かぶかはふしぎでうごいてる??? 第16回 高配当利回り銘柄もいろいろ
2023.03.24 (金)
久しぶりに時事ネタを取り上げてみます。マーケットで注目が続いているバリュー株の堅調。その中でも、人気の高い高配当利回り銘柄について、「かふしぎ風」の検討を行ってみます。文章内には一般的に語られていることと異なるような解説があるかもしれません。そこは読者の皆様の判断で、どちらが正しいのか検討してください。
1、その銘柄はいつまでも高利回りなのか
株価が1,000円で配当が50円あり、配当利回りが5%となる銘柄を考えてみます。この銘柄に対して毎年10%上昇することを仮定したならば、次のような現象が生じます。
配当の成長がなければ、ある時期から高配当銘柄でなくなってしまいます。それまで高配当を評価して上昇してきた銘柄は、その根拠を失う時期が到来してしまいます。
次は、株価については同じ条件で、配当も毎年10%増加(通常は例のような配当の増え方はしませんが、仮定なので勘弁してください)するとした場合には次のような現象が生じます。
この場合には、常に5%の高配当利回りなので株価が上昇する根拠が継続します。
2、配当性向が永久に上昇することはない
配当が増加するためには、その原資である利益が増加することが必要です。ただ、利益が増加しなくても配当が増加するケースもあります。(配当)/(利益)のことを配当性向と言いますが、これが上昇すれば利益成長が無くても配当は増加します。
同じような条件で利益が120円で利益成長がない企業を例としてみます。
この例ならば期待通りに株価の10%成長が期待できそうですが、配当性向に注目してください。10年後は配当性向が100%を超えてしまいます。内部留保を取り崩すことで配当を支払うことは可能ですが、企業は細っていきます。このシナリオは達成確率が低そうです。
やはり、利益の成長に応じて配当も増加するような銘柄を見つけ、かつ、現状も高配当である銘柄を選択する方がよさそうですが、発掘するのは大変そうです。
3、リスクもなく高いリターンを得られることはない
まず国債を題材にして考えてみましょう。非常に利回りが高い国の国債Aと低い国の国債Bの違いはどこにあるのでしょうか。
国債Aの場合には①~③のどれかが当てはまることが多いです。とは言っても、国債のデフォルト(①、②が生じること)が生じることは頻繁に起こることではありませんが、ここは確率論になります。しかしながら、カントリーリスクの高い国の通貨価値が下落することは頻繁にあり、③によってリスクが顕在化することは結構あります。
非常に高い国債利回りは、その国のカントリーリスクの代償としてのリターンであると考えることが可能です。
株式に話を戻しましょう。高い利回りの企業についてもリスクがないか検討する必要があります。優良企業の社債が3%の利回りで、凡庸な企業の社債も3%であれば、後者の企業の社債を買う人はいないと思います。どれぐらいの差があるかという問題はありますが
(優良企業の社債利回り)<(凡庸な企業の社債利回り)
は成り立つはずです。
株式についても同じです、配当利回りに着目して投資をするなら、会社の差を検討すべきであると考えます。
会社の差とは、成長性・安定性・効率性などの基本的な所に起因します。よい会社は利益が増える可能性が高く、配当も増える可能性が高い。[表-2]で考えたストーリーが描けるような銘柄だと評価できます。
一方、凡庸な企業の場合には、利益急減による減配などのリスクがあり、この場合はそのリスクも含めた利回り水準でないと投資するのは困難です。
4、市場金利との関係
株式を利回り面で着目した場合には、市場金利との比較が生じます。日本では長年の間金利がほとんど無い状況だったので、ピンときませんが、ほぼ無リスクに近い国債の金利が3%の時に配当利回り3%の銘柄に魅力を感じるでしょうか。
この考え方は大切で、国債の金利が変動すると株式の配当利回りの相対的魅力度が変化してきます。もちろん、投資家の投資目的によって、投資判断は変わります。ただ、高配当利回り株の投資判断要因として、市場金利の水準と方向性に注意を払えば、投資判断に厚みが出てきます。
5、配当利回り株のリターンをトータルリターンで考える
高配当利回り株は配当収入が大きいので、株価変動による収入と合算して考えた方が正確です。
極論をいえば、[表-1]のケースで10年間投資した場合は、配当収入で50円×10回で500円の配当収入があります。これは、1,000円の株がもし半分になっても損失とならない効果があります。高配当利回り銘柄の魅力はこのような所にもあります。
6、割安株物色と高配当利回り株
一般的に配当利回りが高くなる銘柄は株価水準が低いケースが多いです。そのため、俗にいう割安株投資の中に含まれます。
長期的な観点では配当による利益が積み増されてゆく高配当利回り銘柄独自の魅力があるのですが、短期的には割安株物色が生じている局面で買われることが多い銘柄群です。
割安株物色が活況になっている局面では株価上昇により配当利回りが以前より低下しています。現在の物色動向に合致した銘柄として投資するのか、配当収入も含めた利益を目的に投資するのか。ここを整理してから投資判断を行うことを提案します。
高配当利回り銘柄への投資においても「株式投資の投資戦略」「投資期間」「投資目標」などを整理してから、判断されると投資の厚みが増してきます。
執筆後記
日本企業の株主還元は向上してきました。配当についても増加傾向になっており、配当利回りがマーケットの注目を集めることも多くなっています。
以前の代表的高配当銘柄は電力株でした。[表-1]で取り上げたような安定配当企業の典型でした。もっとも、株価はそれほど上昇しなかったのですが。しかし今では、その面影はなくなりつつあります。
配当貴族銘柄群という観点もあります。毎回増配する銘柄のパフォーマンスは優れているとの検証結果もあり、このような銘柄群を扱った商品や株価指数なども現れました。[表-2]で取り上げたようなイメージの銘柄です。
内部留保が厚い企業の中には配当性向を引き上げて株主還元を積極化する企業も現れています。[表-3]で取り上げたようなイメージの銘柄です。
一口に高配当利回りといっても、その内容・背景は様々です。高配当を出せる背景、会社の配当方針などを検討して、ご自分の投資方針にあった銘柄を選択していただければと思います。
次回も、今回に懲りずにまた読んでいただければ励みになります。おおよそ月に一度の発行スケジュールなので、よろしくお願いします。
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