【米国株】S&P500新規採用銘柄(前編):ビッグデータ解析のパランティアは業績堅調
2024.10.18 (金)
S&P500は米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。米国株式市場の時価総額の約80%をカバーしています。
構成銘柄に採用されるには米国企業であることが前提で、それは米国内での売上高や固定資産、本社所在地などで判断されます。このほかの要件は◇過去4四半期の純損益の合計が黒字で、直近の四半期の純損益が黒字◇流動性比率の高さ(過去6カ月間の月間売買高が最低25万株)◇浮動株比率が50%以上◇時価総額が180億ドル以上◇新規株式公開(IPO)から12カ月以上経過(構成銘柄からスピンオフした銘柄はその限りではありません)◇グローバル産業分類標準(GICS)の分類に基づく産業バランスが適切――などです。
今回は2024年6-9月に晴れてS&P500に採用された銘柄のうち、前編としてパランティア・テクノロジーズ(PLTR)とイリー・インデムニティー(ERIE)をご紹介します。
パランティア・テクノロジーズ、AI駆使でビッグデータ解析
人工知能(AI)を駆使したビッグデータ解析のソフトウエアを開発するパランティア・テクノロジーズは着実に業績を伸ばしています。四半期ベースでは2022年10-12月期に初めて純損益ベースで黒字に転換し、その後は7四半期連続で黒字を維持しました。また、2024年4-6月期まで4四半期連続で売上高と純利益が過去最高を更新しています。業績面ではS&P500の採用基準を軽々とクリアしているのです。
パランティアの共同創業者として知られるのは、オンライン決済サービスのペイパル・ホールディングス(PYPL)の共同創業者であり、投資家としても有名なピーター・ティール氏です。テスラ(TSLA)を創業したイーロン・マスク氏と並び、「ペイパル・マフィア(実業家として成功したペイパル出身者)」の中心人物として知られています。
「パランティア」という社名は「指輪物語(映画:ロード・オブ・ザ・リングの原作)」に登場する黒い水晶に由来しており、物語の中では遠方を見ることができる不思議な水晶として描かれています。指輪物語はティール氏の少年時代の愛読書で、その中に登場する水晶の名前を拝借したのです。
パランティアの創業は2003年。2001年の米同時多発テロを受け、膨大なデータを解析してテロを未然に防ぐソフトウエアを開発するという創業者らの使命感が結実し、誕生しました。主要顧客には米国防総省、米軍、米中央情報局(CIA)、米連邦捜査局(FBI)など強面の組織が名を連ね、安全保障を左右するような極秘情報を取り扱うプラットフォームを提供するだけに、2020年にニューヨーク証券取引所に上場した後も「謎多き企業」というイメージがつきまとっていました。
実際にはデータ分析のためのソフトウエアを情報機関などに提供しており、パランティアが膨大なデータを預かって解析を手掛けている訳ではありません。しかし、米国政府がアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の隠れ家を突き止めるのに同社の技術が使われたと報道され、「テロとの戦いの秘密兵器」と形容されるなどちょっと怪しい企業というイメージが広がりました。
米国政府との関係は密接で、特にティール氏はトランプ前大統領の熱烈な支持者として知られていました。ただ、今回は支持を撤回したとも報じられており、その代わりではないのですが、イーロン・マスク氏によるトランプ氏への支持が目立っています。
パランティアは米国の安全保障にかかわるビジネスのため対立する国の政府とは取引しない方針です。パランティアがニューヨーク上場前に米証券取引委員会(SEC)に提出した上場目論見書には中国共産党とは協力しないと明記されています。
顧客数も少なく、2023年の年次報告書によると、わずか497。時価総額が日本円で約12兆円に上るソフトウエア開発の企業としては異様ともいえる少なさです。
しかも売上高ベースで上位20の顧客の平均売上高は5460万ドルで、合わせると約10億9200万ドルに達します。2023年12月期の売上高は22億2500万ドルだったので、上位20の顧客だけで売上高のほぼ半分を占める計算です。
売上高に占める政府機関向けの割合は55%で、民間企業向けが45%です。主に政府機関向けに提供するのが「ゴッサム」と呼ばれるソフトウエアのプラットフォームです。ゴッサムは、映画「バットマン」が活躍する犯罪都市ゴッサム・シティーを連想させるもので、「バットマン」シリーズの漫画の発行元であるDCコミックスがパランティアの商標登録を差し止めると伝わっていましたが、最終的に「パランティア・ゴッサム」として定着しています。
「ゴッサム」ではデータの統合・分析を比較的容易に実行できる技術を提供し、意思決定の最適化を支援しています。テロや災害への対策、サイバーセキュリティーといった用途が多く、必然的に政府機関の利用が多くなりますが、不正行為の調査などで金融機関も活用しているようです。
「ファウンドリー」と呼ぶソフトウエアのプラットフォームは、主に民間企業が利用しています。データの中央運営システムを構築する仕組みで、必要なデータの統合と管理、解析のツールを総合的に提供します。センサーなどの技術の発達に伴い収集されるデータは膨大になっていますが、それに対応するためデータの統合と解析を通じて企業の意思決定も支援しているようです。特に航空、エネルギー、ヘルスケアなどのセクターでの利用が活発なようです。
イリー・インデムニティー、保険の管理業務事業者
イリー・インデムニティーは、ペンシルベニア州を拠点に保険の管理業務を手掛けています。創業は1925年で、来年に100周年を迎えます。
主力事業は、同じく来年に創業100周年を迎える損害保険会社、イリー・インシュアランス・エクスチェンジの管理業務の代行です。保険証券の発行や契約更新、保険金請求の処理、投資管理、保険の引き受け、代理店報酬管理、広告サポートといったサービス業務を請け負います。
イリー・インシュアランス・エクスチェンジは、損保子会社のイリー・インシュアランス、イリー・インシュアランス・プロパティー&カジュアルティー、生保子会社のイリー・ファミリー・ライフ・インシュアランスなどを抱えており、イリー・インデムニティーはこうした子会社にもサービスを提供しています。
収入の大半は管理サービスの手数料です。業績は順調に成長しており、2023年12月期決算の売上高は前年比15.1%増の32億6900万ドル、純利益は49.4%増の4億4600万ドルと2桁の増収増益でした。売上高が増えるのはこれで10年連続です。
記事提供:DZHフィナンシャルリサーチ「いまから投資」(https://imakara.traders.co.jp/)
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