Aizawa Market Report ベトナムを襲った台風YAGIと市場の反応
2024.10.03 (木)
ベトナムを襲った台風YAGIと市場の反応
9月7日にベトナム北部に上陸した台風11号(国際名はYAGI)は各地に甚大な被害をもたらした。筆者は2018年5月から約6年間首都のハノイに駐在したが、これほどまでに強い台風に見舞われたことは記憶にない。現地に住む知人からは台風一過後のハノイ市内の写真が送られてきたが、その惨状は筆者の想像を超えるものだった。今回の台風でベトナム北部だけで約300人超の死者・行方不明者が出ており、過去30年間で最大の台風被害とのことだ。今回の台風とその後の市場の反応についてまとめてみた。
台風後のハノイ市内
国営メディアによると、農業・地方開発省では今回の台風による被害額を81.5兆ドン(約33億米ドル)と予測している。最も大きな被害を被ったのは農林水産業で、約19万ヘクタールの水田、約48,000ヘクタールの穀物畑(トウモロコシ、キャッサバ等)が洪水被害を受けた。近年外国企業の進出が進んでいるハノイ周辺の工業地帯や、港湾のあるハイフォン市に加え、人気の観光地であるハロン湾を有するクアンニン省でも大きな損害を記録し、今後の観光業に与える影響も大きいと考えられる。政府は2024年のGDP成長率を前年比+6.5%~7%に目標を置いていたが、計画投資省は今回の台風により下半期の成長率は鈍化が予想されると政府会合で報告し、24年のGDP成長率は0.15%低下すると試算されている。
9月の製造業PMIは47.3で、8月の52.4から大きく下落した。製造業セクターでは、大雨と洪水により製造現場で一時的な生産停止や出荷の遅れが生じ、サプライチェーンや生産ラインに混乱をもたらした。9月の鉱工業生産や個人消費などの経済指標も、前年同期比で鈍化が予想される。
ただ、過去30年で最悪とされる被害にもかかわらず、株式市場の反応は限定的だったと思われる。米国の利下げ期待により7月以降ASEAN諸国の通貨は上昇基調にあり、9月にはベトナムドンも今年2月以来の高値を付けた。VN指数は8月末に1,283ポイントまで上昇していたが、台風の影響で9月16日には1,239ポイントまで下落した。9月17日にFOMCで利下げが発表されると、海外市場に追随する形でVN指数も上昇に転じ、10月1日には一時1,300ポイントを回復した。
VN指数が上昇に転じた理由は、米国の利下げの他にFTSEラッセルによる格上げ期待もあると思われる。ベトナムは前受制度がネックとなりフロンティア市場に分類されているが、財務省は11月2日より海外機関投資家に対する前受制度を撤廃することを決定した。これにより市場分類が第二新興国に格上げされる可能性は高まっており、海外からのマネー流入が期待される。市場の反応とは逆に、被災地の復興には相当の時間を要すると思われる。一日も早く人々が通常の生活を取り戻すことを願ってやまない。
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