かぶかはふしぎでうごいてる??? 第6回 企業について考える 続々編「安定性」
2022.04.18 (月)
第4回、第5回では企業を評価する視点の代表的なものとして「成長性」「収益性」について説明しました。今回は企業について考える編の「安定性」について記載します。
財務的な安定性
企業の存続にかかわる視点です。安全性分析と呼ばれることのほうが多いかもしれません。言い換えると企業の財務体質の強固さが問われています。感覚的にも借金の多い会社と少ない会社では、後者の方が安全なことは解ります。また、長い間低金利が続いているわが国ではあまり意識されませんが、借金には金利がかかります。あまり借金が多いと金利払いで利益が削られてしまいます。この安全性を確認する代表的な指標としては次のようなものがあります。
自己資本比率(%)=(自己資本)÷(総資産)×100
企業が開示する決算短信や有価証券報告書に載っている財務諸表から数値を調べても良いのですが、短信の表紙には自己資本比率が掲載されています。ただ、企業によって「親会社株主持分比率」や「当社株主帰属持ち分比率」などと記載されている場合もあり、戸惑うこともあるかと思います。四季報に記載されている自己資本比率を参考にする方が簡単です。一般的には50%以上が望ましいといわれます。
また、流動比率も良く使われます。財務の用語で「流動」は1年以内を指します。流動資産は一年以内に受取が可能な資産、流動負債は一年以内に支払いの必要がある負債を指します。これは短信の表紙には記載されていないため、連結貸借対照表から項目を抜き出して自分で計算をしなければなりません。会社によっては数値データをまとめた資料をFACTBOOKやDATABOOKなどの名称で開示しています。会社のHPにアップロードされているため、これを利用すると扱いやすいです。
流動比率(%)=(流動資産)÷(流動負債)×100
一般的には100%以上が必須、120%以上が望まれるといわれます。その他にもいろいろあるのですが、基本的な考え方はどれぐらい借金に依存して会社を経営しているのかという視点です。一般的な家計の考え方でみれば借金はない方が望ましいと考えますが、株価分析における評価の場合は少し異なります。企業経営はリスクをとって利益を得るものだからです。そのリスクの一つとして借金による経営規模の拡大を狙っているからです。そのため、前述した指標が極めて良好であれば「万が一」には備えられますが、「チャンス」を逃しているかもしれないのです。ここは、企業がどのように考えてビジネスを拡大しようとしているのか。そして、財務的な経営方針はどうなのかを知ることは企業への理解を深めます。
収益の安定性
一般的な財務分析入門的なものではこれを取り扱うことは無いと思いますが、筆者的には重要だと感じていることなので、敢えて取り上げさせていただきました。一言でいえば、どの程度利益が安定しているかに視点をあてています。これについては、財務的な安定性のところで触れたような計算式で算出するような指標はありません。
①過去の損益計算書を見て、利益がどの程度変動しているかを確認する
過去数十年にわたり大勢的には利益が増加傾向にあり、一時的に不振な時にも赤字になったことがない企業。過去数十年の累積利益は巨大な結果を残しており会社も大きくなっている企業だが、何度か巨額赤字を出したことのある企業。この二社を比較すると、前者はそれなりの財務体質があれば安全であると推測できます。一方、後者の企業は一般的な企業よりも財務体質が堅固であることが望まれることは自明だと思われます。会計の教科書には損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書の財務3表をタテヨコ斜めに見て・考えて、つながりを理解せよ。そのようなことが書かれていることも多いですが、その入り口の一例として、損益計算書と貸借対照表のつながりについて記載しました。
②事業の内容を調べ、利益がどの程度変動するビジネスなのかを検討する
過去の実績から推測する方法に加えて、ビジネスモデルから推測することも必要です。企業は不連続に変化することもあり、過去の実績が将来の実績になるとは限らないからです。例えば、複数事業を行っている企業で成長著しい分野の事業がある企業、新規事業に進出する企業、大型M&Aをして業態が変化する企業などは特にその傾向が強くなります。この場合は事業の特性を見て、推測する必要があります。
変化の主となる事業が成功するか否かが最も大切なことなのですが、その事業が資金を必要とする事業なのか、利益の出方はどうなのか、などを推測する必要があります。そして、それに耐えうる財務体質なのかを判断することは重要です。
③投資指標との関連性
収益の安定性が高いことは投資指標的な評価が高まります。これは第3回でご説明させていただいたことです。繰り返しますと、現在は同じ一株利益100円の会社でも、安定的に利益が増加してきた結果100円の一株利益となった企業と、利益の増減が激しく赤字となったこともあるが現在は100円の一株利益となった企業。どちらが高い株価が付きやすいかは感覚的にも解りますね。そのような話を記載させていただいています。
安定性を評価するポイント
①ROEの水準
(前回ご説明した件の続きです)
財務体質を堅固にするため借金返済を続け、自己資本比率が非常に高くなった企業。財務的な安全性は高いのですが、株式市場では必ずしも高評価を得られるとは限りません。”ROE=利益÷自己資本”なので自己資本が大きい(自己資本比率が高い)企業はROEが低くなりがちです。収益性と安全性は相反する所があります。適正な安定性とROEを両立させられる財務体質を構築されているかをチェックすることは企業分析の重要なポイントです。
②経営の自由度
変化の激しい業界でビジネスを行っている企業は新ビジネスに資金を投入する必要が出てきます。新しい商品を作るために工場・設備に投資を行う資金が必要になることもあります。時間を買うためにM&Aの資金が必要になることもあります。素早く意思決定するため、無理なく投資をするためには一定の財務体質を保っていることが経営の自由度を高めます。また、繰り返しになりますがビジネスリスクをとった結果がビジネスの成功であるならば、リスクを取ることの出来るバックボーンとしての財務健全性は意思決定の自由度を高めます。
③企業によって評価が異なる
マーケットが成長しており設備投資が継続的に必要な企業と、安定したマーケットを対象としており大きな設備投資の必要がない企業では必要とされる財務安定性は異なります。受注してから代金の受け取りまでの期間が長い企業と、日々販売代金が受け入れられる企業でも必要とされる財務安定性は異なります。このように企業のビジネス形態に合致した財務体質は異なります。評価についても、企業の属性を勘案しながら行うと企業への理解が高まります。
投資用語解説 第3回 「炭鉱のカナリア」
株式市場には様々な投資用語があります。「炭鉱のカナリア」もその一つです。炭鉱で有毒ガスが発生した時に人間よりもカナリアが先にガスを察知して鳴き声がやむことから、ガス探知機がない時代には炭鉱労働者がカナリアを連れて行動に入ったという、逸話から生まれた用語です。マーケットの変調を占う「なにか」のことを指します。よく使われる例としては、債券市場におけるハイイールド債や新興国債券、株式市場における小型株やVIX指数、マーケット全体としては金価格や銅価格、新興国通貨などが有名なところです。
今回の株価調整ではウクライナ情勢が嫌気されました。ここでのカナリアとして考えられるのが、
(1) ロシア産原油受け入れ縮小に伴う原油高がインフレを助長させることが嫌気されているため原油価格の動向としてのWTI原油先物価格
(2)経済制裁により厳しい状況に追い込まれているロシアの状況を占うため、為替のロシアルーブルの動き。などが考えられます。
このグラフをみるとドル/ルーブル安が反発に転じ、WTI原油先物価格が下落したところでカナリアがサインを出し、その後SP500が反発に転じているので、「さすがのカナリア!」としたい所ですが、これは結果論です。
ドル/ルーブルが反発した所でのグラフを見ると、この状況で「さすがのカナリア!」と判断し、SP500(株式)を買いと判断できるでしょうか???
どちらかと言えば、ドル/ルーブルが反発、WTI原油先物価格が下落、SP500が上昇となった所で、下げ相場が落ち着いたと判断する方が現実的ではないでしょうか。
一つの指標だけをみて判断することは、投資対象としている資産の値動きだけをみて判断していることと大差ないと考えています。たとえそれが、カナリアであっても。
執筆後記
第6回目も企業評価の続編を記載しました。初めは1回で終わらせるつもりだったのですが、「あれもこれも」と書いているうちに3回にわたって掲載することになりました。第3回では投資指標について、第4~6回で企業評価について触れました。ここまでで、株価を構成する重要点の2つを紹介させていただきました。少しは株価の不思議さが薄れたでしょうか?
初期のころと比較して少し文章が固くなったような気がしています。詳しく書いてゆくと一冊の本になるような分量の題材を取り上げたので、筆者の方も力が入りすぎたのかもしれません。間違いがあると失礼なので、チェックしながら記載したことも理由かもしれません。もう少し読みやすいよう、ウイットやユーモアのある文章になるよう工夫しますので、これに懲りずにまた読んでいただければ励みになります。おおよそ月に一度の発行スケジュールなので、次回もよろしくお願いします。
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