経営者インタビュー ご当地ラーメンの最高峰!進化する日本ラーメンの新たなトレンド<後篇>
2020.04.06 (月)
ご当地ラーメンの最高峰!進化する日本ラーメンの新たなトレンド<後篇>
クラタ食品有限会社(広島県福山市)は、広島県、岡山県をメインエリアに、中国、四国地方などにも麺類全般商品を供給している麺類メーカーです。同社は「福山らーめん」、「広島らーめん」等のご当地生ラーメンをはじめ、50品目を超えるオリジナルラーメンを開発しており、西日本では1番のご当地(ご当店)ラーメン商品を持つ昭和62年創業・33期目の製麺会社です。
本物志向のラーメンを作る一方で、地元広島県東部の学校給食での麺類提供で高シェアを占めており、また、人気ゲームシリーズ「龍が如く」とのコラボレーションもしています。
昨年には輸出商材として海外で増加傾向にあるヴィーガン(完全菜食主義者)向けに、動物性食品不使用のヴィーガンラーメンの開発・販売も手掛けている非常にユニークな会社です。今回はそんな同社が手掛けるラーメンビジネスについて、代表取締役である倉田安彦氏に話を伺いました。
―― 現在、世界26ヶ国・46都市でビジネスを展開しておりますが、ここまで展開が加速した理由は何ですか?
倉田代表(以降、倉田):
当社は、2005年より海外ビジネスを始めましたが、第2次安倍政権発足時に、ジェトロ(日本貿易振興機構)がそれまでと打って変わって、中堅・中小零細企業の海外展開支援に対して活発的になりました。ジェトロは国内・海外ともに、商談会や展示会などを積極的に主導し、広島県庁にも海外貿易を支援する窓口が作られました。
これにより、広島県の食品メーカーに海外ビジネスのチャンスが一気に広がったのです。そのおかげで、今でも国内・海外の食品展示会に年に3~5度は必ずブースを出展し、PR活動を続けています。もう10年にもなりますが、小さなメーカーとしては珍しいと思います。
また、当時、食品工場は朝が早く休みも少ないといった厳しい労働環境から、従業員の確保が難しく当社は人手不足に陥っていました。そこで中国人の研修生を迎え入れることを考えて、同じ状況にあった地元企業のトップたちと一緒に、上海と大連に研修制度の勉強に向かいました。これが大きな転換点となりました。
2004年頃の話になりますが、上海に着くと、日本の有名ラーメン店が大行列を作っているのが目にとまりました。お店に入ると、調理スタッフもマネジャーも全員が現地の中国人です。日本のラーメンを中国人が作りながら、中国人が大行列を作っているという状況に大変驚きました。しかも、食べてみると麺もスープも本来の味とは大きく違っていました。
ご当地ラーメンの開発を推し進め、ユニー香港から声をかけてもらったのもこの時期です。美味しい麺とスープには当然自信がありましたから、正直、これは大きなビジネスチャンスだと感じました。そして、そこに同席していた博多ラーメン「味の蔵」の会長とも意見が一致し、味の蔵などとの共同出資による現地法人の設立を即決し、中国の中でも親日的な大連に出店しました。
今では、大連の店舗は約15年で7店舗まで拡大していますが、大連での事業拡大に一役買ってくれた人たちがいます。
初めて行った大連で、中国人の姉弟2人で経営しているお好み焼き屋に偶然入りました。日本のオタフクソースを使って、日本の関西風お好み焼きを出しているお店でした。その後、現地にいる研修生の面接のために何度も大連には足を運んでいたので、その度、お店に行き広島風お好み焼きを教えたり、当社の麺をお好み焼きに使ってもらったりと、だんだんと親密になりました。最終的に大連のラーメン店舗のマネジメントを2人に依頼したところ、快く引き受けてくれました。今もコロナ禍の中、一生懸命頑張ってもらっています。ビジネスで大切なのは人との出会いではないかと思います。
―― 海外ビジネスならではの大変なことはありますか?
倉田:
海外で製品を販売するうえでは、企画開発時にその地域に合うようなローカライズが必要不可欠です。私たちが美味しいと思って提案をしても、受け入れられないことは多々あります。
例えば、中国でいえば、中国人(特に沿岸部)は日本人よりもラーメンの味を濃く感じるようです。これは中華料理には多くのスープ料理がありますが、彼らが普段食べるスープの塩分濃度が日本よりも低いからです。日本のラーメンは美味しいけれど味が濃すぎるというのはよくある話で、スープを薄めるお湯の量を現地の人に合うよう研究し、調節するなどの工夫が必要になってきます。
現在はYouTube等もあり、海外に対しても情報発信が容易な時代になりましたので、現地の言葉でわかりやすいように動画を作成して、その国にあった味を提供できるようにしています。是非、YouTubeでクラタ食品を検索してみてくださいね。(クラタ食品 様のYouTubeはこちらから)
―― 海外ビジネスで気を付けるべき重要な点を教えてください。
倉田:
やはりパートナーシップをきちんと信用できる人と持つということだと思います。人種は関係ありません。一番大切なのは信用できる人・会社を見つけることです。怪しい話には乗らないことですね。
また、政治リスクにも注意が必要です。例えば、韓国では昨年に文大統領が日本に対して憎悪を駆り立てるような反日政策をとっていました。その結果、世論が日本に対して大きくマイナスになってしまい、そのあおりを受けて数多くの日系飲食店がつぶれてしまっています。世論がネガティブになると、一気に状況は変わります。当社の取引先のひとつでソウルにある韓国人経営者の会社でも、昨年は9割減収となってしまいました。日本の料理は美味しいということを韓国の人も知っていると思います。それでも政治の問題で日本はダメだとなると状況は一変してしまうのです。
そしてモチロン商品開発力!当社は海外市場に出始めた時に、BSE(牛海綿状脳症)や鳥・豚インフルエンザの家畜伝染病が日本国内で発症して、一気にどこの国でも日本での畜肉エキス入りの通常商品が輸入規制で止められてしまいました。この時にいち早く、畜肉エキスを使わない「ミートフリーラーメン」を海外用に開発できたことで、今の取引があると思っています。
―― 昨今のコロナ騒動で先の見通しがしづらい状況ではありますが、国内と海外における今後の展開についてお聞かせください。
倉田:
当社では、これまでHACCP(危害要因分析重要管理点)の導入により一定水準以上の食品の衛生管理を推進してきました。昨年12月には、第三者機関による審査をクリアして、広島県より食品自主衛生管理認証の取得をしました。そしてHACCPの導入により、原材料の受入から最終製品までの各工程を監視・記録し、各工程の衛生管理を適切に行うことで、賞味期限を1.5倍にする取り組みをはじめました。
期限が伸びれば、販売チャンスが長くなりますし、食品ロスも大きく減ります。メーカーである当社をはじめ、小売りスーパー、最終消費者、いずれもすぐに食品ロスを発生させない。今後はそういった視点でお客様から商品を選んでもらえるようにしたいと考えています。
海外に関しては現在、ヴィーガンといった特別な市場に対してヴィーガンラーメンの販売を開始しています。ヴィーガ二ズムな考え方をもった日本人はあまり見かけませんが、菜食実践者の数で世界トップレベルのドイツでは、全人口の10%以上が菜食主義者(ヴィーガン含む)といわれており、米国でも近年爆発的にその人口は増加しています。また、宗教的な理由から、インドでは菜食主義者が人口のおよそ3割前後にも及ぶといいます。
ヴィーガンの基本精神は動物愛護です。ラーメンに興味はあるけれども、動物性食品を使用しているラーメンは食べたくても食べられないという人たちが多くいると考えています。特別な市場ですが、ニッチだからこそトップになれる可能性があるのではないかと考えております。
♦倉田 安彦(くらた やすひこ)
1963年、広島県生まれ。大学在学中に家業の手伝いをはじめるも保証人のトラブルから倒産。1987年にクラタ食品有限会社を新たに設立し、代表取締役に就任。現在に至る。