外国市場ガイド:タイ編
2021.12.24 (金)
数十年ぶりの大規模経済計画が始動
2014年のクーデターを主導し、政権を奪取した軍出身のプラユット氏は、2019年の民政復帰後も政権を維持し、2021年で7年目に突入しました。事実上の軍政継続に海外から警戒が強まる一方で、国内では、閣僚に学者や財界人を多く起用し、産業の高度化を目指す「タイランド4.0」や、次世代産業の開発・生産拠点として外国企業などを誘致する経済特区「東部経済回廊(EEC)」の開発など、数十年ぶりとも言われる大規模経済計画を打ち上げたことから、実行力に期待が高まっていました。
しかし、新型コロナパンデミックが経済運営の足を引っ張っています。タイはASEANの中でも比較的感染抑制に成功してきたものの、輸出やGDPの2割超を占める観光業の落ち込みが響き、2020年の実質GDP成長率は前年比-6.1%と、1999年以来の景気後退に見舞われました。度重なる変異株の出現を背景に、観光業への依存度が高いタイ経済の回復速度は周辺国に比べて緩やかなものとなりそうです。
「タイランド4.0」や「東部経済回廊(EEC)」の開発などの政策は、コロナ禍で落ち込んだ経済を牽引するだけでなく、タイが直面する中所得国の罠を脱する手段としても注目されます。くすぶり続ける反政府運動の火種を抑えつつ、これら政策を推進していけるのか、政府の手腕が試されています。
王室を頂点と位置付ける国
タイは、東南アジア中央に位置する立憲君主制国家であり、唯一東南アジアでヨーロッパからの植民地化を免れた国です。変わった文化が多く存在するタイでは、8時と18時の1日2回、街中やメディアを通じて国歌が流れ、国旗の昇降が行われます。その間、国民は直立不動の姿勢をとらなければいけません。
また国歌とは別に国王を賞賛する「国王賛歌」は、王室関連行事や、映画・演劇の上演前に流され、同様に国民は直立不動の姿勢が求められます。国王賛歌が流れている間、アクションを起こす人は不敬罪にふれ、逮捕される可能性もあります。国民に敬愛される王室を高い地位(タイ仏教の頂点)と位置づけるタイならではの文化といえます。
タイ株式市場について
タイの株式市場には、SETとmaiがあります。SETは大企業が多く上場しており、タイの代表的な株価指数であるSET指数は、SETに上場する全銘柄から算出されています。一方、maiはSETに比べて上場基準が低く設定されており、中小・ベンチャー企業が多く上場しています。SETとmaiの関係は、日本の東証一部とマザーズ(またはジャスダック)に近いでしょう。
また、タイ株式には、主にタイ人向けのL(ローカル)株、外国人向けのF(フォーリン)株、外国人向けNVDR(無議決権預託証券)の3種類があります。私たち外国人投資家がタイ株を購入する際は、一般的にF株かNVDRを選択することになりますが、両者には次のような特徴があります。
- F株:
株主総会等に出席し意思表示できる「議決権」と、配当などの権利を得られる「配当請求権」がある。しかし、L株と分離し取引されているため、L株と株価が異なる。また、流動性が低く、L株に比べて割高に取引されている場合がある。 - NVDR:
「議決権」はないが「配当請求権」はある。株価はL株に連動しており、流動性が高い。
このような特徴から、外国人投資家は一般的にNVDRを取引しています。売買注文する際は、株式の種別に注意しましょう。
主要株価指数と為替相場の推移
代表的な上場銘柄
時価総額トップ5は、国有エネルギー企業の「タイ石油公社(PTT)」、バンコクのスワンナプーム空港とドンムアン空港、南部のプーケット空港などタイの主要6空港を運営する国有企業の「タイ空港公社」、タイ最大級のコングロマリット(複合企業)であるチャロン・ポカパン(CP)グループの中核企業の一つで、セブン-イレブンを運営する「CPオール」、移動通信最大手の「アドバンスト・インフォ・サービス」、台湾のデルタ電子のタイ法人で電源装置大手の「デルタ電子(タイ)」です。これら5社で市場時価総額の2割弱を占めています。
また、トップ10圏外ではありますが、メディカルツーリズムを推進してきたタイでは、「バンコク・ドゥシット・メディカル・サービス」や「バムルンラード病院」などの病院経営企業が数社上場しており、ASEANを代表する企業の一つとなっている点も特徴的でしょう。
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