亜州潮流 インドネシア再訪 ~鉄道と不動産開発~
2024.07.22 (月)
インドネシア再訪 ~鉄道と不動産開発~
快適な高速鉄道
今回のインドネシア訪問では、新幹線より最高時速が速いと話題の高速鉄道Whooshにも乗車した。Whoosh(ウーシュは、23年10月に完成したジャカルターバンドン間143㎞をつなぐ東南アジア初となる
高速鉄道だ。建設に当たり、新幹線の輸出を目指す日本と「一帯一路」政策を掲げる中国の間で激しい受注合戦が繰り広げられたが、中国案は2019年と完成時期が早く、予算の見積もり額が55億ドルと控え目で、公費負担・政府保証を求めない条件で中国が受注した顛末が知られている。実際に乗車した感想は、エコノミークラス25万ルピア約2500円)の料金で東ジャカルタ市のハリム駅からバンドン郊外まで約45分間、最高時速は350㎞の快適な列車移動であった。もっとも新幹線の快適さに慣れた日本人としては、やや狭い座席や使いにくいヒジ掛け、駅の立地が中心部から遠く別の交通機関を乗り換える必要があるなど不満点は残る。しかし高速鉄道という選択肢が今まで無かったインドネシア人からは概ね好意的な評価を得ていた。むしろ課題は、平日昼間の低い乗車率や膨らんだ建設費の回収、スラバヤまで延伸する費用や工期などにあることが予想される。実際、ジャカルターバンドン間の工期は当初の19年から23年10月まで完成が遅れ、建設費用も最終的に72億ドル超に膨らみ、政府保証も要求されており中国案は実質的に反故にされた格好となる。
政策に翻弄された華僑財閥
さてWhooshに乗車時の車窓から、ホンダなど日系企業が入居する工業団地や、建設途上の大型高層マンションを多く見かける。そのひとつがインドネシア華僑の雄、リッポー(力宝)財閥の不動産部門リッポー・カラワチが手掛けた開発プロジェクトMEIKARTA(メイカルタ)だ。今回の出張時に現地ではメイカルタを巡りリッポー財閥は苦境にあると聞き及んだ。高速鉄道Whooshの誘致・建設にあたり、華僑のリッポー財閥は両国間の橋渡し役として活躍し、リッポー・カラワチは中国の国営企業など2社の出資約束を取り付け、高速鉄道沿線のメイカルタ開発用地取得を進め物件の予約販売(未完成物件の予約売買)を始めた。傘下のメディアや関連銀行などを通じて、記録的な申し込み者数を集めたまでは良かった。しかしその後、中国政府は不動産投資の抑制政策へと転換し、中国企業の出資は反故となり、さらに地元政府からの開発許可を巡る不正が発覚、政治家の汚職スキャンダルに発展した。こうした経緯で工事中断に追い込まれたメイカルタは、リッポー・カラワチから別のグループ会社へ譲渡して切り離し、病院部門を主力とする企業として辛うじて上場を維持している。また資金繰りの悪化したリッポー財閥は、他の多くの不動産開発プロジェクトが工事中断に追い込まれているとの内容だった。今回の出張では、政府主導の大規模な不動産開発の工事現場と、リッポー財閥に限らず長期間開発が中断されている物件を多数見る機会があり、政治に翻弄される不動産の投資リスクを垣間見た思いがする。
※写真はすべて筆者撮影
※「亜州潮流」は、アジア新興国のトレンドを解説したコラムです。投資の推奨を目的としたものではありません。
ご留意事項
免責事項
本資料は証券投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終決定は、お客様ご自身による判断でお決めください。本資料は企業取材等に基づき作成していますが、その正確性・完全性を全面的に保証するものではありません。結論は作成時点での執筆者による予測・判断の集約であり、その後の状況変化に応じて予告なく変更することがあります。このレポートの権利は弊社に帰属しており、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようにお願いいたします。