関投資家の運用担当者だとしたらどのような行動をとるでしょうか。
多分、オンライン関連の銘柄をたくさん購入したでしょう。他の運用担当者も同じことをしていたはずです。その行動(オンライン関連銘柄を保有するために買い注文を出し続ける)が、更にオンライン関連銘柄の株価の騰勢を強める原因(物色動向が形成される)になります。
しかしながら永久に買い続けることは不可能なので、いつかは株価の騰勢が弱まり始めます。保有銘柄の多くがオンライン関連の銘柄となっている状況で、オンライン銘柄のパフォーマンスが低下してきました。これまでの高パフォーマンスが一転してきました。それに輪をかけるように一部の企業では業績がピークアウトしてきたものが現れてきました。さて、ここからどの様な行動をとるかはあえて記載するまでもありませんね。難しいところは、この動きに変化が生じたところがトレンドの転換点なのか、相場のアヤなのかを判断することが難しいところにあります。
オンライン関連銘柄の物色動向は盛り上がりをみせて上昇傾向を辿った後に軟調展開に転じてしまいました。ただ、第7回でアマゾン・ドット・コム株をITバブルの頂点の時期に購入した場合を仮定した話を取り上げました。一時は大きな評価損を抱えることになりましたが、その後も保有し続ければ大きな収益を得られたことを紹介しました。今回、調整しているオンライン関連銘柄の中にも、同じような結果を辿るものがあるかもしれません。
ここで、考えたいことは「高成長が見込まれる○○な銘柄群の株価が上昇している」ことを根拠に銘柄選択をした場合には、物色対象の流れに沿った投資であり、判断の中に株価の動きが含まれていることや、想定している投資期間が曖昧なところです(株価が上昇している間が投資期間?)。
一方、「高成長が見込まれる企業に投資を行う」場合は個別の銘柄選択になります。前述した例が示すように、物色対象として相場で生じている動きを捉えて利益を得ることは難しく、かなりの鍛錬と運が必要です。
高成長産業への投資ポイント
ここでは銘柄選択をするにあたり確認しておきたいことがいくつかあります。
1、当該企業の中で、その高成長産業が事業に占める割合
その高成長産業への参入が成功したとしても、大企業の場合には収益に与える影響が小さい場合があります。1兆円の売上高の企業が想定されるマーケット規模が100憶円の成長産業で成功しても、企業はそれほど変わらないということです。そのため、高成長産業がテーマとして物色されるときには、規模の小さい企業の方が株価の騰勢が強いことがよくありますが、高成長産業の収益インパクトが大きくなることが想定されることも背景です。
2、当該企業が高成長産業で勝てる可能性
高成長産業に参入したい企業はたくさん存在します。その業界には熾烈な競争が発生することがよくあります。当該企業にその産業の中での優位性や参入障壁がどの程度あるのかを吟味することは大切です。考え方のひとつとして、その事業がその企業でないと出来ない部分がどの程度あるかを検討することです。よくあるのが、事業のアイデアは良いのですが、自社で行っている業務範囲が狭く、大半の業務をアウトソースしている企業がたまにあります。アウトソースするのは悪いことではありませんが、参入を狙っている他社から見れば同じ業者にお願いすれば、同じ業務が出来ることになります。これでは参入障壁が低いと判断せざるを得ません。
3、お金がないと事業は拡げられない
高成長産業では投資を行わなければなりません。「工場を建てる」「人を雇う」「世間に認知されるためプロモーションを行う」・・・。これらを行うには資金が必要です。また、お金を使ってから売り上げは発生するものです。成長するための資金繰りが可能であるかを吟味することは大切です。また、成長が一時的な停滞時にも対応できる財務体質が担保されているかも確認したいことです。
4、マーケットの視点から
その高成長産業のテーマがどの程度新鮮なものであるかを検討するのは重要な視点です。真新しい場合には、その関連企業の株式は前述の1~3に関わらず上昇することがあります。しかしながら、次第に吟味され始めてきて銘柄が選別されてきます。その段階になると前述した1~3の差が出てきます。また、株式市場では「理想買い」と「現実買い」の2つの波(テクニカル用語では「波動」といいます)があると考えることがあります。「理想買い」では株価判断における予想の割合が大きく、可能性を重視した株価構成になりがちです。「現実買い」の局面では実際の業績動向が株価判断に占める割合が大きくなります。現在の局面がどちらに位置するのかを考えることもポイントです。
執筆後記
今回の文章の中で誤解されたくないことがあります。長期投資をするために高成長が期待される企業に投資を行うことにケチをつける思いは微塵もありません。ただ、考えてもらいたいのは、①企業の長期的成長と短期的な物色動向は異なること、②長期的なトレンドでも定規を引いたように一直線には継続しないこと、③物色動向を上手くとらえて利益を積みあげるのは難しいこと、などでしょうか。
今回で10回目になりましたが、今のところ打ち切りの話も生じてないので、これに懲りずにまた読んでいただければ励みになります。おおよそ月に一度の発行スケジュールなので、次回もよろしくお願いします。
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