投資のコンシェルジュ 第15回 2023年の日米株式市場とドル円の行方(後編)
2023.01.18 (水)
前編はこちらから、ご覧ください。
2023年、後半は「業績相場」的な展開、「卯、跳ねる」を想定
2023年、前半は米金融政策を探りながらの「金融相場」が、後半は企業業績への回復期待からの「業績相場」的色彩による上昇に期待。年間を通しての着実な上昇を想定する。
図表4で米主要企業500社(S&P500採用企業)の最終利益の動向をみると、2023年1月に始まる2022年第4四半期は減益、2023年第1四半期及び第2四半期は低調な伸びで、やはり「金融相場」頼み。一方で、7月以降の第2四半期決算では伸び率回復が期待される第3四半期決算予想が同時に発表され、年末へ向けて「業績相場」が始まる可能性。市場は年後半に2回の利下げを予想しており、実現すれば「業績+金融相場」となり、「卯、跳ねる」の年末大幅高も視野に入る。
2022年、「逆金融相場」で株価を大きく下げた半導体やソフトウェア・IT関連などグロース株の再浮上が上昇を牽引する、2021年同様の相場展開を予想。グロース株の一角は既に下値切り上げをみせており、年前半の投資が有効とみる。
2023年、市場の疑心暗鬼が払拭され、PER水準が切り上がる展開を予想
図表5でS&P500の1株当たり利益(1株利益)の推移(実績・予想)をみると、2024年まで最高益を更新して着実に伸長する見通し。2022年もプラス成長の見通しだが、なぜ大幅な下落にみまわれたのか。
一因は高速利上げで国債など市場金利が大幅上昇し、市場が期待する株式の益利回り(1株利益÷株価×100)が上昇、双方をバランスする株価下落が発生したと考えられる。
- 株式・益利回りの上昇
① 「1株利益:50円」÷「株価:1,000円」×100=「益利回り:5.00%」
② 「1株利益:50円」÷「株価: 800円」×100=「益利回り:6.25%」
1株利益は直ぐに変動しない為、株価が下げて益利回りが上昇、市場金利の上昇とのバランスが行われたとみる。同時に、前編でも論じた益利回りの逆数であるPER(株価÷1株利益)の低下が発生することになる。
- 株式・PERの低下(※上と同条件)
①´「株価1,000円」÷「1株利益:50円」=「PER:20倍」
②´「株価 800円」÷「1株利益:50円」=「PER:16倍」
結論として、「高速利上げによる市場金利の急上昇」が「市場が株式に求める益利回りの期待値が急上昇」して「株式のPER水準を押し下げた」ことが2022年の株価大幅安の大きな要因。
さらに、FRBは2022年5月利上げ時に示唆した6月、7月のFOMC利上げ幅0.50%を、前置きなく6月に上げ幅を突如0.75%へ変更。市場は当局の政策に疑心暗鬼となり、「金利上昇の目処が立たない=株式の益利回り期待値が定まらない」ことが、当局者発言に一喜一憂する、一時は底の見えない株式市場になったと思料する。
2023年、「利上げ打ち止め」となれば、市場の疑心暗鬼は払拭、益利回り・PERの目線が定まり、VIXなど市場変動率は一段と低下し、市場安定が期待できる。また、米国10年債など市場金利(利回り)の上値目処が立てば、先々の利益成長を織り込みPER水準は上昇し易い。2021年、金融緩和政策の中でPERは平均23倍水準。2022年、利上げ開始以降(4~12月)は18倍水準へ低下した(Quickによる)。2023年は市場安定化で20倍水準への上昇が可能とみる(S&P500は、2023年末1株利益226.17ドル×PER20倍=4,523.4ポイント)。
2023年、ドル円は日銀政策次第、レンジ内の動きを想定
2023年のドル円は、日銀の政策次第であることは明白。一方で、日銀が主要15通貨に対して算出する図表6の実質実効為替レートでみる「円の実力」低下の基調に変化はなく、引き続き円安バイアスを意識。これ以上の政策介入がないことを前提に、足元の円高へのオーバーシュートが短期収束、140円±10円から年末は140円±5円のレンジ内への終始を予想(レンジ上抜けはあり得る)。
2022年3月米利上げ開始で対円でのドル高は急激に進行。10月20日には150円台に乗せて1990年8月以来32年ぶりの円安水準へ到達、200円を目指すかに思えたが、翌21日、日銀は9月21日(145円水準、2.8兆円規模)に続く2度目の円買いドル売り介入(高値151円水準、6.4兆円規模)を実施し、以降の円安に歯止め。
その後、米インフレ関連指標が低下、12月米利上げ幅縮小(14日)などからドル円は130円台前半への軟調地合い。そこへ、12月20日、日銀は政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブコントロール=YCC)における長期金利(10年債利回り)の変動幅を±0.25から±0.50%へ拡大する実質的な利上げを発表。市場が予想だにしなかった日銀の利上げは、円キャリートレードの巻き戻しを連想させ、発表直前の同日高値137.47円から安値130.58円へ幅-6.89円、率-5.0%のドル急落で反応。市場では日銀の緩和策が2023年にも縮小されるとの見方が燻り、足元でも130円台前半で推移し警戒を緩めない。
為替介入、YCC変更と一連の円高政策の想定レンジはどの水準か、次回の日銀政策決定会合(18日結果発表)後の黒田総裁の記者会見などを手掛かりとしたい。一方で、これまでの当局者の発言にある「急激な」為替変動の阻止は、円安だけでなく円高にも言えるはずで、慎重な政策運営への回帰を想定。
図表6では、円の実力は既に1ドル=240円水準の1980年頃を大きく下回り、ほぼ1ドル=360円水準と同等であることを示す。対15通貨で対ドルだけの数値ではないが、未だ米利上げは続き、日本の貿易赤字が歴史的高水準という2022年ドル高局面からの状況に変わりなく、円高よりドル高バイアスの方が強いとみている。
2023年、投資戦略を工夫する
日米株式市場は、2020年、コロナショックを契機とし2021年まで続いたグロース株相場、2022年、逆金融相場で一転したグロース株の劣後、浮上したバリュー及びハイ・クオリティ(ブランド力と高利益率を兼ね備えた銘柄)株が優位の展開に。
それら経験を踏まえ、続く2023年、市場再生が期待される中で追加してご提案したい投資戦略があり、今後、本稿で紹介していく。
- 日米の金融市場とも、株式・REIT等の配当・国債・社債等の金利(インカム)に軸を置いた投資戦略。
- 米国株への投資について、「大型株」に加えて、海外情勢の影響が相対的に小さく、景気回復期に大きな利益成長が期待できる「中小型株」への分散投資。
- 対米ドルで強含む「スイスフラン」を通じたグローバル・リーダー企業への分散投資。
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