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コリアインサイト トランプ政権がもたらす韓国造船業への影響

2025.03.31 (月)

有進投資証券

成 承桓

コリアインサイト トランプ政権がもたらす韓国造船業への影響

2024年11月のトランプ米大統領再任決定以降、米国政府の政策変更によって外交、貿易、金融など様々な分野で不確実性が高まっています。ヨーロッパではロシアのウクライナ侵略の終結をめぐり、米国とウクライナの間で意見の相違が発生。東アジアでは韓国と日本に対する関税発動が計画されています。日本も米国の政策の変化に懸念を抱えていますが、韓国は輸出依存度が高く関税による影響をより大きいことから、韓国は日本より厳しい状況にあると言えます。
しかし、トランプ大統領の登場は韓国にとって不利益を被るだけではありません。一部の産業にとってはトランプ大統領の登場を歓迎する声もあります。この一部の産業には、以前紹介した医薬品産業や防衛産業なども挙げられますが、今回はそのなかでも造船産業を紹介します。

1. トランプ米大統領と韓国造船業の関係

2024年11月、トランプ米大統領は「船舶輸出だけでなく補修・修理・整備(MRO)分野においても緊密に韓国と協力する必要がある」と言及しました。また今年1月には、米海軍の艦艇建造問題について「我々はドック(dock)がなく、艦艇建造の準備ができていない。準備が整うまで他国に発注するつもりだ」と明かし、トランプ関連銘柄として韓国造船株の株価が一気に上昇しました。

今年2月、米議会で共和党が発議した2つの米海軍関連法案(海軍準備態勢保障法など)によると、国外の造船所で海軍艦艇の建造を禁止している商船法を改正し、例外を設ける内容が含まれています。この法案が可決されれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟国または米国の同盟国の造船所で米海軍艦艇を建造できるようになります。
この法案では、国内(米国)よりも国外の造船所で建造する方が費用が安く、中国と関係がないことを確認しなければならないとしています。そしてこの条件を満たす国は韓国と日本だけです。

2. 韓国造船業の20年史

2000年代初頭、韓国の造船業は「造船バブル」と呼べるほどの好景気を迎えていました。その背景には中国の経済成長がありました。中国の急激な経済成長により生産量が増加し、その製品を輸送するための船舶需要も急増したのです。
欧州の造船業は第二次世界大戦後、日本の建造量拡大によって競争力を失い、日本の造船業もリーマン・ショック以降、中国や韓国の台頭により規模を縮小しました。競争相手が減少した状況の中で、韓国の造船業は急増する需要を吸収し、飛躍的な量的成長を遂げました。
株価もこの好景気に呼応し、2000年代の韓国造船株は510倍の爆発的な上昇を記録しました。

ハンファオーシャン(旧大宇造船海洋)(韓国:042660)株価長期推移

しかし、2008年の世界金融危機以降、韓国の造船業も低迷期を迎えます。積極的な投資を行っていた中小型造船所では倒産が相次ぎ、大型造船所でも派遣切りを実施するなど、厳しい対応を迫られました。

この危機を打開するため、韓国の造船業が注力したのは海洋プラント事業でした。海洋プラントとは、海洋石油・ガス等の天然資源を採掘、生産するための設備を指し、設置位置の地形や気候等に合わせて製造されます。一時期な急落はあったものの2000年代後半から2010年代初頭にかけて原油価格は高騰していたため、この事業の収益性を保証されていました。
しかし、2000年代後半に米国で始まった「シェール革命」により状況は一変します。「シェール革命」は、これまで掘削困難であった地下2,000メートルより深くに位置するシェール層から石油(オイル)や天然ガスの掘削が可能になったことによりその生産が拡大し、世界のエネルギー事情に大きな影響を与えました。これにより低コストで石油・天然ガスの掘削が可能となったため、輸入や海洋で高額な費用をかけて採掘する方法は次第に減少していきました。

この逆風の中、2015年には大宇造船海洋(現ハンファオーシャン)の粉飾会計が発覚し、2016年には受注残高基準で世界4位の規模を誇ったSTX造船海洋が倒産するなど、韓国造船業全体が深刻な低迷に陥りました。

3. 韓国造船業の未来

2020年以降、状況は再び変化しました。コロナ禍が始まった当初は不況が予想されていましたが、IT技術の発展により景気は急速に進みました。想定以上の速さで回復したため、設備投資が追いつかず、船舶への投資も遅れました。その結果、海上運賃が上昇し再び船舶の需要は高まりました。
また米国の規制により韓国の主要な競争相手として浮上していた中国は以前より販売先が縮小傾向にあります。それに対し、韓国の利益は伸長、前述した米海軍艦艇生産も業界の成長を後押しする要因となっています。

韓国の代表的な造船業株には、ビッグ3と呼ばれる「ハンファオーシャン(韓国:042660)」、「HD韓国造船海洋(韓国:009540)」、「サムスン重工業(韓国:010140)」があります。韓国のビッグ3造船企業の最近の業績が大きく改善されたのは、液化天然ガス(LNG)運搬船など高付加価値船の受注が多かったためです。韓国は全世界のLNG運搬船の約70%を受注し、市場シェアを拡大しました。

世界情勢の変化で韓国の造船産業も新しいチャンスに向かっていると思われます。

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ライター

成 承桓

有進投資証券

成 承桓

全南大学卒業後 、 未来アセット証券 、 教保証券 、 SK 証券を経て 、 2008 年に有進投資証券入社 。 国際営業チーム 、海外事業 チーム 、 海外投資チームを 経て 、 2021 年よりマルチ金融チームで日本の不動産及び金融商品を 担当している 。趣味はランニングと映画鑑賞 。

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