ベトナム市場の株価下落と今後の見通し
2022.10.12 (水)
今年9月以降、ベトナムVN指数は戻り高値の1300ポイントから株価下落のペースが加速し、10月11日に一時1,000ポイントの大台を割り込むなど、年初来安値を更新しています。ベトナム市場の株価が大幅に下落した主な要因として以下の点が考えられます。
※ベトナムVN指数の値動き。2022年9月以降株価下落のペースが加速しています。
ドン安
8月26日に開催された米ジャクソンホール会議で、米国の利上げ継続路線が鮮明になり、ドル高が今後も進行するとの見方から、新興国通貨の対米ドルレートは軒並み大幅に下落しました。その中で、ベトナムドンの対米ドルレート8月末の1米ドル=23,451ドンから10月11日の1米ドル=23,914ドンへと急速に通貨安が進み、株安を誘発しました。
ベトナムの為替管理制度は、当局が決める一定レンジ内において自由な取引を認め、為替レートに大幅な変動が生じた場合は為替介入を行うという管理フロート制を取っています。今年3月時点で、このレンジは1米ドル=22,550ドン~23,050ドンでした。その後、ドル高の進行に伴い、今年5月にレンジの下限値(ドン買い・ドル売り介入の目安値)は1米ドル=23,250ドン、7月に23,400ドン、9月に23,700ドン(9月7日)、23,925ドン(9月30日)まで切り下げられました。
本来、管理フロート制なので、ベトナム当局はドン買い・ドル売りの為替介入を実施し、レートを一定水準に保つべきですが、ベトナムの外貨準備高は約1,000億米ドルと少ないため為替介入は難しく、外貨準備を温存するためにドン安を容認する姿勢を取った(為替レンジの下限を切り下げた)と思われます。
※ベトナムドンの対米ドルレート。2022年9月以降、ドン安が急速に進行しています。
新興国は一般的に海外から投資を呼び込んで経済発展を遂げる(不動産や航空業界などはドル建て負債が特に多い)ため、通貨安=株安になるケースが多く、米国の大幅利上げ継続とこれに伴うドン安、そしてベトナム当局のドン安容認姿勢は9月以降のベトナム株急落を誘発したと思われます。
100ベーシスポイントの大幅利上げ
ベトナム当局は外貨準備温存のために対米ドルレートのレンジ下限を数回にわたり切り下げましたが、ドン安を放置すると企業の外債利払い負担増加や輸入インフレを招きかねないため、景気安定化に向けてドン安に歯止めをかける必要があります。そこで、ベトナム国家銀行(中央銀行)は9月22日に政策金利であるリファイナンス金利を4.0%から5.0%に、公定歩合を2.5%から3.5%へと大幅に引き上げました。
政策金利の引き上げは、ドン安に歯止めをかける効果が期待できる反面、企業業績への悪影響と株式の魅力低下(預金金利が上昇するため)をもたらします。
※ベトナムの政策金利の推移。9月22日に100ベーシスの大幅利上げが行われました。
ベトナムでは今年3月頃から不動産の不正融資と不良債権が問題になっており、FLCグループやタンホアンミン不動産の社⾧逮捕などで市況が低迷していましたが、そこに大幅利上げが行われたことで、不動産のみならず幅広い業種への悪影響が予想されます。
また、足元ベトナムの9月消費者物価指数は前年同期比+3.94%と他の国に比べてインフレ圧力が相対的に小さく、ドン安に歯止めをかけるために継続的な利上げが行えるかどうかに疑問が残ります。
今後の見通し
ベトナムは経済指標面において実質GDP成⾧率は1~9月に前年同期比+8.8%と好調で、企業業績も高成⾧が続いているものの、3月に不動産融資問題・不良債権問題が表面化し、米国の大幅利上げ継続によりドン安が進行していることから、「ドン安と利上げに対する懸念>足元堅調な経済状況」という状態になっています。
投資家の関心は、ドン安や利上げによる経済全体への影響(金融引き締めに伴う流動性収縮)に向いており、売買代金も減少傾向で当面は株価下値模索の展開になりそうです。その中で、個別銘柄選びは難しいところですが、比較的業績が好調、もしくは脱コロナからの消費回復期待がある食品・飲料や小売など消費関連株に注目したいと思います。
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