当記事は2023年11月13日発行「アイザワ・グローバルマンスリー11月号」より抜粋しております。
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インフレで脚光を浴びる格安EC「Temu」

近年、中国発のインターネット通販企業が海外展開を拡大している。中国で通販「拼多多（ピンドゥオドゥオ）」を展開するPDDホールディングス（米国：PDD）の傘下企業が、昨年9月に「Temu（ティームー）」と呼ばれる新しいECサービスを開始した「Shop・like・billionaire（億万長者のように買い物をしよう）」というキャッチフレーズと圧倒的な低価格戦略のもと、サービス開始からわずか1年弱で欧州や南米など約30か国に展開し、今年7月日本にも進出した。米コンサルティング会社グローバル・ワイヤレス・ソリューションズによると、米国での月間利用者数は6月に7500万人強と、アマゾンの半数にまで達した。2023年46月期の全世界の人気アプリダウンロードで世界9位を記録し、ダウンロード数は7400万を突破した。

なぜここまで「Temu」が急速に人気を博しているのか。マクロ的な要因として世界的な高インフレによる節約志向の高まりが考えられるが、同社固有の要因として、商品の低価格設定と品揃えの豊富さ、積極的なマーケティング手法が挙げられる。まず、安さの秘訣は徹底的なコスト削減である。Temuで出品する商品は、中間業者を介さずに生産者と直接取引することでコストを抑えている。また商品の値付けから販売、マーケティング、物流、アフターサービスなど一連のプロセスは全てTemuが担当し、出品者（サプライヤー）はTemuの倉庫に直接商品を送るだけで手軽に海外ECを始められるため出品者側の利便性が高い。配送は中国国内の第三者宅配サービスプロバイダーと提携しており、海外ECの課題である配送期間を短縮化させている（注文後約57日）。次に品揃えの豊富さについては、アパレルや日用品、インテリア、家電など幅広く手掛けているため、競合他社に比べて様々な顧客のニーズに応えやすく、短期間で顧客数が急拡大した一因となった。

そしてマーケティング手法について、Temuはソーシャルメディア（SNS）を利用したオンライン広告やゲーミフィケーション、紹介制度を採用している。これはユーザーが楽しめる様々なゲームを提供し、無料ギフトや割引クーポンを獲得するために、SNSを通じて紹介リンクを共有させるという方法である。こうすることで短期間に複数のリンクの共有・アプリのダウンロードが行われ、新規ユーザーの獲得につながる。破格の割引で消費者を取り込み、日用品から家電まで豊富な品揃えでアプリ内を「周回」させてリピートを増やす戦略を用いている。実際、TikTokのハッシュタグ#temuは3億9430万回以上も表示され、大きな話題となった。

中国発のECアプリでは、衣料や雑貨を中国から安価に輸入できるアパレル系EC・SHEIN（シーイン）もTemuと同様に世界で利用者が急増している。こうした中国ECのシェア争いの舞台が海外にも広がりを見せるなか訴訟にも発展している。Temuは7月14日、SHEINが反トラスト法（独占禁止法）に違反しているとして米連邦地方裁判所に提訴した。Temuが東南アジアや中南米・中東などの市場に進出するのにつれ、中国の格安EC企業によるシェア争いは更に激しくなることが予想され、インフレ環境下で個人消費を取り込む存在として注目したい。

※「以新伝心」は、新しい出来事に着目し、心に伝えることをコンセプトにしたコラムです。投資の推奨を目的としたものではありません。

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