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かぶかはふしぎでうごいてる??? 第18回 PBRとROE、それに影響するいろんなもの(前編)

2023.05.16 (火)

アイザワ証券 投資顧問部

吉田 大路

かぶかはふしぎでうごいてる??? 第18回 PBRとROE、それに影響するいろんなもの(前編)

最近、株式市場で話題に上がることの多い、PBR1倍割れ銘柄についての議論。PBRが低い銘柄には、何かの理由があると考えられます。中にはミスプライスの銘柄もあるかもしれませんが、これほど多くの銘柄がミスプライスであるとは考えにくいと思われます。

個々の銘柄には個々の銘柄の理由がありますが、それは別の問題として、今回はPBRの水準に影響を与えるROEについて取り上げてみます。

出来るだけ難解な用語を使わないようにして、おおまかなイメージを感じられるよう工夫して書いてみるので、最後まで読んでいただければ嬉しいです。

1. ROEについて

ROE=当期純利益÷自己資本×100(%)

これが、ROEの算出式です。

当期純利益は「会社が1年間の事業活動の結果として株主にもたらした利益」と考えます。自己資本は「会社の資産の内、株主に帰属する部分」と考えます。すると、ROEは株主のお金でどれぐらいの利益をもたらしたかを示す指標となります。

2. ROEがPBRに影響を与えるのはなぜか

かふしぎ第4回で「企業について考える」の題目で文章を書きました。その中で、会社を見る3つの視点として「成長性」「収益性」「安定性」があるとしました。

ROEはこの中で「収益性」にあたる指標になります。少ない元手(自己資本)で大きな利益(当期純利益)をあげている企業は収益性が高いと言えます。見方を変えれば、この会社の自己資本は収益力の高い優れた自己資本なので、自己資本に対する株価が高くなることに違和感はありません。

逆に、ROEの低い会社の自己資本は収益力が低い残念な自己資本なので、自己資本に対する株価が割安になることには納得感があります。

3. 自己資本比率について

自己資本比率=自己資本÷総資産×100(%)

これが自己資本比率の算出式です。

『自己資本』は株主から払い込まれた資本と内部留保がメインになります。これは会社が返却する義務がないので自由に使えるお金です。
(※「1. ROEについて」における自己資本の説明とは異なっていることに気づかれた方もおられると思います。どちらも正しい説明ですが、どのように考えると理解しやすいかを考えて、文章を変えています)

企業は売上高を上げるための資産が必要です。製造業なら工場や工作機械など、小売業なら店舗や設備、不動産業なら土地や建物などがあたります。その他にも色々な資産がありますが、ここでは話を簡略化するために詳細には踏み込まないようにします。会社の資産を全部加えたものが『総資産』です。

負債(借金)は期限が来れば返却しなければならないお金です。通常は借り換えが行われるので自由に使えます。ただ、何かの理由(多くは経営不振)で返済を迫られることがあります。すると、企業は資産を売却して負債を返済しなければなりません。

これをまとめると

総資産=負債+自己資本

の関係になります。これはバランスシートの基本です。総資産は左側に、負債と自己資本は右側に記載されます。

[図-1]バランスシートのイメージ

自己資本比率は総資産を保有するための資金のうち自己資本がどの程度あるか示す指標です。一般的には自己資本比率は高ければ、安定性が高いと考えます。

4. 例をあげて考えてみましょう

例-1

これではどちらが良いのか判断しにくい状況です。

例-2

ROEの水準は同じですが、自己資本比率が企業Cの方が高く、財務的安定性があるのだから企業Cの方が望ましいと考えられます。

5. なぜ企業CはROEと安定性を両立できたのか

繰り返しになりますが、企業はいろいろな資産を利用して営業行為を行い、利益を生み出す努力をしています。この「いろいろな資産」を「総資産」と考えれば企業C100億円の総資産で10億円を稼いだのに対して、企業D200億円の資産を必要としました。効率的には企業Cの方が優れています。

ここで、追加する企業情報として売上高を加えます。企業CD共に100億円の売上高があったとしましょう。他の条件は変化なしです。すると、売上高当期純利益率は10%10億円÷100億円×100%)で同じになり、売上高に対する収益性も違いはありません。

売上高に対する利益は同じ比率のビジネスを行っているのに企業Cの方が効率的であることは変わりません。

理解を深めるために、新たな指標「総資産回転率」を導入します。

総資産回転率=売上高÷総資産(回転)

その売上高はどれぐらいの総資産を利用して得られたものなのか?言い換えれば、売上高は総資産の何倍を上げることが出来たのか?これを測る指標です。財務用語では、この単位をN回転したと言います。1の総資産で10の売上高を得た場合には10回転です。

すなわち、効率的に売上高をあげていると言えます。その結果、ROEと安定性(自己資本比率)を両立できました。

これが企業CROEは同じで、自己資本比率が高くなった理由です。製造業であれば、少ない機械でたくさんの商品を生産した。飲食業であればお客様の『回転』が良く、店舗数は少なくても売り上げはしっかりと立っているようなイメージです。

※ 総資産回転率というと難しく感じますが、儲かっている店が『客の回転が良い』というのは日常でも使われる言葉です。

[図-2]ここまでの説明の図化

次回に続く・・・

執筆後記

PBRを上げるには高いROEが必要なのは理解できても、高いROEを達成するのは簡単にはできません。少ない資産で多くの売上高を上げたい(総資産回転率を高めたい)のは、どの会社でも同じです。

今回(前編)ではROEの説明に続いて、自己資本比率、総資産回転率について説明させていただきました。これは次回でROE分析の定番であるデュポン分解を取り上げるための布石です。

実は、筆者はROEの議論が好きではありません。企業の良し悪しの図るものとしては有用なのでしょうが、業界が異なれば数値の現れ方は異なります。それをひとまとめにして良し悪しを議論することには一歩引いてしまします。

しかしながら、マーケットではROEの議論は必須です。知らないのに非難するのと、知っているが非難するのでは意味が異なります。とりあえず、知識を得てもらい、どうするかは読者の皆様の考えにお任せします。次回は続編になるので、今回に懲りずにまた読んでいただければ励みになります。おおよそ月に一度の発行スケジュールなので、よろしくお願いします。

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ライター

吉田 大路

アイザワ証券 投資顧問部

吉田 大路

2015年アイザワ証券入社。現在は投資顧問部運用課に所属。当社入社以前は証券系投資信託、生保系投資顧問、信託銀行などで約30年間、資産運用業務を行ってきた。基本的にブログやSNSはやらないので、今回の業務に伴う書き込みが初めての体験。

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