株式市場の視点 懸念材料をまとめてみる
2022.03.16 (水)
懸念材料をまとめてみる
通常時と異なる株価の反応
金融市場を取り巻く環境は混迷しており、株式市場は軟調に推移しています。今回のウクライナ情勢においては、株式市場の格言にある「銃声が鳴ったら買え」「遠くの戦争は買い」が当てはまらない状況となりました。
また、一般的に株式は「インフレに対応する」(※)役割を担うことが望まれる資産ですが、今回はインフレが株式市場の懸念材料となり、株価の重荷になっています。
※「インフレヘッジ」の資産と呼ばれることもあります。
国内のインフレ・景気への対策は出来るが、海外要因に対しては影響が小さい
インフレの原因が国内景気の過熱による場合には金融引き締めで対応できますが、海外発の物価上昇(石油価格など)に対しては影響力が小さいです。当たり前ですが、ウクライナ情勢の緊迫化によるエネルギー価格の上昇に対してFRBが金利を上げても影響は小さいと思われます。
ただ、国民生活や政治的にはインフレに色分けがありません。物価が上がると対応策が求められます。株式市場で懸念されているFRBの金融引き締めが米国景気を必要以上に冷ましてしまうことへの懸念(オーバーキル懸念)は、これが背景となっています。そして、この状況が悪い方向に進むと物価が上昇する中で景気が失速する状況(※)を懸念させてしまいます。
※「スタグフレーション」と呼ばれる悪い状況の経済情勢です。
ウクライナ情勢の引き起こしたこと
戦争についてのことは別にして、経済的な問題に限定してまとめます。
- ロシアが世界第3位の石油産出国であることに代表されるよう、ロシアが原油需給に与える影響は大きく、エネルギーを初めとする一次産品価格の高騰を通じてインフレを高めます。
- ロシアに対する経済制裁は制裁を行った国にも影響を与えます。欧州を中心にロシアとの経済行動が停止することによる経済活動面での低下要因。ロシアへの金融制裁が「1998年のルーブル危機」のような状況を引き起こさないかとの懸念などが代表的なものです。
コロナ禍と環境対策
- 現状のインフレの発端はコロナ禍からの急回復による物流の混乱、人手不足、サプライチェーンの混乱などによります。コロナ禍の影響は次第に薄れてきていますが、経済的な影響は依然として残っている業界は多いです。
- エネルギー不足の一端を担っているのが環境対策推進による従来型エネルギーへの投資縮小です。長期的には正しい選択なのですが、足元的にはエネルギー問題を難しくしています。
地域によって状況は異なる
- 米国や中国は景況感が比較的強い国です。特徴としては住宅価格の上昇がインフレ問題となっている国です。これは国内景気が強いことが背景としてあり、金融引き締め政策で住宅価格の鎮静化が出来ればインフレを弱めることが出来ます。
- 欧州はウクライナ情勢もあり景況感が厳しくなりつつあります。ECBが量的緩和については終了に向かうものの金利引き上げに慎重なのは、ここが背景にあります。※欧州の量的緩和は「パンデミック緊急購入プログラム」であったことも理由です。
- 日本でも物価上昇が局地的に生じていますが、背景は景況感が強いからではなく、高まるコストを転嫁している側面が強いです。我が国の状況に応じた政策の進展が望まれる所です。
株式市場の光明
これまでも厳しい環境下で株価が軟調に推移した局面は何度もありますが、結果的には対処策が現れ、株価は上昇に転じてきました。転換のきっかけとなる事象を敏感に感じ取りたいものです。
- TOPIXベースのPBRは04倍まで低下してきました。日本株の割安感は一層強まってきました。
- 高成長期待が高く株価上昇が著しかったハイパーグロース株の株価反転から始まった調整局面でしたが、財務体質が堅固でビジネスモデルが確立している企業まで売られ始めています。優良銘柄まで売られる最終局面に近い相場内容になりつつあります。
- 今回は株価反転の契機にならなかったものの、戦争は「壊したものを再度作る」という意味では「穴を掘って埋める」公共工事と同じ景気浮揚効果があるものです。そのため、「戦争は買い」的な相場格言があるのです。
本当に株価格言として存在するのか不明ですが「最大の悪材料は株価が上昇することで、最大の好材料は株価が下落すること」のような話もあります。現状を懐疑的に見る姿勢を持つこともマーケットに対するコツかもしれません。
図表で見る株式市場
- 上表は、各国の株式市場の過去240日間の高値と安値の下落率を計算したものになります。株式市場では「高値から20%以上下落」すると弱気相場入りと言われることがあります。
- 多くの国で20%の境目の攻防戦となっています。好材料が出て弱気相場入りせずに反発するのか、悪材料が出て弱気相場入りするのか。この格言からは分岐路にいる状況です。
- 高値を付けた位置が異なるため、単純比較はできませんが、地政学的な意味の異なる欧州と日本が同じ下落率というのは腑に落ちない部分もあります。
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