以新伝心 セブン買収を巡る背景と両社の攻防
2024.09.24 (火)
セブン買収を巡る背景と両社の攻防
8月19日、セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブンは、カナダのコンビニエンスストア大手であるアリマンタシォン・クシュタール(以下、アリマンタシォンから買収提案を受けたと発表。同日、セブンの株価はストップ高で終わるなど、時価総額5兆円を越える過去最大級の買収案件に対する注目が集まった。なぜこれほどの大型案件が持ち上がったのか、その背景と経緯について整理してみたい。
もともとセブンイレブンは米国発祥で、1973年にイトーヨーカ堂がライセンス契約を結んだことで国内に普及した。その後、大型ショッピングセンターや安価なアパレルチェーンの台頭にイトーヨーカ堂の業績が低迷。一方で子会社のセブンイレブン・ジャパンはコンビニのビジネスモデルを確立したことで急成長を遂げ、時価総額は親会社のイトーヨーカ堂を上回るようになった。そこで、イトーヨーカ堂、セブンイレブン・ジャパン、デニーズジャパンの三社の株式移転により持ち株会社のセブンが誕生。米セブンの前身であるサウスランド社(セブンイレブンインク)も買収するなど規模を拡大させた。ただ最近は、牽引役のコンビニ事業がインフレの影響で苦戦する他、イトーヨーカドーの不採算店舗の閉鎖など事業全体の成長に陰りが見え始めている。
買収を提案したアリマンタシォン1980年にカナダのケベック州でコンビニ1号店を出したのが始まり。2001年に米国進出、2003年「サークルK」の運営会社を買収。その後も世界各地でMAを駆使し業績を拡大させてきた。米国のコンビニはガソリンスタンドと併設されている場合が多く、アリマンタシォンでも、売上高の約7割を燃料販売が占めている。しかし、世界的な脱炭素社会への移行に伴い、中長期的にはガソリン車の利用が減少する懸念や、ガソリン販売は価格変動に影響されやすく、収益が不安定になりやすい。このような状況下で、燃料販売の依存度を下げるため、食品分野に強みを持つセブンを買収し、燃料に依存しすぎないコンビニ経営を模索する狙いがあった。
買収の引き金となった背景は他にもある。セブンの経営効率の低さから株式市場での評価が低水準に留まること、円安により日本企業が買いやすくなったことだ。また、2023年に経済産業省から示された「企業買収における行動指針」も影響している。この行動指針では、真摯な買収提案に対しては真摯な検討を行わなければならないとされ、もし提案を断る場合でも、結論に至った理由や根拠を明確に説明しなければならない。つまり、外資の傘下に入りたくないという感情的な反対だけでは拒否できないようになった。
現在、セブンは外国為替及び外国貿易法安全保障上重要な日本企業への外資による出資を規制する法律)で最も規制が厳しい「コア業種」分類への格上げを申請したと報じられており、セブンは買収のハードルを上げる方向に動いていると思われる。今後、セブン以外の有力な日本企業でも、外資による買収案件が増える可能性があり、当該案件はその流れの序章にすぎないのかもしれない。
※「以新伝心」は、新しい出来事に着目し、心に伝えることをコンセプトにしたコラムです。投資の推奨を目的としたものではありません。
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