投資のコンシェルジュ 第5回 世界は気候だけでなく、インフレ、地政学的リスクの低減へ、脱炭素を急ぐのか?
2022.03.18 (金)
ロシアのウクライナ侵攻(開始は22年2月22日)は、米国の金融政策の大転換を織り込み(米S&P500安値22年1月27日:4326p)、ようやく立ち直りかけた病み上がりの米国など各国の株式市場へあらたな試練を突き付けることになりました。
3月9日現在、未だ出口はみえず、事態長期化による株式市場のさらなる下押し懸念は積もるところ。しかし、目を凝らすと、「脱ロシア」後の世界への投資は始まったようです。
それは、「脱炭素関連」への投資です。
第4回では「日本株投資の魅力」として、政府のデジタル化政策と「情報通信産業」への集中投資、をご紹介させて頂きました。第5回では、前述の市場環境で、あらためて浮上する、世界の「脱炭素関連」への投資についてご報告致します。
なぜ、「脱炭素」が世界で叫ばれるのか
2020年、世界の平均気温は、ワット(英)の蒸気機関発明(1785年頃)による「産業革命」を起点とした「化石燃料」の活用が19世紀に本格化、その燃焼で発生する温室効果ガス「二酸化炭素(CO₂)」の大量発生を主因とし、産業革命当時より約1.1℃、人為的に上昇したとされます。この動きを「地球温暖化」と呼びます。そして、「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」において、最近10年毎の調べで加速度的な「温暖化」が報告されています。
解説:温室効果ガスとは?
- 人間活動に起因する主な温室効果ガスには、二酸化炭素(CO₂)、メタン、一酸化二窒素、フロンガスがあります。
- CO₂は地球温暖化に及ぼす影響が最も大きな温室効果ガスです。石炭や石油の消費、セメントの生産等で大量のCO₂が大気中に放出されます。
- 大気中のCO₂の吸収源である森林が減少。これらの結果、大気中のCO₂は年々増加しています。
- メタンはCO₂に次ぎ地球温暖化に及ぼす影響が大きな温室効果ガスです。メタンは、湿地や池、水田で枯れた植物が分解する際に発生。天然ガスを採掘する時にもメタンが発生します。
それは、歴史上で先駆けてCO₂排出を背景に高度成長を遂げた米国、日本など先進(工業)国と、1990年以降には中国、インドなど新興国の急進する工業化と人口増が加わり、CO₂濃度が一段と上昇(1750年頃比+40%)したことが要因と考えられます。
地球温暖化は、海水温を上昇させ、沿岸部での豪雨、さらに大陸内陸部での干ばつ(砂漠化)、生態系の破壊、など、様々な現象を引き起こします。また、氷河融解や海水の膨張による海水面の上昇(約100年で19cm上昇)により、既に、オセアニアに位置する平均海2メートルの島国・ツバルは、ニュージーランドへの移民を始めるほどです。
ニュースで頻繁に報じられる国内外の豪雨・山火事により、例えば、米国の2021年の自然災害の被害額が約1450億ドル(約17兆円)と試算され巨額、人的のみならず、経済的被害額も甚大で、世界各国で同様。ゆえに、永続的(サスティナブル)な人類存続には、どうしてもCO₂削減が必要で、空でつながる全世界で取り組むことが求められています。
全世界が参加して温暖化抑制を目指す「パリ協定」
地球上の脱炭素化へ向けて、世界が目標とすべきゴールを定めているのが、2015年12月「パリ協定(第21回 国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)」です。これは、2020年以降の温室効果ガス排出削減等の為の国際枠組みであり、歴史上初めて、196カ国、全ての国が削減目標をもって参加することをルール化した公平な合意となりました。
「パリ協定」は、平均気温上昇を産業革命前から2℃以下に保ち(2℃目標)、また、1.5℃以下に抑えることを努力目標とし、各国が温室効果ガス削減の目標を作成・提出し、実施の義務を負う、としています。また、5年毎となる2025年、2030年に関わらず、長期を見据えた永続的な取り組みが明記され、現在、およそ3分の2の国・地域が2050年迄にCO₂の排出量と植林、森林管理等による吸収量を差し引いて合計をゼロにする「カーボン・ゼロ」を表明しています(図2)。
パリ協定の号砲と伴に、現在までに、各国が2030年迄の目標を続々と発表。2050年のカーボン・ゼロ達成を目標とする国が多い一方で、中国は2060年、インドは2070年と、事情に合わせた取り組みもみられます。
カーボン・ゼロへ向け、巨額な資金が動き出している
各国の目標設定が進捗する中で、2050年・ゼロ達成の為の技術開発及び設備投資等に必要資金の算定が国連など複数の国際的な研究団体で行われ、2021年から2050年までの見積りは、各団体とも、概ね、世界で約1.49京円、年当り約500兆円と、みたこともないほど巨額(図3)。
一方で、前述の通り、温暖化に起因する気象現象等の経済損失は、米国だけで年間20兆円近い金額。世界気象機関(WMO)の試算では、2019年までの50年間気象災害の被害は、金額で3.64兆ドル(約420兆円)、その増加ペースは5倍、とされ、今後も温暖化が進めば乗数倍の拡大も。人命をも考慮すれば、年500兆円は世界にインセンティブが働く妥当な水準とも言えそうです。
そして、報道等より脱炭素関連の投資額は2020年までの5年間の年平均で約1.3兆ドル、未だ150兆円程度ですから、今後、これまでの3倍強のペースで投資が行われる可能性。“3倍”は大人しい印象ながら“150兆円”の3倍、500兆円は関連業界へのインパクトとして非常に大きいと考えます。
さらに、次の第5項でご報告の通り、地政学的な圧力がその進展加速を迫る現実。関連業界への急激な“投資資金流入”と併せSDGs的“投資価値”向上が見込まれ、同関連株価を押し上げる可能性があります。
ロシア進軍で地政学的に「脱炭素」投資が加速する可能性
2022年2月22日、ロシアのウクライナ侵攻は、「脱炭素」の重要性をさらに高める結果になった=世界に「脱炭素」投資の加速を迫る、と考えられます。それは、2022年からは、「脱炭素」の目標に「地政学的リスクの抑制」が加わったからです。
ロシア軍の資金源は、進軍を痛烈に非難する欧州各国からの資源購入代金という構図。天然ガスで同国需要の40%をロシアに依存するドイツは、「侵攻」を強く批判する一方で、その購入・代金支払いを続けざるを得ない。各国協調するロシア主要銀行と自国銀行の資金決済の停止についてさえ、資源購入代金を決済するロシアの最大手銀行との取引停止には踏み切れない現実。ロシアへのミルク補給は続きます。
この事態に、独・ハベック経済相は侵攻後の2月28日、「ロシアの化石燃料に頼りすぎた」と発言、化石燃料消費の大幅削減を目指す意向を強調し、太陽光・風力など再生可能エネルギー転換加速を明言。それを受けて、欧米株式市場の脱炭素関連株の一角が急上昇。3月8日には米国がロシア産原油・天然ガスの輸入全面禁止に踏み切ると、さらにその動きは欧米株式市場で顕著になっています。
ご報告の通り、「脱炭素」投資は、「地球温暖化抑制」に加え、人類存亡を賭けた「地政学的安定」という目に見える命題が急浮上し、達成へ向けた資金の規模拡大と投入加速はほぼ確実で、その先の大きな果実の獲得へ、既に投資資金は動き出している、と言えそうです。
脱炭素の関連ビジネスと参考企業
脱炭素へ向けた技術開発やビジネス展開は、既に多岐に渡り実用化されています。「図4」へ代表的な技術・関連ビジネスをまとめ、関連銘柄をいくつかご紹介します。
脱炭素関連には、新しい技術、ビジネスが多く、個別銘柄の業界及び競合する企業内での優位性判断には専門知識が必要です。また、石油業界の政治力からパリ協定を一時離脱するなど取り組みが断続的な米国に対し、歴史的に取り組みを続けている欧州の企業に有力銘柄が多いのも特徴で、相対的に情報量が少ないことも投資の上では難点。
そこで、世界の「脱炭素」関連企業への投資には、「脱炭素」をテーマとする「投資信託」の活用が便利。専門家による分析、複数銘柄への分散投資、個別銘柄の適宜の売買判断等を活用した投資が可能です。是非、アイザワ証券の各部店へお気軽にご相談ください。
解説:関連銘柄のご紹介
※時価総額は22年3月11日現在。個別銘柄を推奨するものではありません。
〈太陽光発電〉
▷エンフェーズ・エナジー 〇米国:時価総額229億$※
太陽光で発電した直流電流を送電用の交流に変換する「マイクロインバータ」の世界的リーダー企業。同製品を日照条件の違うパネルごとに設置し、発電効率の低下を解消、発電量を増加させる。さらにリチウムイオン電池と同製品を組み合わせた蓄電システムを製造・販売。2021年10~12月期は売上高が55.8%増の4.1億ドル。
〈代替燃料・素材(低炭素コンクリート)〉
▷シーカ 〇スイス:時価総額468億$※
コンクリートの強度や耐久性向上の為に添加される「混和剤」大手。コンクリートの主成分・セメントの製造段階で大量に排出されるCO₂を抑制する混和剤に強み。インフラや建築物の脱炭素化への需要拡大に期待。一株利益成長率(予想)は、3年後までの年率平均で18%と高成長見込み。
〈スマートグリッド〉
▷アルフェン・ビヘーア 〇オランダ:時価総額21億$※
IoT活用を通じ、電力ネットワークを効率化するスマートグリッド・ソリューションに強みを持つ電力設備メーカー。再生可能エネルギーの普及推進には、気象条件により発電量をコントロールし、電力ネットワークの安定性を確保することが重要で、同社はその黒子役として、業績拡大余地が大きいと予想。一株利益成長率(予想)は、3年後までの年率平均で45.7%と高成長見込み。
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