投資のコンシェルジュ 第10回 世界は気候変動抑制とインフレ・地政学的リスクの低減へ、脱炭素を急ぐ(前編)
2022.08.19 (金)
米「インフレ抑制法案」は号砲か、脱炭素ビジネスの加速を検証する
本稿、第5回(2022年3月)では、「世界は気候変動だけでなく、インフレ、地政学的リスクの低減へ、脱炭素を急ぐのか?」についてご報告させて頂きました。
8月15日現在、ロシア進軍は続き、一方で、4月「国連人権理事会」のロシア除外決議では世界の分断の構図が顕在化。資源・食料の価格上昇に起因する欧米の急性インフレは沈静化の兆しから株式市場は落ち着きをみせ始めていますが、地政学的リスクは高まり、「脱炭素」=「脱ロシア」は民主主義陣営中心に政策前倒し、対策費積み増しという形で加速。
今回、第10回では、第5回の復習と4月以降の「脱炭素」へ向けた各国の政策や関連銘柄の動向などを続編としてご報告します。
なぜ、「脱炭素」が世界で叫ばれるのか(第5回・要約)
18世紀の「産業革命」を起点に始まった「化石燃料」の活用が19世紀に本格化。その燃焼で発生する温室効果ガス「二酸化炭素(CO₂)」により、2020年、世界の平均気温は、産業革命当時より約1.1℃、人為的に上昇したとされます。これを「地球温暖化」と呼びます。
そして、「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」において、最近10年毎の調べで加速度的な「温暖化」が報告されています。
〔解説:温室効果ガスとは?〕
・人為的な温室効果ガスには、二酸化炭素(CO₂)、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなどがあります。
・CO₂は温暖化への影響が最も大きな温室効果ガス。石炭や石油の消費、セメントの生産等で大量のCO₂が大気中に放出されます。
・大気中のCO₂の吸収源である森林が減少し、大気中のCO₂は年々増加しています。
・メタンはCO₂に次ぎ地球温暖化に及ぼす影響が大きな温室効果ガスで、湿地や池、水田で枯れた植物が分解する際に発生。天然ガスを採掘時にも発生。
歴史上、先にCO₂を排出して高度成長を遂げた米国、日本など先進(工業)国と1990年以降には中国、インドなど新興国の人口増と工業化が加わり、CO₂濃度は一段と上昇(1750年頃比+40%)しています。
温暖化は、海水温を上昇させ、沿岸部での豪雨、さらに大陸内陸部での干ばつ(砂漠化)、生態系の破壊、など、様々な現象を引き起こします。また、氷河融解や海水の膨張による海水面の上昇(約100年で19cm上昇)により、既に、オセアニアに位置する平均海2メートルの島国・ツバルは、ニュージーランドへの移民を始めるほどです。
ニュースで頻繁に報じられる国内外の豪雨・山火事により、例えば、米国の2021年の自然災害の被害額が約1,450億ドル(約17兆円)と試算され巨額。経済的被害額は甚大。ゆえに、永続的(サスティナブル)な人類存続にCO₂削減は必須であり、空でつながる全世界で取り組むことが求められています。
全世界が参加して温暖化抑制を目指す「パリ協定」(第5回・要約)
地球上の脱炭素化へ向け、世界の目標を定めるのが、2015年12月「パリ協定〈第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)〉」決議です。これは、2020年以降の温室効果ガス排出削減等の為の国際枠組みであり、歴史上初めて、196カ国、全ての国が削減目標をもって参加することをルール化した公平な合意となりました。
「パリ協定」は、産業革命前からの平均気温上昇を2℃以下に保ち、(努力目標は1.5℃以下に抑える)、各国が温室効果ガス削減の目標を作成・提出し、実施の義務を負う、としています。また、5年毎となる2025年、2030年に関わらず、長期を見据えた永続的な取り組みが明記。現在、およそ3分の2の国・地域が2050年迄にCO₂の排出量と植林、森林管理等による吸収量を差し引いて合計をゼロにする「カーボン・ゼロ」を表明(図2)。
パリ協定の号砲と伴に、現在までに、各国が2030年迄の目標を続々と発表。2050年のカーボン・ゼロ達成を目標とする国が多い一方で、中国は2060年、インドは2070年と、事情に合わせた取り組みもみられます。
カーボン・ゼロへ向け、巨額な資金が動き出している(第5回・要約)
「パリ協定」に基づく各国が目標設定を進める中で、2050年・カーボン・ゼロ達成への技術開発及び設備等に必要な投資額について国連など関連団体で見積もられ、各団体とも、概ね、世界で約1.49京円、年当り約500兆円と巨額。しかし、前述の温暖化が起因する気象現象等の経済損失は、米国だけで年間約20兆円。世界気象機関(WMO)は、2019年までの50年間の気象災害は3.64兆ドル(約484兆円)、同じく被害額は5倍のペースと試算され、さらに人命を考慮すれば年500兆円ならばインセンティブが働く水準とも言えそうです。
報道等より脱炭素関連の投資額は2020年までの5年間の年平均で約1.3兆ドル、未だ170兆円ペースで、今後、3倍強のペースの投資が行われる可能性。“3倍”は大人しい印象ながら“150兆円”の3倍、500兆円は各世界市場の中でもインパクトは非常に大きい。
さらに、次の第4項の通り、地政学的な圧力が投資加速を迫ります。関連業界への急激な“投資資金流入”と併せSDGs的“投資価値”が加わり、関連株価を押し上げることになりそうです。
ロシア進軍で地政学的に「脱炭素」投資が加速する可能性(第5回・要約)
2022年2月22日、ロシアのウクライナ侵攻は、「脱炭素」の重要性をさらに高める結果に=今後、世界の「脱炭素」投資を、一層、加速させると考えています。
前述の通り、ロシア進軍以前の地球温暖化対策の目標は「気温上昇を抑える」が唯一でしたが、天然ガスなど「化石燃料」の供給で、欧州各国に対し政治的にも優位なロシアに進軍を許す結果に。
ロシア軍の資金源は欧州各国からの資源購入代金。天然ガスで同国需要の40%をロシアに依存するドイツは、「侵攻」を強く批判しつつ、その購入・代金支払いを続けざるを得ず、各国協調するロシア主要銀行と自国銀行の資金決済の停止さえ、資源購入代金を決済するロシアの最大手銀行への適応には踏み切れない現実。
そして、独・ハベック経済相は侵攻後の2/28、「ロシアの化石燃料に頼りすぎた」とし、化石燃料消費の大幅削減を目指す意向を強調し、太陽光・風力など再生可能エネルギー転換加速を示唆。その際には、欧米株式市場の脱炭素関連株の一角が急上昇。3/8・米国がロシア産原油等の輸入全面禁止に踏み切ると、さらにその動きは顕著になっています。
「脱炭素」投資は、「地球温暖化抑制」に加え、人類存亡を賭けた「地政学的安定」という命題が付加され、達成へ向けた資金の規模拡大と投入加速はほぼ確実で、関連投資の果実を目指した資金は静かに動き出しているようです。
脱炭素の関連ビジネスと参考企業(第5回・要約+企業紹介・追加)
「脱炭素」の技術開発やビジネス展開は、既に多岐に渡り実用化されています。
「図4」は代表的な技術・関連ビジネスをまとめ、関連銘柄をいくつかご紹介します。
脱炭素関連の企業は、新技術及びビジネス・モデルが多く、業界内での優位性判断には専門知識が必要です。また、歴史的に取り組みを持続する欧州企業に有力銘柄が多く、米国株と比べ情報量が少ないことも難点。
そこで、世界の「脱炭素」関連の銘柄へ選別投資する「投資信託」なら、専門家による分析、複数銘柄へ分散投資、個別銘柄の適宜の売買判断等を活用した投資が可能です。是非、アイザワ証券の各部店へ、一度、ご相談ください。
解説:関連銘柄のご紹介
▷エアープロダクツ・アンド・ケミカルズ(米国) ~水素の生産、供給のグローバルリーダー~
〈事業内容と着目ポイント〉
- 世界的な工業用ガスメーカーで、商業用水素供給の大手。水素生産、水素ステーション建設等で豊富な実績。
- 水素は、燃焼時にCO2を排出せず、化石燃料と比較した高いエネルギー効率がメリットだが、高い着火性、金属を腐食させる特性等から、安全・安定した供給・管理には高い技術力が必要。
- 同社は、世界規模の再生可能エネルギー由来の水素生産プロジェクトに参画し、世界の水素生産、供給を技術面からリード。水素エネルギー利用拡大は同社業績の拡大への寄与が期待できる。
▷シーカ(スイス) ~低炭素コンクリートを実現する「混和剤」を手掛ける~
〈事業内容と着目ポイント〉
- セメント生成過程のCO2排出を抑制、コンクリートの強度や耐久性を向上させるために添加される「混和剤」を手掛ける。日本でも六本木ヒルズ等の高層建築に同社製品が採用されるなど、高い技術力。
- セメント産業は、世界のCO2排出量の約8%(2019年時点)を占め、主要なCO2排出源の一つ。
- 同社は、老朽化コンクリートを砂や砂利にリサイクルする添加剤も開発、コンクリート製品のライフサイクル全体で脱炭素に貢献。インフラや建築物の脱炭素化への動きは、同社製品に対する需要が拡大するものと期待。
▷ビューロ・ベリタス(フランス) ~製品や建築物の性能判定、ISO規格*の認証審査等を手掛ける~
〈事業内容と着目ポイント〉
- 同社は、日本の国土交通省をはじめ各国公的機関の認定検査機関として、CO2排出量の測定やビルの省エネ適合性判定などのサービスを提供。脱炭素の実現に向けて温室効果ガス排出規制が強化され、規制への適合認定など、同社サービスへの需要拡大が期待される。
- 各国政府による脱炭素関連の支援政策の実施でも、事業者やプロジェクトに対する認証の重要性が高まり、同社TIC(試験・検査・認証)サービスの需要が拡大するものと期待。
* ISO(国際標準化機構)が定める、製品やサービスなどの国際的な基準を定める規格。
後編では<「温暖化」と「地政学・インフレ」リスク常態化で「脱炭素」の投資機会が顕在化>を解説します。
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