China Market Eye 加熱する中国の新エネルギー車市場
2022.10.14 (金)
中国の新エネ車販売比率はいよいよ5割超に!?
ゼロ・コロナ政策の下で消費不振と不動産低迷が続く中、中国の新エネルギー車販売台数は1~9月に前年同期比109%増の447万台と、予想を遥かに上回るペースで拡大しています。通年では、新型コロナウイルスが感染拡大する前の2019年の約5倍にあたる600万台を突破することが濃厚です。
さらに、新車販売に占める新エネルギー車(乗用車)の比率は、9月に初めて30%に達する見込みとなっています。
来年にかけて、2016年に策定した当局の政策目標(2030年の新エネ車販売比率は40~50%)を7年前倒しで実現しそうな情勢です。
消費喚起策や技術進歩、販促活動が市場拡大を後押し
新エネルギー車市場の急拡大は、上海ロックダウン後の消費喚起策の実施が大きな起爆剤となっています。当局は5月下旬から自動車取得税の減免を開始し、9月には来年末まで延長することを決定しました。これにより総額約1,600億元(約3.2兆円)に上る税額が免除されると試算されます。
このほか、車船税と消費税の免除や各地での助成金支給、充電網の整備、公道での運転許可、ナンバープレート発行数の増加など、新エネルギー車の消費拡大を支援する関連政策も多方面で強化されています。例えば、中国のEV充電スタンドの保有数は8月に160万基超とコロナ前の4倍に達し、上海市街地で普及が進んでいます。
また、EV電池の航続距離を飛躍的に伸ばすなど、民間企業主導の技術革新も活発化しています。これにより、中国国内でサプライチェーンが形成され、コストダウンが進んでいます。新興EVメーカーのニオ(Nio)やテスラなどの高級EV(40~50万元)や、上汽通用五菱汽車の「宏光MINI EV」をはじめとする低価格EV(約3万元)が同時に人気を博し、新エネルギー車市場の活性化に拍車をかけました。
さらに、脱炭素のメリットや自動運転、革新的新技術の応用、斬新なデザイン性、消費者体験の向上、サービスの充実など、販売促進活動も大きく奏功しています。
※世界最新技術を満載した上海ギガファクトリーの縮小版を展示。
※主力モデルに導入した車体の一体化プレス技術をアピール。
最新の調査によると、新エネルギー車に対する中国の消費者の満足度は、ガソリン車の水準に達しつつあります。加えて、消費者の購入意欲は認知度及び乗車体験とほぼ比例して向上し、欧米などに比べると乗車体験や環境、保有コストが優先されるほか、若い年齢層ほど新エネルギー車に対する抵抗感がないことも分かりました。
足元では9月以降、秋の需要シーズンが到来することに加えて、半導体の供給緩和や、夏場の電力不足による供給減の反動、新車発売ラッシュなどにより、中国の新車市場は新エネルギー車を起爆剤に第2波を迎えようとしています。
1日で最大400台の引き渡しが可能なテスラの上海外高橋新車交付センターを訪れると、新車の引き渡し受付ルームは平日でも大勢の顧客で賑わっており、ほぼ数分毎に新車が構内に入ってきて引き渡しが行われるなど、旺盛な需要を伺わせます。
※新車が引き渡される前に記念写真を撮影。
また、テスラの上海ギガファクトリーは設備改修後の稼働率が100%近くに達しています。同社は「モデル3」と「モデルY」を1週間で約2.2万台生産することを目指すとしており、そのうち約4割は輸出向けです。
市場の拡大とともに巨大な新エネ産業チェーンを育成
中国の新エネルギー車市場は今なお政策支援を受けているものの、政策主導の離陸期から市場と技術革新主導の拡大期へと移行しつつあり、世界でいち早く巨大市場の創出に成功しているといえます。
現在のペースが続けば、市場規模は2023年に1,000万台、2024年に1,600万台へと拡大し、新車販売に占める新エネルギー車の比率はそれぞれ50%、70%を突破すると予想されています。また、中国の1,000人当たりの自動車保有台数は2021年に208台と10年間で倍増したものの、米国の800台と日本の600台超に比べるとなお成長余地は大きいと思われます。
新エネルギー車市場の急拡大と同時に、中国はすでに川上の原材料・素材から車載バッテリー、製造装置まで、世界で最も成熟した巨大な産業チェーンを育成し、世界最大の電力供給ネットワークを構築しています。例えば、EV電池の世界シェアを見ると、CATLとBYDをはじめとする中国企業が約7割を占めています。
さらに、市場拡大と産業高度化を反映して、中国の自動車関連と電池の輸出額は年間3,000億米ドルのペースで、コロナ前の3倍に急拡大しています。
そのうち完成車の輸出台数は1~8月に前年同期比45%増の191万台に達し、通年では300万台を突破する見通しで、ドイツを抜き日本に迫る勢いとなっています。
足元の中国経済は、不動産抑制(⇒バブル崩壊)と産業の高度化(⇒国際競争力向上)といった2つの顔を持っています。不動産抑制を通じて社会・経済リソースを成長・革新部門に再配分することで、新エネルギーや半導体などの新興産業が不動産に取って代わって大きく成長すれば、経済持続性が高まり質的成長を促すことが可能でしょう。
米中貿易戦争を機に、中国は需要・イノベーション駆動の成長モデルへと大きく舵を切っています。その成果は時間が経つにつれて現れてくると思われます。ゼロ・コロナ政策は一時的な成長抑制要因に過ぎず、産業の高度化こそ生産性を引き上げる成長の源泉です。中国株投資においては、こうした視点を持つことが必要ではないでしょうか。
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