かぶかはふしぎでうごいてる??? 第7回 投資成果と投資戦略
2022.05.23 (月)
同じ10万円の利益が発生した投資であっても、1億円投資した結果10万円の利益が生じた場合と100万円投資した結果10万円の利益が生じた場合では「儲かった感」が異なります。投資額に対する利益額の比率をリターンと呼び、1億円の投資家は0.1%のリターン。100万円の投資家は10%のリターンとなります。リターンは100倍の違いがあります。今回は投資成果を測る尺度としてのリターンに関して、いくつかの話題を提供するところから始めます。
基本となる計算式
(リターン)=(その投資から得られた損益)÷(投資金額)
投資から得られた損益には株式であれば配当金の合計と買値と売値(もしくは現在の価格)の差額があたります。これを投資金額で割り算します。損益にはコストを引くことも忘れないでください。
<例1>1,000円のA株式に100株投資し、5年後1,500円で売却できました。この間に20円の配当金を10回受け取っています。また、株式売買手数料が200円かかっています。
- 配当金収入=(一株当たり配当金)×(保有株数)×(取得回数)
=20円×100株×10回=20,000円 - 売却時実現損益={(売却価格)-(購入価格)}×(保有株数)
=(1,500円-1,000円)×100株=50,000円 - コスト=200円
- 投資から得られた損益=20,000円+50,000円-200円=69,800円
- 投資金額=(購入価格)×(買い付け株数)
=1,000円×100株=100,000円 - リターン=69,800円÷100,000円=0.698=69.8%
リターンを較べてみよう
<例2>2,000円のB株式に200株投資し、3年後3,000円で売却できました。この間に40円の配当金を6回受け取っています。また、株式売買手数料が500円かかっています。
- 配当金収入=40円×200株×6回=48,000円
- 売却時実現益=買値と売値の差額=(3,000円-2,000円)×200株=200,000円
- コスト:500円
- 投資から得られた損益=48,000円+200,000円-500円=247,500円
- 投資金額:2,000円×200株=400,000円
利益額ではB株式の方が多いのですが、リターンについては計算しないと解りません。
- リターン=247,500円÷400,000円=0.619=61.9%
投資成果としてのリターンはA株式の方がB株式よりも高いことが解りました。しかし、ちょっと違和感が残ります。
投資期間も考えてみよう
その違和感は効率に起因します。株式Aは5年間投資して69.8%のリターンを得ました。株式Bは3年間投資して61.8%のリターンを得ました。投資効率は株式Bの方が高そうですね。これを解決するには年率でのリターンを計算します。少し、面倒になるので数字の苦手な方はステップ1から4をスキップしてください。
(ステップ1)
69.8%のパーセントを少数点に戻す。
69.8%→0.698
(ステップ2)
1を加える。
0.698→1.698
(ステップ3)
ルート5を計算する。
1.698^(1/5)
この計算はiPhoneの計算機を立ち上げてスマホを横にします。
関数電卓になるので次のように入力します。
で計算できます。
計算すると1.111699…になるはずです。
(ステップ4)
1を引く。
1.111699…=1.112→0.112=11.2%
株式Aの年率リターンは11.2%、同様の計算をすると株式Bの年率リターンは17.4%になります。細かい話は別にしても5年で69.8%と3年で61.8%では後者の方が効率的には良さそうであることが直感で解るかもしれません。ただし、3年で61.8%のリターンが出た株式Bの後に、2年間継続投資した結果がプラスになる保証はありません。単なる、比較するためのテクニックです。
その投資の目的は
日本株が下落を続けていた頃に次のような話をする人がいました。
「どれだけ株価が下落して損失を被っても毎月投資金額を倍にして投資を続ければ、いつかは利益になります」
世間話ネタの一つとして「あー、そんな金持ちになりたいよね。チャンチャン」ならいいのですが、ここではこの話に真摯に取り組んでみましょう。
話の通りに利益が出たとします。しかし、毎月果てしなく投資金額を倍にできることは、その投資家の資金が無限にあることを意味します。(利益)÷(無限)=0ですね。無限にお金がある人はどれだけ利益が出てもリターンはありません。ただ、どれだけ損をしてもマイナスリターンにもなりません。もっとも、無限にお金がある人は投資をする必要がないですね。
ここで考えたいことは、その投資の目的は投資金額を増やすことなのか、保有資産全体を増やすことなのかを考えて、投資に振り分ける金額を考えることが必要ということです。そこには、投資対象のリスクを検討することも重要です。そして、そのリスクを適当なものにするために分散投資は大切なツールとなります。
投資用語解説 第4回 「長期投資」
「年7%のリターンが毎年発生した場合、複利効果で資産は約2倍になります」のような説明がありますが、リターンはプラスとは限りません。「年マイナス7%のリターンが毎年発生した場合、複利効果で資産は約半分になります」としたらどう感じるでしょう。
最初の例はリスクが非常に低い確定したプラスリターンが得られる場合の議論であり、ほぼ無リスクの資産である国債に投資した場合には、架空の固定10年国債・利率1.0%とし、利子を再投資する複利運用で考えてもリターンは10%強です。実際の日本の国債はこれほど利率が高くないので数%前半にもなりません。このことも、投資の必要性が求められる一因ではなかったのでしょうか。
視点を変えてみて、年1桁後半の利益成長の継続が望めそうな企業に投資すれば、10年間で利益水準が約2倍になるので、株価も約2倍になる可能性があるとした議論の方に納得感があるような気がするのは筆者だけでしょうか。
また、同じ数値レベルであるのに、プラス7%の場合は100が200になり100の儲け。マイナス7%の場合は100が50になり50の損。プラス7%の方が有利な感じがします。この話を拡張させたことを次に記載します。
普通の資産であれば1年間で動くリターンの幅は数十%以内です。長く保有すればリターンの幅が大きくなってゆくことは想像できると思います。何十年も保有すれば100%を越えてくる可能性も高まります。逆に、すごく大きなマイナスになる可能性も高まります。
着目したいことは、プラス方向のリターンに限界はありません。何十倍になる可能性があります。マイナス方向の最大値は投資先企業が投資した場合でマイナス100%です。例として今世紀の大化け株の一つであるアマゾン・ドット・コム株の動きを振り返って見ます。
※単年はその年のリターン。2000年のリターンは2000年末の株価を1999年末の株価で除したもの。累積は該当年の年末株価を1999年末の株価で割ったもので、1999年末から保有し続けた時の該当年末までのリターン。
ITバブルのほぼ頂点である1999年末に買い付けた前提ですが、100の投資が2,809になります。同時に100ずつ10銘柄買い付けて1,000の投資をした中にアマゾン・ドット・コム株が含まれていたならば、他の9銘柄が全部倒産(マイナス100%)しても、1,000の投資資金は2,809になっています。これは、181%のリターンで年率に換算すると約5%になります(23年間保有していたとして計算)。
極端すぎる例ですが、長期保有によるリターンの高まりと、プラスリターンには上限がないが、マイナスリターンは最大でもマイナス100%であることのイメージをもってもらおうとしました。わざと難しく言えば、プラスとマイナスのリターンが非対称であるメリットを生かそうとした投資戦略です。ただ、この極端な例でも分散投資をしていることに注目してください。分散投資をしていなければ、アマゾン・ドット・コム株に当たったかもしれませんが、倒産したほうの銘柄に当たったかもしれません。これでは、投資戦略とは言えませんね。
執筆後記
前回から冒頭の看板が変わったことに気が付かれた方はいらっしゃるでしょうか。以前は「StockPrice in Wonderland」としていたのを、副題であった「かぶかはふしぎでうごいてる」を主題に変更しました。これもテコ入れの一環です。常に改善を目指している「かふしぎ」をよろしくお願いします(「株式」=「かぶしき」をかけた略称のつもりなのですが)。看板は変わりましたが、目指しているところに変化はありません。株価にまつわる諸処の話題を提供することで、動きが不思議だと思われる株価が、実は理論を背景としていることを知ってもらおうとしているものです。
今回は少しマニアックな世界に入り込んだかもしれません。また、わざと仰々しいタイトルをつけてみました。「かふしぎ」は世の中にあふれかえっているコンテンツとの差別化を目指しています。その思いがすこし暴走したかもしれません。ただ、投資の目標を定めること、その成果を考えること、それを実現させるための戦略を考えること。これは大切なことだと思います。次は、やわらかいネタを取り上げようと考えているので、これに懲りずにまた読んでいただければ励みになります。おおよそ月に一度の発行スケジュールなので、次回もよろしくお願いします。
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