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【米国株】量子コンピューター(前編)異次元の計算力、次世代の基盤技術をめぐり国家も企業も主導権争い

2024.01.30 (火)

中国株情報部

島野 敬之

【米国株】量子コンピューター(前編)異次元の計算力、次世代の基盤技術をめぐり国家も企業も主導権争い

【米国株】量子コンピューター(前編)異次元の計算力、次世代の基盤技術をめぐり国家も企業も主導権争い

次世代計算機の量子コンピューターを巡る覇権争いが激化しているようです。国家間では米国と中国が多額の予算を注ぎ込み、研究開発を支援しています。

欧州連合(EU)や日本も指をくわえているわけにもいかず、競争に加わっています。コンピューターの覇権争いといえば、スーパーコンピューターの性能で日米中が三つ巴の争いを続けていますが、量子コンピューターはその完全な延長線上にあるわけでもなく、異なった領域での競争となります。

量子コンピューターでは量子力学というミクロの世界で起こる物理法則を利用し、計算力を飛躍的に高める技術が基盤となります。量子コンピューターの世界では、従来型のコンピューターを「古典コンピューター」と呼んでいますが、古臭いという意味ではありません。古典力学をもとに設計されているため、このように呼ばれているそうです。

量子コンピューターにも得手不得手があるようですが、得意分野の計算力は最新鋭のスパコンを遥かに凌駕します。異次元の計算力はさまざまな分野に活用され、産業の技術革新を促すと期待されています。ただ、実用化には課題も多く、本格的に運用されるまでには長期の研究が必要との見方も根強いようです。

とはいえ宇宙開発や暗号技術、軍事防衛などにも利用できるとみられるため、国家間の開発競争激化は当然の帰結です。中でも中国は力を入れており、2017年には中国東部の安徽省合肥で量子技術の研究拠点である「量子情報科学国家実験室」の建設に着手。2020年に第1期が完成しています。

このほかにも中国政府が総額で1000億元(約2兆400億円)以上を投じ、量子技術の研究開発を支援するとも報じられています。内閣に当たる国務院の直属の研究機関である中国科学院とアリババ集団(BABA)が共同で研究を進めるほか、中国科学技術大学が巨額の研究費を獲得するなど産官学が一体となって米国を追い上げています。

中国に先行を許すわけにもいかない米国も産官学の協力を強化しています。トランプ政権下の2018年12月に「国家量子イニシアチブ法」が成立し、研究開発の体制を整備する方針が打ち出されました。さらにバイデン政権も2022年5月、量子技術の研究開発を加速させるための大統領令を出しています。

米国の民間企業ではスタートアップからIT大手まで数多くの企業が量子コンピューティングというフロンティアの開拓に果敢に挑戦を続けています。新たな技術を切り開くための挑戦こそ米国の競争力の源泉です。ということで今回は量子コンピューターの研究開発や商用化に取り組む企業をご紹介します。

IBM、量子コンピューターの分野でも先頭集団

1911年に3社の合併を通じて誕生したIBM(IBM)の歩みは、コンピューター発展の歴史とかなりの部分で重なり合っているようです。コンピューターメーカーとしては後発でしたが、1964年に発表した大型の汎用コンピューター「システム/360」が大成功し、確固たる地位を築きます。

コンピューターの発展とともに歩んできたIBMは量子コンピューターの分野でも先頭集団を構成しているようです。2016年にはクラウドを通じて5量子ビットの量子コンピューターを一般に公開し、2017年には16量子ビットの量子コンピューター「IBM Q」を発表しています。

量子コンピューターでは、通常のコンピューターのように0と1の2進法ではなく、0と1の量子力学的な重ね合わせ状態を情報処理の基本単位(量子ビット)として利用します。重ね合わせた状態を活用することで、膨大な組み合わせの計算を並列して実行できるため計算能力が高いという理論です。

 

IBMは2021年に127量子ビットのプロセッサーを発表しました。プロセッサーの名称は米国を象徴する「Eagle」(ワシ)です。量子ビットが100を超えるプロセッサーを導入するのはIBMにとって初めてでした。

そして2023年6月、IBMは量子コンピューターが古典コンピューターを上回る性能を発揮できることを初めて実証したと発表しました。実証実験には127量子ビットのプロセッサー「Eagle」を使用しています。

量子コンピューターと古典コンピューターを使い、物質の構成要素をシミュレーションする性能を比較しました。量子コンピューターでは依然としてパフォーマンスを阻害するエラーが大量に発生しますが、システム内のエラーを学習して軽減することで、量子コンピューターが最先端の古典コンピューターを凌駕できることを実証したのです。

25年までに4000量子ビット超のプロセッサーを開発へ

IBMは2025年までに4000量子ビット以上のプロセッサーを開発するというロードマップを掲げ、開発に取り組んでいます。また、産学連携にも積極的で、2023年には東京大学とシカゴ大学に今後10年で合わせて1億ドルを投資し、量子コンピューターの研究開発を支援する方針を打ち出しています。

IBM(IBM):業績推移

東京大学には量子コンピューター分野での日本企業との連携や需要の吸い上げなどを期待し、シカゴ大学には量子コンピューターと古典コンピューターの組み合わせに関する研究の成果を期待しているようです。IBMのクリシュナ最高経営責任者(CEO)は大学との提携を通じ、10万量子ビットを搭載する量子コンピューターを2033年までに開発する方針を示しています。

IBMは技術開発の最前線で他社と競い、激しいつばぜり合いを演じています。100年企業が持つ大きな目盛の時間軸に基づき、新しいコンピューターの時代の扉を着実に開いている印象です。

記事提供:DZHフィナンシャルリサーチ「いまから投資」(https://imakara.traders.co.jp/

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ライター

島野 敬之

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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