亜州潮流 ビンファスト上場とベトナムのEV産業
2023.09.22 (金)
当記事は2023年9月11日発行「アイザワ・グローバルマンスリー9月号」より抜粋しております。
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ビンファスト上場とベトナムのEV産業
2023年8月15日、ビンファスト(米国:VFS)は特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じて米国ナスダック市場への上場を果たした。ビンファストはベトナムを代表するEVメーカーで、同国は2050年までに温室効果ガス排出ゼロを目指して、EVの普及を国内で進めている。現在ベトナムでは軽工業や組立加工などの低付加価値産業が経済成長を担っているが、将来の成長を見据えてハイエンド製造業の育成にも力を入れており、EV産業はその大本命となりつつある。
現在世界を見渡すと、自動車メーカーの時価総額トップ3は、米国のテスラ(米国:TSLA、約7,800億米ドル)、日本のトヨタ(日本:7203、約2,900億米ドル)、中国のBYD(香港:1211、約1,000億米ドル)が名を連ねる。今回上場したビンファストの時価総額は2023年8月28日に約1,900億米ドルを記録し、一時BYDを抜き世界3位に躍り出た。同社の2023年上半期EV納車台数はわずか1.1万台しかなく、株価が過大評価されたのは流動性が低い(発行済み株数に占める浮動株比率は0.3%)ためであるが、それでもこれだけ時価総額が膨れ上がったのは注目に値する。
ビンファストはベトナム最大の複合企業であるビングループ(ベトナム:VIC)の子会社だ。ベトナムの自動車市場では日本や韓国がしのぎを削っており、販売台数の点では大手メーカー比べ同社はまだ駆け出しに過ぎない。創業者のファム・ニャット・ブオン氏は2023年4月にタクシー兼リース事業の新会社「グリーン・スマート・モビリティ」(以下GSM)を設立し、ビンファスト製EVの国内普及に乗り出した。筆者はベトナム在任時にGSMの手がけるタクシーを利用したことがあり、率直に感じたのは「サービスの質の高さ」だ。GSMでは乗客が座ったことを確認してから出発したり、車内の温度を小まめに調節したりと、他のタクシーとは一線を画して社員教育が行き届いていることを感じられた。また、同社が運営するEVバスと同様、サービスの質に対して料金が割高でないのも魅力的だ。現在、ビンファストはまだ納車数が少なく、規模と技術力の点で経過観察を要するが、ベトナムでEVタクシーなどの草の根運動を通じて認知度と売上高が向上・拡大すれば、同国を代表するEVメーカーに育つ可能性もあるのではないだろうか。
※「亜州潮流」はアジア新興国のトレンドを解説したコラムです。投資の推奨を目的としたものではありません。
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